戦略・組織と人事管理 − 「人事管理」とは何か?①

人事管理の課題は、事業活動を円滑に遂行するうえで必要とされる質の労働サービスを、必要とされるときに必要とされる量だけ適正な価格で確保することです。

多くの会社が成果主義を標榜して人事管理の改革を進めてきました。しかし、成果主義は最近に始まったことではありません。これまでも人事管理は業績管理に基づいて成果主義的であったからです。

例えば、製造部門では、Q(品質)とC(コスト)とD(納期)が現場の業績を管理するための重要な指標として使われてきました。現場の管理監督者は、これらQ・C・Dで設定された目標を実現するために努力し、その目標の達成の程度によって評価されてきました。

近年、新たに成果主義が導入されてきたのではなく、業績管理と成果主義がどのように変化しているのか、という視点を持つ必要があります。

ただし、その前提として、会社における「業績」の意味が明らかでなければなりません。業績は、会社の経営戦略や組織などのあり方によって決まるということを理解する必要があります。

更に、会社の経営戦略や組織などのあり方は、「市場に対して会社がどのように対応しようとするのか」によって決まります。

市場が変化すれば、会社の戦略や組織も変化し、それに従って人事管理も変化しなければなりません。

業績管理と人事管理

「業績管理」とは、業績目標を設定し、それによって部門や個人の働きの成果を評価することを通して、効率的・効果的な組織運営を図るための管理活動です。

ただし、業績評価の結果をヒトの評価にどのように結びつけるかについては、多様な選択肢があります。この結びつけ方の方針が、人事管理を大きく左右します。

その際には、「長期的な視点から見た労働意欲の維持・向上」と「人材育成」を考慮しなければなりません。短期的な視点で業績評価を人事管理に反映させるなら、現在の労働意欲を刺激するかもしれませんが、長期的な視点に立った労働意欲の維持・向上や人材育成とは必ずしも両立しません。

短期と長期のトレード・オフの関係を考えながら、業績管理と人事管理の最適な連結を可能にする仕掛けを作らなければなりません。

部門や個人の活動が経営目標に貢献するように管理活動を行う場合、人的資源を各部門に適正に配分するための「投入に関わる管理」(人材供給の管理)と、人的資源を活用して各部門に成果をあげてもらうための「産出に関わる管理」(人材需要の管理)の2つの側面があります。

「投入に関わる管理」に主に対応するのが人事管理であり、「産出に関わる管理」に対応するのが組織と業績管理です。

仕事のプロセスにおいては、個人の能力と労働意欲が仕事に投入され、成果があがります。その過程での個人の働き方は、組織と業績管理によって決まります。組織が「期待役割」(個人が担当する仕事)を決め、業績管理が「期待成果」(仕事を通してあげることが期待される成果)を決めます。

人事管理は、個人が期待役割を果たして期待成果をあげられるよう、適切な能力と労働意欲を持った適量の人材を仕事のプロセスに配置し、その能力と労働意欲の発揮と維持・向上を図ります。

組織と業績管理の決定は、経営目標の設定に始まります。

経営目標を実現するために、長期的な視点から経営戦略が立てられ、組織が設計され、個人の業務内容(期待役割)が決まります。短期的な視点から経営計画(一般的には1年計画)が立てられます。

業績管理においては、組織と経営計画に基づいて部門レベルの成果目標(業績目標)が設定され、それが個人レベルに細分化され、個人の期待成果として設定されます。実際の成果は、期待成果に基づいて評価され、経営計画などの適切な段階にフィードバックされます。

業績管理の仕組みは、管理分野ごとに設定されます。例えば、職能分野別の研究開発管理、生産管理、営業管理などであり、職能横断的な財務管理、予算管理などです。

成果目標(業績目標)の設定に関しては多様な形態があり、大きく分けると、売上、コストなどの「貨幣尺度に基づく目標」と、生産量、品質などの「物量尺度に基づく目標」とがあります。

職能分野によって、設定し得る目標の形態は異なり、どのような形態を選択するかによって、社員の働き方に影響を与えます。したがって、最上位の経営目標を部門目標や個人目標に翻訳していくに当たっては、明確で一貫した方針が求められます。

経営戦略と業績管理の現状

経営目標の設定に当たっては、経営者が「誰の利益を優先するのか」が重要です。

経営者に対する調査結果によると、これまでは、顧客、社員、株主・資本家の順で重視されてきましたが、今後は、顧客、株主・資本家、社員の順で重視されるようになるといいます。近年、企業の社会的責任が問題になっており、社会が重視される傾向も高まっています。

経営者が「何を目標にして経営を行うか」についても調査が行われており、これまでは、産出高と利益額から見た経営規模の拡大を指向する目標、コスト削減を進めて価格競争力を強化する目標、職場活性化と企業倫理などの非財務的目標を重視してきました。

アメリカの場合、収益性、資本の効率性、市場評価を重視しています。日本の経営者も、今後は、ややアメリカ型に変えたいと考えているようです。

成果主義が強調されがちですが、財務の視点から見た結果のみが重視されるのではなく、コストや製品開発や業務改善といったビジネス・プロセスの視点、顧客満足や納期や品質といった顧客の視点、人材育成といった学習と成長の視点を組み合わせた目標設定が行われています。

しかも、全社から部門を経て個人に目標が下りてくるに従って、結果からプロセス、更には長期の人材育成に移行していきます。

日本型組織の特徴

組織については、欧米型の「職務主義」に対して、日本型の「属人主義」ということが言われます。

欧米型の「職務主義」では、組織を分析的・合理的に設計します。経営戦略に合わせて必要な機能を抽出し、個々の職務に分割し、その内容・責任・権限を明確化します。職務の境界は明確であり、職務に合う人材が確保され、配置されます。

日本型の「属人主義」は、特定部門が持つべき機能は欧米型とそう大きく違わないと考えられますが、個々の職務の決め方が曖昧です。コア職務については担当者を明確に決めておき、それ以外は、業務の状況や人の能力に合わせて柔軟に配分する傾向があります。

職務に合わせて人を配置する欧米型に比べて、日本型は人に合わせて職務を配分する傾向があり、個人も、特定の職務を超えて境界業務をこなせる能力、同僚と協力して職務を柔軟にこなす能力が求められます。

意思決定に関しては、欧米の場合、上司が決定して部下に指示するトップダウン型であるのに対し、日本の場合、部下が原案を作成したり、部下の意見を取り入れたりして、上司が最終的に決定するボトムアップ型であると言われます。

この点は、日本が改善活動を得意とすることの背景でもあります。現場の社員は、与えられた仕事を決められたように遂行するだけでなく、仕事の仕方を変える権限も配分されています。

改善すべきことを最もよく知っているのは、その仕事に従事している現場の社員ですから、その知識と能力を活用することが効果的であり、社員の労働意欲を引き出せるという考え方があります。

日本企業の強さの秘訣として、経営者と社員の間の情報の共有化が進んでいることが指摘されます。組織の下部に権限が多く配分されることによって、仕事や意思決定に必要な情報が下に厚く配分されていると考えられます。