労働組合と労使関係 − 「人事管理」とは何か?⑭

労働組合は組織率が低下し、社会的な存在感が薄くなりつつあると言われつつも、多くの大企業には労働組合が組織されています。経営側と労働組合との間に集団的な労使関係が形成され、それが労働条件や人事管理システムのあり方に大きな影響を及ぼしています。

労働組合の機能を再評価する議論も有力です。一般的には労働条件の向上機能などが想定されますが、経営に対する発言を通じて生産性の向上に貢献するなど、企業経営にとってもプラスとなる存在であることが指摘されています。

労働組合が組織されていない企業においても、従業員代表制や労使協議制などの集団的な発言機能の組織や機能について関心が集まっています。

雇用処遇制度の個別化の進展を背景に、労働者個々人と経営側との個別的な労使関係が注目され、苦情処理など個別紛争処理のシステム整備が人事管理上の課題となってきています。

労働組合の組織と機能

労働組合とは、賃金労働者が自らの意思に基づいて組織した民主的な団体であり、活動の目的は、労働や生活の諸条件の維持や改善にあります。対象となる諸条件は、組合員の要求に基づいて決まります。

労働組合の組織形態は、同一職種に従事する労働者を企業横断的に組織する職業(職能)別組合、職種を問わず同一産業に従事する労働者を企業横断的に組織する産業別組合、同一の企業や事業所に雇用される労働者を職種を超えて組織する企業別組合などに分けることができます。

労働組合が活用する施策には、労働力の供給独占(クローズド・ショップ制など)、団体交渉、労使協議制などがあります。

労働組合には、労働条件を引き上げる独占力の面と、企業内の組織された労働者を代表する集団的発言の面があります。

独占面を強調する見方によれば、労働組合が労働供給の独占力を背景として賃金の引き上げを行うことによって、企業は雇用と生産を減らし、経済的効率は低下し、所得配分が変化することになります。

集団的発言の面を強調する見方によれば、労働組合は、労働者に経営者と意思の疎通を図るための手段を与えるので、職場での発言によって不満が解決し、労働者の離職率が低下し、雇用・訓練費用が低下し、その結果、企業特殊的訓練を行う動機づけが高まり、生産性が上昇します。

アメリカでの実証的な研究によれば、労働組合の機能として、独占の側面よりも発言の側面のほうが大きいことが確認されています。

日本における研究によると、労働組合が組織された企業では長期勤続者に有利な賃金構造が形成され、生産性に対する年齢や勤続年数の効果を引き上げ、雇用調整のスピードを遅らせることなどが知られています。

日本の労働組合の組織形態は、企業別組合が大多数を占めます。企業別組合の特徴は次のとおりです。

第一に、社員である限り職種に関係なく一つの組織に加入させますので(工職混合組織)、ホワイトカラーの組織率が高くなっています。欧米では、ホワイトカラーの組織率が低く、ホワイトカラーの労働組合が組織されている場合も、ブルーカラーとは別であることが一般的です。

第二に、一般職の正社員に組織範囲を限定していることが多いため、非正社員の比重が高まると、組織率が低下することになります。最近は、非正社員の組織化に取り組む組合も増加しています。

第三に、組合の役員は、主として当該企業の社員である組合員の中から選ばれ、企業籍を保持したまま就任しますので、職業的な労働組合リーダーが育成されにくくなります。

第四に、企業別組合は労働組合組織としての自立度が高いため、上部に産業別組合があったとしても、その統制や影響が相対的に弱くなります。

第五に、組合員の中・長期的に見た雇用機会の確保と労働条件の維持・改善は、組合が組織された企業の存続・発展に大きく影響を受けることになります。

当該企業の存続・発展に関して、経営側と労働組合の利害が一致しやすくなりますので、企業エゴイズムをチェックする機能は、産業別やその全国レベルの労働組合組織(ナショナルセンター)である連合などに期待されます。

第六に、事業所や企業を単位として組織された労働組合は、それぞれ独立しつつ、相互に結びつき、連合組織や協議体などを結成している場合が少なくありません。企業連や企業グループ労連・労協などです。企業連等と単位労働組合との権限分担の違いによって、企業連等の性格も異なってきます。

労働組合の組織率の低下と組合員の組合離れ

労働組合の組織率は、大企業で高く、中小企業で低くなっています。日本以外の国でも同様です。

組織率は産業でのばらつきが大きく、各産業における企業規模の構成やパート社員など非正社員の比率の違いなどが影響しています。

日本の組織率の推移を見ると、戦後急速に組織化が進み、1949年には55.8%とピークを迎えました。その後、組織率は低下し、35%前後の水準をしばらく維持しましたが、1970年代半ば以降に再び低下傾向になり、1983年には30%を割り込み、2003年には20%を割り込みました。

