パート社員や外部人材の活用 − 「人事管理」とは何か?⑬

企業は、市場の不確実性への対応や迅速な事業展開、総人件費の削減などのために、人事管理において様々な人材活用戦略を導入しています。

企業内部で育成される正社員を縮小し、パート社員、嘱託社員、契約社員など非正社員の雇用の拡大、外部人材である派遣社員や職場内請負社員の活用の拡大、業務の外部化の推進などがあります。

場当たり的なパート社員や外部人材の活用は、管理業務の増大による正社員の多忙化、正社員の人材育成の阻害、商品やサービスの品質低下、機密情報の漏洩などの問題を引き起こす懸念があります。

パート社員や外部人材だからといって管理が不十分であると、仕事への意欲の低下を引き起こすこともあります。

パート社員や外部人材を対象にした人事管理が特に重要です。彼らは正社員と異なる就業ニーズを持つことも多いので、人事管理の多様化が不可欠です。コア人材としての正社員と、パート社員や外部人材の組み合わせの適正化も求められます。

人事セクションは、パート社員や外部人材の活用、業務の外部化の影響をモニタリングし、マイナスの影響をもたらしている場合は、人材活用のあり方を修正していく必要があります。

柔軟な企業モデル

国際競争の激化や競争範囲の拡大、産業構造や技術構造の変化などを背景とする製品市場の不確実性の増大などに対応可能な雇用戦略として、J.アトキンソンが「柔軟な企業モデル」を提唱しました。

柔軟な企業モデルは、企業の労働力需要の量的変動と質的変動への対応能力の向上、企業の支払い能力を適切に反映した労働費用の実現を目指したものです。

労働力需要の量的変動への対応能力を「数量的柔軟性」、質的変動への対応能力を「機能的柔軟性」、支払い能力と労働費用の連動強化を「金銭的柔軟性」と呼び、各柔軟性の向上を可能にする雇用処遇システムを提示しています。「数量的柔軟性」から「時間的柔軟性」を分離する場合もあります。

数量的柔軟性は、有期労働契約社員や派遣社員の活用、業務の外部化、継続雇用ではあるがキャリアが浅く技能レベルが低い社員の活用など、労働力需要の変動に対して労働投入量の調整を可能にする仕組みによって実現します。

時間的柔軟性は、フレックスタイム制や変形労働時間制などで実現します。

機能的柔軟性は、職場や職種の転換を受け入れることが可能な幅広い技能や知識を保有する社員を確保・育成することで実現します。

金銭的柔軟性は、業績給や利益配分性などで実現します。

雇用ポートフォリオ戦略

雇用戦略と業務内容に応じて、正社員、パート社員、外部人材などを合理的に組み合わせて活用することを「雇用ポートフォリオ戦略」と呼び。「柔軟な企業モデル」の一つに位置づけられます。

製品市場の不確実性が高く、また財・サービスのライフサイクルが短い場合、人材の長期育成を基本とする正社員の比重を小さくします。

労働サービス需要が季節や曜日、時間帯に応じて大きく変動する場合には、需要のボトムを正社員で充足し、それを上回る需要をパート社員などで充足します。

雇用ポートフォリオ戦略を選択する際に考慮すべき事項として、次の点をあげることができます。

第一に、自社内で処理すべき業務と外部化の可能な業務の切り分けです。外部化が可能な業務の条件には、次のようなものがあります。

  • 社内にノウハウを蓄積する必要がないこと
  • 企業情報の社外流出の問題がないこと
  • 他の社内業務から分離して処理が可能であること
  • 必要なノウハウなどを有する外注先が外部に安定的に存在すること
  • 仕事の成果が測定可能な業務であること
  • 内部で処理するよりもコスト高でないこと
  • 正社員の技能形成にとって必要のない業務であること

第二に、自社内で処理すべき業務に、正社員、パート社員、外部人材などを配置します。その際、人件費や外部人材の活用コストの比較、それぞれが提供可能な労働サービスの質(職業能力の水準)を考慮します。

第三に、外部人材の活用には法律の制約があることを考慮します。

派遣社員は、受け入れ企業の社員と一緒に就業できるだけでなく、受け入れ企業の社員が指揮・命令することができることから、受け入れ企業の社員と連携が必要な業務に活用できます。

職場内請負社員は、個々の請負社員を受け入れ企業の社員が指揮・命令することはできず、請負社員を管理するリーダーを通して情報を伝えることが必要です。

日本版の雇用ポートフォリオ論もあります。日本経営者団体連盟の新・日本的経営システム等研究プロジェクトによる『新時代の「日本的経営」:挑戦すべき方向とその具体策』(1995年)です。

企業が活用する雇用層を「長期蓄積能力活用型」、「高度専門能力活用型」、「雇用柔軟型」の3タイプに分け、それを効果的に組み合わせた「自社型雇用ポートフォリオ」を構築し、それぞれの雇用層に対応した処遇制度の適用を提案するものです。

