「能力」とは何か?

「能力」という言葉は、一般的に幅広い意味で使われており、日常的にも「○○能力」あるいは「○○力」という言葉が数多く使われています。

能力に関して科学的にアプローチしてきた学問分野は、主に心理学です。心理学では、能力を知能の側面からとらえてきました。それを偏った見方であると捉える向きもあるかもしれません。

確かに、能力には身体的なものや感性的なものもありますが、それらの能力を実際の場面に適用するうえでは、状況判断能力が求められることから、知的な側面が能力を支えているとは言えそうです。

「能力」の一般的な意味

「能力」を広辞苑で調べると、次のような意味が出てきます。

  1. 物事をなし得る力、働き
  2. 知性・感情・記憶など、精神現象の諸形態を担う実体
  3. ある機能がどれだけあるかという力、すなわち可能性
  4. ある事について必要とされ、または適当とされている資格

要するに、何かができる力を意味しています。日常的にも、「○○能力」という言葉が多数使われており、造語も多数生み出されています。

「能力」に関する科学的アプローチ

「能力」に関しては、科学的研究も古くから行われており、特に心理学がその中核を担ってきました。焦点は知的な側面に絞られており、専門用語としての「能力」は、知的能力もしくは知能として限定的にとらえられてきました。

能力単一説

知的能力に関する最も初期の理論は、イギリスの心理学者スピアマンによって提唱された「単一説」です。

スピアマンは、まず、人間の能力には、あらゆる知的活動に共通して働く「一般知能因子(g因子)」と、個別の知的活動に固有に発揮される複数の「特殊因子(s因子)」があると想定しました。

実際の学業成績に着目すると、英語、フランス語、古典、数学、音楽などの学業成績が高い相関を持つことが分かりました。つまり、ある教科がよくできる生徒は、他の教科もよくできるということです。

そこから、「能力」は、あらゆる活動、あらゆる場面を通じて発揮される単一因子(g因子)からなっていると考えました。

能力群因子説

その後、因子分析法の発展に伴って、実証データの解析に基づく「群因子説」が提唱されるようになりました。知的能力がいくつかの要素群からなると想定するものです。

サーストンは、実験結果に基づき、7つの基本的心的能力を発見しました。現在実施されている知能検査の多くが、これらと関連性を持つといいます。

  1. 言語理解
  2. 語の流暢さ
  3. 数的能力
  4. 空間能力
  5. 知覚
  6. 記憶
  7. 推理

能力多因子説

因子分析は更に進み、いわゆる「多因子説」へと発展しました。ギルフォードの「知能構造モデル」では、120の知的能力因子を仮定するに至っています。

これほどまでの要素分解に至らないまでも、人間は誰でも知能を複数持っているという考え方に従って、複数の次元から知能を把握していこうとする理論が提唱されるようになりました。

有名なのは、ガードナーの「多重知能理論」です。知的な側面に比重があるものの、身体的・対人的側面にまで知能を拡張してとらえています。

  1. 言語・語学知能
  2. 論理・数学的知能
  3. 視覚・空間的知能
  4. 音楽・リズム的知能
  5. 身体・運動的知能
  6. 対人的知能
  7. 内省的知能
  8. 博物的知能

最後の「博物的知能」とは、様々な事象に対して、違いや共通点を見つける能力のことです。

知能と職業との関係

心理学においては、以上のとおり、主として知的側面にフォーカスして「能力」をとらえてきました。この点について、見方が偏っているように感じられるかもしれません。

確かに、知能とは別に、身体的・感覚的・感性的な力というものが想定されることは、ガードナーの理論でも分かります。

しかし、すべての要素に「知能(intelligence)」という用語が用いられていることには理由があると考えられます。

例えば、優れたスポーツ選手は、身体的能力が優れていることに間違いありません。しかし、身体的能力だけでよい成績をあげることができるとは限りません。

そこには状況判断能力といった知的能力が付随しており、むしろその知的能力が身体的能力を制御しているという方が正しいように思われます。

職業能力に関しては、クロンバックによる研究の結果、知能指数と職業能力との間に相関関係があることが証明されています。

いかに身体を使う仕事であったとしても、その仕事を「うまくやる」ためには知的能力が重要な役割を担っていることは間違いないようです。

例えば、「技能」と呼ばれる能力には、言葉では伝えることが困難で、長年の経験によって培われる要素が含まれていることは否定できません。

しかし、それは言葉で表現することが難しいということはあっても、優れた状況判断があって、巧みに身体的能力を調整しているということができるのではないでしょうか。