組織率の低下傾向は、多くの先進国に共通して認められます。

日本における組織率低下の構造的な要因としては、産業構造の変化により小売業や飲食店やサービス業など組織率の低い産業で働く労働者が増加したことがあります。

同じ企業においても、パート社員や派遣社員など、企業別組合が組織範囲としてこなかった就業形態で働く労働者が多くなったこともあります。

社員の高齢化や高学歴化、企業の分社化などによって、非組合員である管理職や管理職相当職(専門職、管理職待遇職等)が増加したこともあります。

これらの構造的な変化と相まって、労働組合の側でも新しい職場の組織化に失敗したことも原因としてあげられています。

労働組合の組織化の取り組みとしては、すでに労働組合が組織されている企業内における組織率を高めるため、組合員の範囲の見直しが不可欠です。

未組織企業の組織化の取り組みとして、企業別組合が、関連企業の中の未組織企業における労働組合結成を支援すること、産業別やその地域組織などが未組織企業の組織化を進めることがあります。

労働組合には、組合員の組合離れの問題もあります。原因は、次のとおりです。

第一に、ライフスタイルの変化、組合員の高学歴化やホワイトカラー化、価値観やニーズの世代間ギャップの拡大などを背景に、組合員の価値観やニーズが多様化しているものも、労働組合の組織や活動がそれに対応できていないことです。

第二に、組合員の多くが一つにまとまることが阻害されつつあることです。その背景として、次のようなことが指摘されています。

  • 企業の分社化や出向などによって、組合員が働いている職場が分散化したこと
  • 合理化などにより、職場の人員規模が縮小したこと
  • シフト勤務や時差出勤やフレックスタイム制などによる勤務体制の多様化
  • 遠距離通勤の増加
  • 生活を重視するために勤務時間外の組合活動への参加の忌避

第三に、労働組合の存在感を感じることができないと考える組合員が増加していることです。その背景として、次のようなことが指摘されています。

  • 賃金など基本的な労働条件が、企業内労使交渉よりも社会・経済的な枠組みで決定される程度や個人の働きぶりで決まる部分が相対的に大きくなったこと
  • 企業内の労使関係が制度化されて、労使協議機関や専門委員会で取り扱われる事項が増加したため、労使間の議論の経過が組合員から見えにくくなったこと
  • 組合の活動内容が高度化・多様化したため、一般の組合員がその内容を理解しにくくなったこと
  • 基本的な労働条件が改善され、組合員の間に大きな不満が少なくなり、労働組合の必要性が感じられなくなってきたこと

労使関係:団体交渉と労使協議

「労使関係」とは、一般的に、使用者と労働者の間に存在する利害対立を調整したり解消したりする過程のことです。「個別的労使関係」と「集団的労使関係」から構成されます。

「集団的労使関係」は、多くの場合、労働組合と経営側との関係であり、団体交渉や労使協議制など、労使間の情報交換や交渉および決定の過程を指します。

集団的労使関係によって形成されたルールは、個別的労使関係をも律しますが、すべての領域を包括することはできないため、両者は相互に関係しつつ独立したものです。

労使関係を理解するためには、資本の性格と経営者の性格、社員・組合員と経営者・管理者との社会的・経済的距離のあり方、労働組合の組織類型などの要因を検討することが不可欠です。

日本の場合、労使関係が形成されるレベルは企業内が中心であり、それに対する産業別・地域別など外部組織の直接的な統制や介入は相対的に小さいと言えます。

「団体交渉」とは、労働者が団結し、自ら選んだ代表者を通じて、使用者あるいはその団体と雇用・労働条件について集団的に取引を行うことです。

個人的な交渉では、労働者が使用者に対して取引上不利な立場に置かれるため、団結することで労働者相互の競争を制限し、ストライキの行使力を背景に交渉を行うことによって、使用者と対等の地位を獲得しようとするものです。

団体交渉は、雇用・労働条件の統一化や労使関係上のルールに関する労使合意をもたらし、産業平和に貢献するものでもあります。

日本における団体交渉の特質としては、第一に、労働三権の一つとして、憲法第28条で保障されていることです。労働組合法第7条第2項は、使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉することを正当な理由なく拒むこと(「不当労働行為」)を禁止しています。

使用者側には、団体交渉応諾義務と誠実交渉義務(対案の提示、資料の提供、主張の根拠の提示、交渉権限のある者の出席など)はありますが、労働組合の要求をそのまま受け入れる義務はありません。

団体交渉権を法的に保障している国は珍しく、他の多くの国では、団結権と団体行動権に基づいて団体交渉権を獲得すべきものと位置づけられています。

第二の特質は、団体交渉が純粋な実務的取引として処理されず、労使対立の雰囲気の中で行われることが未だ少なくないことです。団体交渉と労働争議が区別されていません。

第三の特質は、企業内交渉が優位であることです。労働組合法第6条では、外部の代表が交渉に当たることを妨げてはいませんが、現実には、外部の人間が参加するケースは少ないようです。

団体交渉事項の種類と範囲について、労働組合法に規定はありませんが、労働運動の発展や団体交渉制度の普及とともに拡大され、経営専決事項の範囲が縮小してきています。具体的な交渉事項の範囲は労使関係によって決まり、交渉事項をめぐって労使間で紛争が生じることさえあります。

