ベンチマーキングの方法 − 「ベンチマーキング」とは何か?③

ビジネス・プロセス・ベンチマーキングは、業績の違いを生み出すプロセス(オペレーション)と経営のスキルに着目します。結果に至るプロセスの質を指標化し、これを直接的な改善ターゲットとするところに特徴があります。

競合他社あるいは同一業界に限らず、自由に「同じプロセスや経営スキルでのベスト・プラクティス」を探し出し、それをベンチマーキングします。

比較の対象を求めて自らの業界から離れれば離れるほど、得られる満足は大きいと言われます。

ベンチマーキングではプロセスや経営スキルに焦点を当てるため、競争力分析のようなスタッフ仕事では成り立ちません。そのプロセスを職務とするライン管理者等の積極的な参加が不可欠です。

ライン管理者等がベスト・プラクティスに触れ、自社との違いを目の当たりにすることによって、変革を促すツールになり得ます。ライン管理者等に熱意とコミットメントが醸成されるからです。

ベンチマーキングの対象プロセスを選ぶ

ベンチマーキングすべきプロセスについて、まずは網羅したリストを作り、そこから、どのプロセスを対象にするかを決める必要があります。

今後の事業の見通しに立って、内製、外製どちらも考慮に入れながら、自社が果たすべき役割を明確にする必要があります。

例えば、自社製品の製造コストの半分以上を外注に依存しているとすれば、優れた外注先をベンチマーキングすべきかもしれません。

コンカレント・エンジニアリングへのサプライヤーの参加、統合ロジスティクス管理、戦略的な製造・購買分析などのような業務横断的なプロセスを、有効に活用することもできます。

世界一流のベンチマーキングを行う主な利点の一つは、どれだけ業務を改善できるかを、経営幹部や責任者が自ら確認する機会を得られることです。

ベンチマーキングは、個々人を変革し、現状への満足を捨てて卓越性に向かわせる強力な梃子になりますので、変革に対する抵抗の強さを、ベンチマーキング対象選定基準にすることもあります。

ベンチマーキングすべきプロセスの優先順位を設定するために考慮すべき要因として、次のものがあげられます。

  1. 戦略上の必要性
      将来的な成功に大きな役割を果たすと思われるプロセス
  2. 組織としての準備体制
    • 改善への準備ができている社員が実行するプロセス
  3. 製造か購入かの経済的判断
    • 製品の性能や収益性に大きなインパクトを与えると判断され、質の良いサプライヤーからは調達し難いプロセス
  4. 業務の採算に及ぼす相対的なインパクト
    • 不釣り合いなインパクトを与えるプロセス(総コスト、収入の発生、固定資産の生産性、人的生産性)

プロセスの調査および評価の基準の設定

プロセスは、数多くの要素の複雑な組み合わせになっていることが多いため、そこから単純で一貫性のあるフレームワークを見つけ出すことができるかどうかがポイントです。

プロセスの調査では、インプットとアウトプットの双方が調査・測定の対象になります。

アウトプットは、プロセスが企業全体の業績に関連付けられるところですから、通常、経営者の関心を引きやすい定量的な測定基準が設定されます。

インプットは、定量的なデータである場合もありますが、定性的なスキルのようなものであることも多いので、優れた業務のハウツーをいかに定量化した指標として設定できるかが重要です。

ある企業が、次にあげる5つの領域にどのように取り組んでいるかを理解すれば、ほとんどのオペレーション・プロセスは包括的に説明できるとされます。

  1. パートナー(供給業者を含む)のプロセスとの連携
  2. プロセスの物理的な形態
  3. 製品設計と生産の協調
  4. 人材管理
  5. サポート業務手続きとシステムの利用

これらの領域について、該当する業務と関係する測定基準を定めることが有効です。

プロセスによっては、コスト削減効果や業績への貢献度が一様ではありませんから、重視すべきポイントを十分に考慮する必要があります。

一般に、製品開発のコンセプトとシステム設計の段階のコストは、製品のライフサイクル・コストの5〜15%を占めると言われています。

しかし、この初期の段階がライフサイクル・コストのおよそ85%に決定的な影響を及ぼし、その製品にとっての価格づけの最良範囲の大部分をも決定すると言われています。

ですから、製品のライフサイクルにおいては、製品開発のコンセプトやシステム設計の段階が、ベンチマーキングにおいて重視されるべきです。

経験的に、コスト、品質、納期の正確さを総合的に評価するのに必要な尺度は僅かです。

コストの評価基準

コスト軸の設定の出発点は「単位あたりの総生産コスト」です。

生産プロセスについては、一ユニット当たり、または1t当たりにかかる費用が適当であるといいます。

管理プロセスについては、取引一件当たり、一定時間当たりの経費込みの総コストを用いるのが普通です。

品質の評価基準

品質の尺度は、工程内で発生するエラー、欠陥、無駄を把握して、それを総産出量に対する比率で表します。

欠陥品は、ラインがそれを自動検知して排除したり停止したりするのでない限り、一連のプロセスを次々と流れていきますので、修正費用がプロセスを経るごとに高くなります。また、不合格品のコスト見積もりは方法によって様々です。

ですから、品質の実態を測るには、故障コストではなく、故障率を用いるほうが得策です。

納期の評価基準

納期の正確さを測る指標は、プロセス開始(注文の受け取りではなく、顧客が発注した時点)から会社が支払いを受ける時点(入金が会社の口座に落ちたとき)に至るまで、できるだけ包括的なものとします。

