企業変革のプロセスは、一般に、①現状の把握・診断、②課題の抽出、③課題に対する変革の方向性の明確化、④具体的変革案の策定、⑤変革案のアクション・プラン化、⑥実行、という段階を踏みます。
ベンチマーキングをこれらの段階に当てはめると、主に①から②の段階で行われます。
結局のところ、①〜②を踏まえて、③〜⑤の具体的アイデアをどこに求めるかというところが問題です。ベンチマーキングの場合、他社のベスト・プラクティスにそれを求めるということになります。
ビジネス・プロセスを中心にして抜本的な企業変革を行うことを「リエンジニアリング」と呼び、具体的な変革のアイデアを求めるために「ベンチマーキング」を行います。
そして、変革の実行は、制度や企業文化の見直し、人材・組織開発などにつながっていくわけです。
ベンチマーキングの前提条件
あらゆる変革活動に共通することですが、経営層のコミットメントなくして、変革を起こし、継続させることはできません。しかも、経営層は一枚岩でなければなりません。
経営者は、企業変革の前提条件に関する戦略的な意思決定をする必要があります。自社が劣っている点をすべて引き上げようとすると、いたずらに資源分散を招きます。
戦略上のキーとなる要素、すなわち重要成功要因(CSF:Critical Success Factors)について徹底的に強化・補強し、差別化を図ることが必要です。
何を優先し、いつまでにどれだけ改善するのか、どれだけの経営資源を投入する用意があるか、変革の障害となる前例や慣行は何か、変革が実行された場合にどこまでのリスクを取り得るか、などを明確に意思決定する必要があります。
経営者は、意思決定した内容について、従業員に対し明確にコミュニケートし、納得性を引き出す必要があります。経営者の本気度を最初に示すため、象徴的な人事を行うと、効果的なメッセージとなります。
ベンチマーキングを含めた実際の全体プロセスにおいては、ライン管理者などのミドルの参画およびエンパワーメントが重要です。実際の変革の中心は彼らだからです。
もちろん現場任せはいけません。最後まで経営者がコミットする必要があります。変革を実行するには、組織の考え方を変え、能力を高める必要があるので、そのための支援を惜しんではいけません。
ベンチマーキングのステップ
企業変革の一般的プロセスについては、すでに述べました。その初期段階においてベンチマーキングが行われ、変革の方向性を定め、実践に移します。
ただし、ベンチマーキングが十分な効果を出すためには、準備段階から事後の分析・評価、そして自社のプロセスの具体的な改善案の策定やその実行まで、変革のプロセス全体にわたってベンチマーキングの特徴を踏まえたステップを踏む必要があります。
その点を踏まえると、ベンチマーキングによる企業変革プロジェクトは、次のようなステップになると考えられます。
- 世界レベルの会社と業績を比較し、測定する。
- 自社の業績のうち二流である分野を浮かび上がらせる。
- 最高の業績を生み出す世界のベスト・プラクティスを見つける。
- なぜ業績にギャップがあるのかを見つける。
- 世界でトップ・レベルの会社の業績に合致させる、または凌ぐために、どのようにビジネスを改善すべきかを提案する。
- 業績を継続的に改善するためのサポートを行う。
1.と3.の区別が分かりにくいかもしれません。1.は企業の業績に着目し、成果指標をもって比較・評価するものです。3.は、自社において改革すべき特定のビジネス・プロセスについてベスト・プラクティスを見つけるものです。
1.と3.の比較対象企業は、通常異なります。
変革の理念としてのエンパワーメント
「エンパワーメント」とは、ミドル・アップ&ダウン型を志向した企業変革理念です。一般的には「権限委譲」と訳されます。
アメリカで言うところの「エンパワーメント」は、トップが創造したビジョンやゴールや戦略を、全員の合意の下に、社員が主体になって実現していくことを意味します。何から何まで委譲するわけではありません。
単なる権限委譲ではなく、委譲した者が、委譲された者の意思決定・行動に対して責任を負うことが重要です。さもないと、委譲された権限行使が制約されてしまうことが知られています。
エンパワーメントでは、トップのリーダーシップの維持とミドルの活性化を同時に実現させることが重要視されるのです。
そのエンパワーメントを実現するための有効な方法として、ベンチマーキングが位置づけられています。