スタッフとラインの協力関係を強化するには − 「X理論」と「Y理論」⑫

スタッフとラインの間には、X理論を前提としているために、権力の争奪において軋轢が絶えません。

スタッフとラインの協力関係を強化するためには、Y理論に基づく相互信頼の醸成もさることながら、マグレガーは、権限と責任の関係および自己統制の原則について特に考慮しなければならないと指摘します。

権限と責任の関係

伝統的な「権限・責任一致の原則」の問題です。これは「自分で管理できないものは責任を負うことができない」という意味において正しい原則です。

ただし、X理論の問題として度々取り上げられてきたとおり、そもそも「権限によって管理できる」という仮説自体が間違っているという点が重要です。

相互依存関係においては、権限による命令統制によって、一方が他方を常に管理することができると考えてはいけません。さもないと、ラインとスタッフの軋轢がなくなることはありません。

事態に関係する要素を統制できないような状況のもとで、目標を達成する責任を負うことは難しいことですが、現実社会では複雑な相互関係の中に置かれているため、そのような状況は日常茶飯事です。

それは企業においても同様であり、経営者の権限が及ばないステークホルダーとの相互関係に配慮しなければならないことは、むしろ当然のようになっています。

ですから、ラインとスタッフの問題についても、権限・責任一致の原則を強調することによって解決することはできません。信頼が前提になければなりません。

自己統制の原則

Y理論に基づき、ライン管理者がスタッフ部門を活用する場合、自己統制の原則に重きを置くことになります。スタッフを会社全体の資産とみなす必要があります。

スタッフ部門が作る資料や報告は、部下の仕事を管理するためにではなく、管理者が自らの仕事を管理するために提供されるべきです。

スタッフは管理者にサービスを提供するのであり、管理者の代理人として部下を管理するのではありません。管理者が権限委譲を行うのは、スタッフに対してではなく、部下に対してです。

部下に権限委譲するということは、部下の仕事の成果に関心を持ち、仕事の遂行方法の詳細については部下の自己統制に任せるということです。部下に対する信頼なくして権限委譲はできません。

部下の自己統制を可能にするためには、部下の仕事に関わる情報や資料は、部下本人に提供されなければなりません。自らの仕事で生じた問題は、自ら誤りを見つけて改善できることが原則です。

部下の仕事によって生じた問題を管理者が把握し、改善が見られないようであれば、スタッフにそれを処理させるのではなく、管理者が部下に直接、問題の分析と改善を行わせなければなりません。

なお、Y理論は純粋理論であり、理想形ですから、自己統制に関しても絶対的で完全なものを求めなければならないわけではありません。当然、部下の責任感、仕事の熟練度などに応じて、自己統制が制限されることはあり得ます。

スタッフの適切な役割

主要なスタッフ部門の役割は、各層の管理者に対して専門的援助を与えることです。

本社にも現場にもスタッフがいる大企業では、本社のスタッフ部門がすべての階層の管理者に援助を提供するのが自分たちの職務であることを認め、スタッフ全体の意識を合わせることが大切です。

専門的援助を提供することにおいて最も肝心な点は、どのような援助が必要かを決めるのは、常に受け手である管理者であるということす。

ところが、本社のスタッフ部門は、恩情主義的な態度で、現場機関に関する多くの措置に効果があるもっともらしい理屈をコネ上げる傾向があり、その結果、自分たちが不適切な統制の方法を取っていることに気づきません。

それでいて、現場の反応が良くなければ、現場が反抗的で、愚かで、会社の要請に無関心であるなどと言います。

援助において、標準化と能率は一致しません。援助を提供する管理者にとって必要なものが最も能率的であるということです。

会社の目標を達成する決定は、技術的にも科学的にも健全なものである必要がありますが、決定を実行するのはラインの従業員であることを忘れてはいけません。

専門的に優れたものであれば何でも従業員は実行できるはずだし、実行すべきであると考えるならば、もはや援助を逸脱した越権であり、組織の秩序を乱し、むしろ能率を低下させてしまいます。