一般的には、団体交渉の対象事項は労働者の雇用・労働条件や労使関係の運営に関わる事項であり、使用者が対処可能なものです。政治や社会の問題など、使用者が対処できない事項は含まれません。

「団体交渉」は、労使が必要とするときに必要なテーマについて交渉する臨時的な労使間のコミュニケーション機関であるのに対し、「労使協議制」は、使用者と労働者の代表が企業経営上の問題、特に労働者の雇用や労働条件に関わる問題について情報や意見を交換するための常設的な機関です。

労使協議制は、企業レベル、事業所レベルのほか、産業レベルで組織されている場合もあります。団体交渉のように争議行為を背景とした交渉機関ではありません。

労使協議制の開催時期や付議事項などは、労働協約や労使協定などによって事前に定められており、意見が一致をみない場合も、団体交渉を経なければ争議行為に訴えないとの了解が背景にあります。

労使協議制の機能には、団体交渉になじまないが労働者の雇用・労働条件に影響が大きく、労働者が関心をもたざるをえない事項に対する労働者の発言・監視の役割があります。経営方針や生産計画などの経営事項は使用者の裁量で決めるものですが、雇用・労働条件事項に深く関わるものです。

例えば、新設備の導入の決定は経営事項であっても、それに伴う要員や職務内容は労働条件事項です。後者について労働組合が十分発言するためには、前者についての情報を得て、早期に対策を講じることが求められます。経営側としても組合の了解を得ることで、労働条件事項面で対立し、具体的な生産活動が阻害されることをできるだけ避けることが求められます。

未組織企業の労使関係

中小企業には、労働組合が組織されていないところが多いですが、労働組合以外の従業員の集団的な発言機構が存在することは多く、労使間コミュニケーションにおいて、要望伝達機能、意見集約機能、情報伝達機能などに関して労働組合に劣らない機能を果たしています。

従業員組織の組織化や労使協議制の設置は、中小企業において、労働組合の組織化の阻害要因として機能する可能性があるものの、産業民主主義の拡大にとってマイナスであるとは限りません。

企業内における個人的な苦情などとその処理の現状

社員が、仕事、処遇、人間関係、仕事と生活の関係などに関して不満や苦情を抱いたときに、それを解消できなければ、社員の労働意欲、生産性、創造性などの低下をもたらし、離職率を高めることになりかねません。

不満や苦情は多種多様ですが、社員の権利に関するものと利害に関するものに大別できます。権利に関するものは、就業規則や労働協約の適用や解釈に関するものです。利害に関するものは、ルールが存在しない場合の利害調整に関するものです。

社員の不満や苦情の範囲では、社員個人に限定されるもの、特定の集団に共通するもの、社員全員に共通するものに分けられます。

不満や苦情を解消する仕組みは、企業内では、労働組合によるもの、苦情処理機関など労使によるもの、人事セクションによるもの、職場の上司によるものなどがあります。公式のものと非公式のものに分けることもできます。

社員が抱く不満や苦情の種類や範囲によって、その解消のために利用される仕組みは異なり、社員に共通する不満や苦情であり、かつ労働組合が組織されている場合は、団体交渉や労使協議を通じた対応が行われることが一般的です。

厚生労働省が実施している『労使コミュニケーション調査』によると、個人的な苦情等に関して、いくつかの点が明らかになっています。

第一に、個人的処遇に関して不満を持つ社員は多いものの、それを表明する者は半数弱です。表明してもどうにもならないと初めから諦めていたり、表明先がなかったりするためです。不満を表明しやすくすることで、潜在化している不満を顕在化することができます。

第二に、労使で設けた苦情処理機関の設置率は比較的高いものの、不満の解決機関としてはほとんど機能していません。

第三に、不満の表明先は上司が大半です。労働組合が組織されている事業所でも同じです。そのため、管理職の不満の処理機能が低下すると、解消されない不満が増加する可能性が高くなります。

第四に、不満を表明した者でも、その結果に納得している者は多くありません。上司中心の不満処理行動には限界があることが示唆されます。

第五に、不満の内容は、日常の業務運営などに関すること、賃金など労働条件に関すること、人事に関すること、人間関係に関することなどです。上司と労働組合では表明される不満の内容に違いがあり、個人的処遇に関わる不満では労働組合はあまり活用されていません。

労働者の権利に関する認知状況

労働者自身が、働くことに関わる労働法制を正確に理解し、労働者としての権利を行使したり、勤務先に労働法制を遵守させたりすることの必要性が高まっています。

こうした背景には、雇用形態の多様化、新しい労働法制の施行、労働契約の個別化、さらには労働組合の組織率の低下などがあります。雇用形態に応じて必要な法知識が異なるということもあります。

労働組合の組織率の低下によって、労働組合が組織されていない事業所で働く労働者も増えているので、労働者は、労働法制に関する知識を労働組合から得たり、勤務先で労働法制に則った労働条件や働き方が遵守されているかを労働組合を通じてチェックしたりすることが難しくなっています。

労働組合があってもなくても、最終的に、労働法制に則った労働条件や働き方が職場で遵守されているかを実際にチェックできるのは、職場で働いている労働者自身です。