パート社員の活用と課題

パート社員の活用は、小売業やサービス業をはじめ、多様な業種に浸透しています。活用業務も、補助的なものから基幹的なものへと拡大しています。

企業の人材活用において、正社員だけでなくパート社員などの非正社員や外部人材の活用のあり方が、企業の競争力を左右する状況となっています。

パート社員を基幹労働力化するためには、採用や定着に関わる施策だけでなく、人的資源の開発や仕事への意欲の維持・向上のための施策(能力向上の評価、処遇など)が求められます。

具体的な取り組みの第一は、複数の社員区分の設定です。パート社員を含めた多様な社員区分を導入し、多様な就業ニーズを充足するための取り組みを行います。

社員区分には、一日の勤務時間や週の勤務日数による区分、社会保険や雇用保険の適用の有無による区分、業務や職種による区分、これらの組み合わせによる区分などがあります。

第二は、勤務日や勤務時間の選択性の導入や勤務時間の柔軟化です。パート社員には、仕事と生活の調和を指向する者が多いので、人材の確保・定着のために有効です。一つの業務を2人のパート社員が分担するペア・パート制を導入する例もあります。

第三は、パート社員の職能資格制度の導入です。職務遂行能力を高めることで、パート社員も昇格でき、処遇の向上に結びつくことから、パート社員の能力開発意欲を喚起します。

習得すべき職務遂行能力を明確にしてパート社員に提示し、業務別や職務別に能力開発目標を具体的に提示します。パート社員と正社員の職能資格制度を統合し、一元化する例もあります。

第四は、賃金制度の工夫です。パート社員の賃金は、従事している仕事で決まる部分が大きいものの、保有している技能など職務遂行能力を評価することも求められます。

パート社員にも成果配分制を導入したり、賞与と退職金の選択制を導入したりする例もあります。非課税限度内での就業を希望する者が、賞与があることで課税対象となる場合に、賞与の代替として退職金を選択することでそれを避けることができます。

第五は、管理・監督職やリーダー層への登用機会や正社員への転換制度の導入です。パート社員の能力開発意欲の喚起や仕事意欲の向上が意図されています。

一方で、パート社員の就業を妨げる制度的な問題があります。これを理由に、労働サービスの提供を調整する就業行動(「就業調整」)をとろうとします。

所得税がかからない範囲、社会保険の適用を受けない範囲、配偶者手当を受けられる範囲で働こうとすることです。多くのパート社員は、所得よりも余暇選好が強いため、手取り額を増やさずに、一定の年収内で働くことを選択しやすくなります。

このような行動は、企業にとって、パート社員に対する人的資源投資や基幹労働力化を難しいものにします。人的資源投資で職業能力が高まり、時間給が上がると、年収が増えるため、労働時間を減らすインセンティブが働き、要因計画が建てられなくなるなどの問題が生じることもあります。

「パート」社員と似た用語として「アルバイト」社員という呼び名があります。法律に即してみると、多くの場合は短時間勤務のため、パート社員に該当します。学生のパート社員のことを「(学生)アルバイト」と呼んでいることも多いようです。

アルバイトは本業である学業があるため、試験の時期などは確保が難しく、活用できる雇用期間も在学期間に規定されるので、労働力供給の安定性に欠けます。

「フリーター」という用語も使われます。学校を卒業してもフルタイムの仕事に就かず、アイルバイトなどの仕事で働く者を指すことが多いようです。勤務日数や勤務時間を長くできることから、アルバイトよりも安定した労働力として活用している企業も少なくありません。

パート社員やアルバイト社員も労働者である以上、労働基準法、最低賃金法、男女雇用機会均等法などの労働保護法の適用を受けます。

有期労働契約の場合、雇止めや中途解約が少なくありませんが、反復更新の実績があれば、正社員と同様の解雇制限が課されます。

パート社員の人事管理上の課題は、パート社員の間の処遇の公平性だけでなく、正社員とパート社員の処遇の均等・均衡にあります。同じ仕事に従事していながら、時間単位で見た賃金水準が違う場合、その差が合理的な要因に基づくものであるかどうかの検討が求められます。

合理的な根拠のない処遇差は、パート社員の労働意欲を低下させたり、離職率を高めたりします。

正社員は、仕事を特定せずに、他職場への配置転換や転勤などを前提に雇用される場合が多く、従事している仕事だけで賃金が決められているわけではありません。残業命令に従う義務もあります。

こういった条件の違いが処遇差として表れている面もあることから、一時点に同じ仕事に従事していることだけを取り上げ、処遇を比較することは困難です。

両者のキャリアや労働サービスの提供方法の違いなどを含め、正社員とパート社員の仕事や働き方を比較検討したうえで合理的な根拠のない処遇差をなくし、処遇差がやむを得ない場合には、合理的な要因に基づく差としていくことが不可欠です。