なお、受け手である管理者が必要な援助を決めるのですが、これをX理論に基づいて実行してしまうと、管理者の命令に従うという理解になりがちです。

そうなると、管理者に代わって部下の目付役という役割を押し付けられることが起こります。

この役割は、援助者としての役割とは明らかに矛盾しますので、このような場合のスタッフ部門は、スタッフ部門のあり方について管理者を教育する役割を受け持たなければならなくなります。

マグレガーが示すスタッフ部門の典型的な援助には四種類あります。

戦略策定に当たっての援助

問題分析や調査技術を駆使するスタッフ部門の専門知識および技量を、経営上層部の戦略策定に活かすものです。

ところが、実際は、計画や施策の実施を管理させられ、いわゆる火消し役の役割に翻弄されているスタッフ部門が少なくありません。スタッフ部門の専門知識が、管理者の尻拭いに利用されている典型例です。

問題解決に当たっての援助

特定の問題に関する援助であり、すべての管理階層に及びます。

このような援助で陥りがちなのは、援助は受け手によって定められるべきであるという原則を忘れてしまうことです。

特に本社スタッフ部門が現場管理者を援助しようとする場合に、画一的な援助策の押し付けが行われがちです。

スタッフ部門にとって、管理者は顧客の立場であることを忘れてはいけません。顧客の必要をまず直接引き出し、顧客が満足する解決を援助しなければなりません。

最も効果的な解決は、顧客が専門家の援助によって、自分自身で解決方法を作り上げていくことです。顧客が自分の問題を診断するのを援助することが決め手です。

これが、ラインがスタッフを信頼するようになる方法そのものです。

管理統制に関する援助

自己統制の原則では、管理者が部下を管理するために使用する情報を、スタッフに要求してはいけません。スタッフが援助するのは、自己統制のためだけです。

会社の「調整」機能を支援する場合もあります。「調整」とは、経営方針や手続きに関し、会社を監視することです。

「調整」には、ある個人に対し、本来の筋道を外れていると警告したり、今考えている行動が経営方針に反することになる場合にそれをあらかじめ警告することが含まれます。

このような情報は、その個人の自己統制に関わるため、本人以外には漏らさないことが厳守されなければなりません。

サービスの提供

ラインの運営に関わる機能について、スタッフ部門がサービスとして代行するものです。

例えば、機械保守、工場安全、給与支払い、給食施設、法律に関する措置、資料処理、福利厚生などがあります。

このようなサービスは、ライン部門がコア機能以外のものをアウトソーシングするのと同じ発想ですが、このようなサービスに専念しすぎると、本来的なスタッフ機能であるライン管理者の援助がおろそかになる危険があります。

スタッフとラインの区別

スタッフとラインの区別が、組織上なくなることはないと考えられますが、スタッフとラインの関係がY理論に基づく理想型に近づくにつれて、スタッフの役割は、ライン管理者の役割の鏡とみなすことができるようにもなります。

管理者の部下に対する最も適切な役割は、部下の教師、専門的援助者、同僚、コンサルタントだからです。専門家と顧客との関係と同等であり、理想的なスタッフとラインとの関係と同じなのです。

ラインであれスタッフであれ、すべての従業員(特に管理者)は会社の目標を達成するうえにおいて、会社の他のメンバーと協力する責任があります。

各人は、自分の仕事を統制すること、自分の職務を果たすために他の人々からの援助を求めること、自分の持っている知識や技術や経験を他の人々に利用してもらうことに関心を持ちます。

各階層の管理者にとって、チームが大切であることがこれまで以上に分かるようになります。会社の目標を達成するためには、個人的な権限や権力を仕事の要請に合わせなければなりません。

目指すべきは、人材を動員して問題解決案を作り、最善の決定をし、戦略措置をすることです。