例えば、製品の開発時間は、経営トップがプロジェクトに投資を決めた時点から、注文が安定的に流れ始めて、製品の商業的な将来性が保証される時点までを測るべきです。

経験上、業務フローの両端あたりの目につきにくいところで、驚くほどの時間が無駄にされてしまうことが多く、時には、目に見える部分よりも多くの時間が失われてしまうこともあるからです。

利用可能な総時間数に対して、生産的な時間が占める率を算出すると、組織内でいかに有効に時間が使われているかについての尺度になります。

生産プロセスの時間が、付加価値活動の全時間において5%以上となるケースはきわめて稀であるといいますから、至るところに生産性を上げる余地があることを意味します。

ベンチマークを探す

ベンチマーキングは、通常、多数の企業を表面的になぞるのではなく、少数の世界標準となる企業を詳細に理解することを重視します。

関連業界であるかどうかに関わらず、比較対象プロセスの優れた業績を検証する必要があります。

比較可能の基準をあまり狭く設定し過ぎると、調査対象の企業を直接の競合他社のみに限定しがちです。競合他社に対するベンチマーキングの要求が叶えられることはあまりありません。

かといって、基準をあまり広く設定すると非生産的になることもあります。収集したデータの調整に多くの労力を払う必要があるからです。通常、業界が違うほど、自社への適用のための大幅な調整が必要です。

比較対象としては、そのプロセスについて類似性が全くないというのでは、学習も困難です。例えば、製造プロセスであれば、製品特性(サイズ、生産量、機能性など)に一定の類似性が必要でしょう。

一般に、現場調査や工場訪問を行う前に、比較可能性を限定するような、大きな変動要素のグループを明らかにすることが役立ちます。

製造プロセス以外であれば、他業界であっても、直面している課題について類似性が見つけられれば、意味のある比較ができるといいます。むしろ業界や技術分野が異なるほうが、興味深い比較が得られるようです。

競争に影響を及ぼす要素は業界ごとに異なるので、同じような業務でも、業界によって到達すべきレベルは違うはずです。それでも、根本的に異なる優れたアプローチを導入する企業から学ぶべきことは多いでしょう。

ベンチマーキングの経験を豊富に積んでいき、創造的な発想ができるようになってくると、その比較可能な範囲は広くなっていくといいます。

成功パターンの仮説を立てる

ベンチマーキングで生じる最も一般的な過ちは、あまりにも多くのテーマについてのデータを集めようとするあまり、数多くのインタビューや調査の予定を組もうとし過ぎることです。

特に、複雑で業務横断的なプロセスをベンチマーキングする際は、予想する成功パターンの仮説を持ち、そこを出発点にしてスタートすることが重要です。

仮説上の成功パターンは、データ収集を求めたり、ディスカッションのための重要なたたき台となります。

仮説を立てるために必要な情報は、公表されている文献などから得ることができます。自社の現状を徹底的に分析することも必要です。

仮説として明らかにする必要があるものは、まず、変革の必要性です。何故変わらなければならないのかを明らかにし、変革の目的・ゴールを定義しなければなりません。

次に、差別化構築のためのメカニズムを解明することです。つまり、競争優位性を構築するためにキーとなる要素を明確にし、それぞれの要素が何によって決まるのかを構造的に明らかにします。

ビジネス・メカニズムを構造的に把握・整理することによって、差別化に向けた変革の方向性に関する仮説が見え、どの要素を何によってベンチマーキングするかが明確になってきます。

ベンチマーキングの実施

ベンチマーキングは、公開された資料のみに基づくだけでは実施できません。対象とする会社を訪問し、詳細な調査を行わなければなりません。

事前準備を入念に行うことにより、効率を高める必要があります。一度の訪問で数多くのテーマをカバーすることにより、成功パターンの仮説を早期に検証することで、成果につながります。

コスト比較が正しくできるようにするために、自社のこれまでのコスト数値の算出方法がそもそも適切であるかどうかを再検討することも必要です。

多くの企業の経験によると、事前分析とベンチマーキング・プロジェクト設計を行い、最初の現場訪問をアレンジするには、4〜6週間は必要であるといいます。

訪問調査には、通常、6〜12名がチームとして動向するようです。

訪問結果の分析と評価にも、通常、訪問の場合と同じだけの時間がかかるといいます。そのため、包括的なベンチマーキング・プロジェクトは、最低4ヶ月、初めての場合は6〜9ヶ月かかるといいます。

競合他社のベンチマーキング

直接の競合他社をベンチマークとして現地調査を行うことは困難であると述べましたが、全く方法がないわけではありません。

例えば、情報交換会という形で、互いにベンチマーキング指標やベスト・プラクティスに関する情報を披露し合う方法があり、アメリカではコンサルティング会社の仲介によって実現しています。

情報交換会のコツとしては、経営トップから相手企業の経営トップに開催を依頼し、役員クラスの出席をセットすることです。

情報交換はギブ・アンド・テイクの範囲内でしか行われませんから、相手から知りたい内容については、自分たちが開示する情報にもしっかり含まれている必要があります。

情報交換会には、実際にプロセスを担当するライン責任者や幹部社員も参加させることによって、変革の必要性や方向性に対する納得感を醸成する必要があります。自社ができていないことを他社がここまでやれているという現実を突き付けられると、考え方が大きく進展するものです。

データの翻訳

ベンチマーキングによって得られた様々なデータは、自社比較用のデータに翻訳する必要があります。自社と他社では、前提となっている条件が様々に異なるため、その違いを調整する必要があります。