パート社員としては、責任の違いや勤務時間の自由度の違い、職務内容の違いがあれば、処遇差を納得していることが多いようです。

パートタイム・有期雇用労働法は、パート社員と有期雇用労働者の処遇に関して、いくつかの定めを置いています。

第一に、パート社員・有期雇用労働者の待遇が正社員と異なる場合、従事している仕事内容、人材活用の仕組みや運用、その他の事情に照らして不合理なものであってはなりません。

第二に、正社員とパート社員・有期雇用労働者で、従事している仕事が同じで、人材活用の仕組みや運用が、長期で見ても同じとなる場合は、両者の待遇を異にすることを差別としてい禁止しています。

第三に、パート社員・有期雇用労働者を雇用する際には、賃金、教育訓練、福利厚生などに関して文書で明示するとともに、雇用した後に、正社員との間の待遇差の内容・理由等について、パート社員・有期雇用労働者から説明を求められた場合には、説明することを企業の義務としています。

派遣社員と請負社員

派遣労働とは、派遣先の労働サービス需要を満たし得る人的資源を保有する労働者を探し、雇用し、派遣先に派遣する仕組みです。

派遣労働者は派遣元と雇用関係を結びますが、使用関係(指揮・命令関係)は派遣先との間に発生します。派遣元と派遣先は、労働者派遣契約を結びます。

派遣元の事業は許可制であり、対象業務は原則自由です。派遣受け入れ期間は、派遣元との雇用契約が無期の場合、期間制限がありませんが、有期の場合、派遣社員個人単位で3年までです。

紹介予定派遣が認められているので、採用方法の一つとして派遣労働を活用することも可能です。

派遣労働には、派遣元に常用雇用されて派遣される場合(「常用型派遣」)と、派遣元に登録して、希望する仕事があれば応募し、応諾されたらその時点で派遣元と雇用契約を結んで派遣される場合(「登録型派遣」)があります。

登録型派遣に派遣社員が感じているメリットは、働く曜日や時間帯、さらには仕事を選べたり、仕事の範囲や責任が明確であることなどです。デメリットは、雇用が不安定であることです。

派遣社員が感じている問題は、派遣先の受け入れ態勢に起因するものが少なくありません。業務を特定して派遣社員を受け入れているにもかかわらず別の業務を依頼したり、派遣労働の仕組みを知らずにパート社員などと同じように扱うことが、派遣社員の労働意欲を引き下げる要因になっています。

派遣社員を受け入れる企業から見たメリットは、募集や採用、雇用に伴う保険手続きなどの事務管理などが不要になることです。業務に必要な能力を有する者が派遣されるため、教育訓練も不要です。

これらの特徴から、派遣社員は次のような場合によく活用されます。

  • 一時的あるいは季節的な業務を処理するため
  • 一時的な欠員に対処するため
  • 社内で確保できない専門的な能力のある人材を補充するため
  • 実際の働きぶりを見てから社員を採用したい場合

職場内の請負社員についても、派遣社員と同様、雇用関係がないため、採用や保険手続きなど雇用管理業務を必要としません。

派遣社員との違いは、請負社員に対して業務管理も行う必要がないことです。裏を返せば、請負社員に対して指揮・命令することができないことを意味します。請負社員への情報伝達などは、請負会社の責任者を通じて行う必要があります。

請負会社の選定に際しては、業務遂行に責任を持てるだけの管理能力があるかどうか、請負社員に関する人事管理を適切に行っているかどうかなどを重視する必要があります。

パート社員など非正社員や外部人材の活用に伴う影響

プラスの影響としては、次のようなことが指摘されています。

  • 正社員が高度な仕事に専念できる
  • 正社員の労働時間が短くなる
  • 製品・サービスの質が向上する
  • 外部から新たなノウハウを導入することができる
  • 自社でできない業務ができるようになる

マイナスの影響としては、次のようなことが指摘されています。

  • ノウハウの蓄積・伝承が難しい
  • 機密事項が漏洩する危険がある
  • 非正社員の教育訓練に割く時間が増え、正社員が本来の仕事に専念できない
  • 正社員の新人を初めから高度な業務につけることになるため、新人の育成が難しい
  • 仕事上の連携が円滑に進まない

労働契約法の改正とパート社員など有期契約社員の活用

パート社員など有期契約社員の場合、契約を更新して雇用を継続することが少なくありませんが、会社の都合で、突如契約が更新されなくなる場合があります(雇止め)。

このような一方的な会社の対応は、有期契約社員をきわめて不安定な立場に置くことから、労働契約法の定めにより、有期契約社員の労働契約が繰り返し更新されて雇用期間の通算が5年を超え、かつ当該社員が無期労働契約への転換を希望する場合は、無期労働契約に転換されます。

この転換は、あくまで有期が無期に転換されるだけですから、他の労働条件の変更は伴いません。つまり、短時間勤務で特定業務のみに従事する時間給の正社員に切り替わるということになります。