協働行為の諸原則 − バーナードの組織論④

協働体系は、物的、生物的、個人的および社会的な諸要素によって構成され、またそれらが諸要因となって様々な影響や制約を受けています。

協働行為は、通常、制約となっている特定の要因に働きかけ、その要因を克服し、所期の目的を達成しようとします。

目的達成のために、ある特定の要因に働きかけることによって、一定の制約が克服し得るとみなされる場合、その要因を「戦略的要因」と呼びます。

諸要因への働きかけによって制約を克服し、協働の目的が達成されるとき、その達成の度合いを、協働の「有効性」と呼びます。

協働目的の達成の過程で、個人的動機の満足も同時に達成できるとき、その満足の達成の度合いを、協働の「能率」と呼びます。協働体系の「能率」は、各人の能率が合成されたものです。

要因の統合物としての協働行為と協働対象

協働行為は、通常、制約となっている特定の要因に働きかけ、その要因を克服し、所期の目的を達成しようとします。

特定の要因に働きかけるとはいっても、すべての協働行為自体が物的要因、生物的要因、社会的要因という様々な要因の統合物であり、働きかける対象も同様の統合物であるため、協働行為の影響は全体状況に及ぶことになります。

例えば、「話す」という行為は、人間が行う生物的事象です。また、音として空気中を伝播する物的事象でもあります。さらに、人間間の意思疎通ですので、社会的事象です。

「話す」という行為自体が、物的、生物的、社会的要因の統合物です。また、「話す」行為は、同じくそれらすべての構成要因を持つ全体状況の中で行われ、全体状況に影響を与えます。

「話す」という行為は、変えようとする努力によって変更できます。変更は、特定の要因に働きかけることによって行われます。部分に努力を加えることによって、全体に影響を与えます。

協働的状況における制約とその克服

制約は、様々な要因によって構成されていると説明することはできますが、諸要因が結合した全体状況として生じるというのが実態です。

しかし、特定の要因に働きかけることによって制約を克服するということからすれば、その特定の要因が、物的、生物的、社会的要因のいずれかから独立に生じてくると見ることがしばしば便利です。

戦略的要因

ある目的達成のために克服すべき制約が一つの要因によるものとみなされ、そこに向けて行為に着手するという観点を持つことができる場合、その要因は「戦略的要因」と呼ばれます。

ただし、働きかけを行う対象が特定の戦略的要因であったとしても、その働きかけを通して全体状況に変化を引き起こすことによって制約が克服されます。

協働への参加の動機

協働体系を形成しようとする場合、そこに参加するかどうかの選択は、個人的なものです。自分の個人的状況が改善されると予想する場合に、協働に参加しようとするはずです。

協働体系を形成すると、そこに生まれる人間関係の相互作用によって、新たな社会的要因が生み出されます。これによって、物的要因や生物的要因それ自体に変化がなくても、全体状況の中で、それらの要因の効果が変化します。

例えば、社会的接触による喜びからの満足感が加わることで、メンバーの仕事の能率が高まることがあります。逆に、不調和から能率が低下することもあるでしょう。

しかし、協働による社会的満足は、単なる人間同士の接触だけでは十分ではなく、何らかの活動目的を必要とします。

メンバーが加わり、ある目的達成に向けて協働を行ってくと、少しずつ目的も変化します。変化した目的を達成するために、更にメンバーを追加する必要が出てきます。

リーダーの選出

協働が進行するにつれて、個人の努力が適切に調整できなくなるときが来ます。そうなると、ある特定のメンバーを調整役のリーダーに立て、その他のメンバーへの仕事や道具の割当を行わせます。

これは社会的要因に働きかけを行うことによって、生物的要因と物的要因の効果を高める例です。

協働の促進

生物的・物的・社会的要因のそれぞれは、特定の要因に働きかけることによって他の要因の効果を高めたり、特定の要因に働きかけるために他の要因を利用したりすることで、その全体状況を変えるための手段となります。

このような働きかけの究極の目標は個人的動機の満足ですが、その直接の結果には、協働のより一層の促進が含まれます。

協働を促進するための物的要因への働きかけは、主として自然的環境を意図的に変化させるという形をとります。例えば、建設、運輸、通信、道具の開発などです。

生物的要因への働きかけは、人間の能力を高めるという方法であり、教育訓練が代表的です。仕事を専門化することによって個人の熟練度を高める方法もあります。公衆衛生、医療などもあります。

社会的要因への働きかけは、人間関係を効果的にするための工夫です。

これら諸要因への働きかけによって制約を克服し、協働の目的が達成されることを、協働の「有効性」と呼びます。

協働の目的は非人格的なものであり、その達成が有効であるかどうかは、協働体系によって何らかの方法で決定されるべきものです。

しかし、協働の促進という観点からは、行為およびその結果が個人的動機を満たすに必要な諸力や物を協働体系のために十分確保したかどうかも、有効性の決定の基礎になります。

これによって、参加者は、調整された行為を継続すれば目的の達成が可能であることを信じることができます。この信念が持続できなければ、協働を促進することは困難です。

協働行為の有効性には、協働体系内の個人的行為の有効性を含みます。ただし、あくまで協働行為への貢献という意味での有効性ですから、他の人々の行為が不変であるという仮定を置かなければ評価することは困難です。

協働行為の有効性を維持するために、具体的な仕事を個人に割り当て、それを明確に要求することが可能であれば、その要求どおりに仕事をすることが、個人的行為が有効であることを意味します。

協働体系には「有効性」とは別に「能率」の概念もあります。「能率」は個人的動機の満足に関連します。努力を提供する各人の能率の合成されたものが、協働体系の「能率」です。

個人は、自分の行為によってその動機が満たされない限り、協働的努力には参加しませんし、参加し続けることはありません。個人が協働的努力に貢献する程度は、個人的動機の満足度に関わります。

協働体系の「能率」は、個人的行為の負担と個人的動機の満足との「均衡」の問題であると言うこともできます。

能率(均衡)は、個人の動機を変えるか、適切な動機を持つ人と交代させるか、個人に協働成果を分配するか、のいずれかの方法によって得られます。協働成果は、通常、物質的なものと社会的なものの両方を含みます。

協働成果は、いかに能率的な体系であったとしても有限ですから、個人の貢献に対して公平に分配される必要があります。したがって、分配方法や分配過程も協働体系の能率に影響を与えます。

協働体系が、個人的行為の負担と等しいだけの分配しか与えることができないなら、その人にとっては利得がないことになり、協働体系に参加し続ける誘因(インセンティブ)とはなり得ません。

したがって、協働体系が能率的であるためには、満足の余剰を作り出す必要があります。その場合の満足は、個人が貢献として負担する行為とは異なった種類のものであり、物的な満足と社会的な満足との合計で考える必要があります。

つまり、個人にとっての「能率」は、満足のいく「交換」であるということもできます。協働の過程には、満足のいく交換の過程も含まれなければなりません。