「ベンチマーキング」とは何か?

経営者は、伝統的に、「何を実行すべきか」(What)の決定によって、企業の差別化は左右されると考えてきました。

その後、「どのように実行すべきか」(How)というプロセスのあり方も、差別化要因として重要であると考えるようになりました。

「ベンチマーク」とは、位置や標高を示す印のことであり、「水準点」と訳されます。そこから敷衍して、ビジネスの世界では「測定基準」の意味で広く使われるようになりました。

その意味から、「ベンチマーキング」は、一般的に「標準化された基準や指標に従って、品質や価値などを改善していく方法」と定義されます。

現在の「ベンチマーキング」は、成果の指標のみならず、ビジネス・プロセスをも対象とするようになりました。そのようなベンチマーキングを、従来のベンチマーキングと区別して、「ビジネス・プロセス・ベンチマーキング」と呼ぶこともあります。

現在の「ベンチマーキング」は、ベスト・プラクティスとの比較・分析を行うことにより、そのギャップを埋め、現状を改善する有効な手段・方法論です。

「ベスト・プラクティス」とは、経営や業務において最も優れた実践方法のことです。GEでは、ベンチマーキングそのものを指します。

ベンチマーキングは、リエンジニアリングを飛躍的に成功させるパワーを持っていると言われます。ベンチマーキングを前面に出すことにより目標が定まり、誰もが本来的に持っているベストなものに近づこうとする意欲を喚起し、最良の選択を行えるようになります。

アメリカでは、もはやベンチマーキングは企業変革の標準であり、マルコム・ボルドリッジ賞では、ベンチマーキングが重要なキーファクターとして位置づけられています。

ベンチマーキングは、単なるベスト・プラクティスの物真似や模倣ではありません。トップのリーダーシップの強化とミドルの活性化を実現するところに、その本質があります。

ベンチマーキングの背景

ベンチマーキングはアメリカで注目され、特にリエンジニアリングの成功要因として、急速に受け入れられました。リエンジニアリングを行うといっても、どのように改革すればよいかについて、ベスト・プラクティスに学ぶわけです。

アメリカには、先進的な技術や手法を喜んで教えるという文化的な背景あり、いつでもベスト・プラクティスの対象となって情報を公開するという風土があったといいます。

加えて、アメリカ生産性品質センター(APQC: American Productivity and Quality Center)に国際ベンチマーキング・クリアリングハウス(IBC: International Benchmarking Clearinghouse)が設立されたこと、マルコム・ボルドリッジ賞が制定されたことなどの制度的な後押しも重要です。

マルコム・ボルドリッジ賞では、審査項目ごとに競合他社やトップ企業と比較してどの程度のレベルにあるのか、具体的なデータを提出する必要があるため、ベンチマーキングが必須になっています。

何よりも忘れてはいけないことは、ベストに学ぶというプラス思考で組み立てられた改善提案が、ミドルの活性化を促すモチベーションのプログラムとして効果的に機能したことです。社員をやる気にさせなければ、何事も効果はあがりません。

ベンチマーキングのキーワード

ベンチマーキングは、常にベスト・プラクティスを比較分析の対象に選び、プロセスを革新しながら企業全体の革新を目指すことから、次の3つの意義をもつと言われます。

  1. 自社の相対的な位置づけを把握することができる
  2. 改善のためのアイデア発掘の手段として活用できる
  3. 変革に向けた組織の納得感を醸成できる

これらから、ベンチマーキングの3つのキーワードが抽出されます。

  1. 最高に学ぶ(Learning the Best)
  2. 継続的改善(Continuous Improvement)
  3. 自身がベストになる(Exceed the Best)

ベンチマーキングの目的は、自社の業務を設計するに際して創造性が閃くように、責任者を新しい物事のやり方に触れさせることです。模倣自体が目的ではありません。

他社の成功アプローチをそのまま自社に導入してうまく行くことはまずありません。自社の事情に合わせるための調整が必要です。

自社独自の工夫を加えて、自身がベストになることを目指すところに、ベンチマーキングの意義があります。

ベンチマーキングの種類

「ベンチマーキング」という場合、通常、業務プロセス(オペレーション)と経営のスキルに着目します。

実際は、プロセスだけでなく様々なジャンルを対象とし、戦略も含めた事業あるいは企業全体を改善することができます。

ベンチマーキングによって、ある特定のプロセスではベストに至らなかったり、ベストを凌駕できなかったとしても、いくつかのプロセスやジャンルでベンチマーキングを実施し、改善を積み重ねることによって、全体のレベルを飛躍的に向上させることができます。

アメリカでは、次のようなベンチマーキングが行われています。

  1. コンペティティブ・ベンチマーキング
    • 競合他社と自社とを比較して、その組織の業績を測定すること
  2. プロセス・ベンチマーキング
    • 対象プロセスがベストである企業に対して、そのパフォーマンスと機能の測定を行うこと
  3. ファンクショナル・ベンチマーキング
    • プロセス・ベンチマーキングの一種であり、2つ以上の会社の特定のビジネス機能を比較すること
  4. ジェネリック・ベンチマーキング
    • 異業界の2つ以上の会社の特定のビジネス機能、またはプロセスと比較すること
  5. パフォーマンス・ベンチマーキング
    • ある製品の業績を他社の製品と比較測定すること
  6. ストラテジック・ベンチマーキング
    • 戦略的提携関係にある相手企業の戦略の成功事例を理解し、採用することによって、代替プロセスを評価し、戦略を導入し、業績を改善するための系統的なビジネス・プロセスに変更すること
  7. グローバル・ベンチマーキング
    • ストラテジック・ベンチマーキングを世界規模に拡大したベンチマーキング
  8. インターナル・ベンチマーキング
    • 企業内で類似のビジネス単位、またはビジネス・プロセスと比較することによってプロセス・ベンチマーキングを行うこと
  9. リアルタイム・ベンチマーキング
    • 新市場を開拓するような新規事業を行おうとする場合に、製品開発と市場認知活動を同時並行で進めるためのベンチマーキング

重要なことは、競争の本質を理解して、適切なベンチマーキングを実施することです。個別のプロセスや機能に着目したベンチマーキングを積み重ねる場合でも、トータルな発想を欠かしてはいけません。

ベンチマーキングを阻む思い込み

ベンチマーキングには優れた効果があるにもかかわらず、実施に消極的である企業は少なくありません。その理由として、次の3つがあげられます。

「発明は模倣に勝る」という思い込み

創造的な問題解決は、白紙の上で、問題を単純なコンセプトと基本原理に分解し、答えを求めていくことであるという考え方があります。

「解答を求めてまず他人の経験に頼るのはいけない」という深く染み付いた習慣があるようです。

「われわれはユニークである」症候群

多くのビジネスマンは、自社や自らの業界を、他とは異なる特別な存在であるとみなしています。「われわれはそれほど単純ではない」、「そのやり方はわれわれには使えない」などと言います。

「産業スパイ」に対する道徳的かつ法律的制裁

他社のことを根掘り葉掘り調べることは道徳的にも法律的にも適切でないという考えがあります。

少なくとも、公開されている情報を徹底的に調べることは必要なことであるとともに、全く問題のない行為です。

また、ベンチマーキングにおける現地調査は、相手の了解を得た上で、相手の許容範囲で行うものですから、問題となる行動ではありません。

直接の競合企業がそのような調査を受け入れないことは確かにありますが、直接の競合でない場合、謙虚に学ぼうとする姿勢に対して、快く対応してくれる企業は少なくありません。