グローバリゼーションの適切な進め方 – グローバリズムの正体⑩

グローバリゼーションは今日、機能していません。だからといって、グローバリゼーションを断念することはできません。実際に、グローバリゼーションは大きな利益をもたらしてきたからです。

問題はグローバリゼーションにあるのではなく、それをどのように進めるかにあります。

問題の一端は、IMF、世界銀行、WTOといった国際経済機関にあります。これらの機関は、発展途上国の利益よりも先進諸国の利益(の一部)を考慮してきました。さらに、特定のイデオロギーによって対処することが多かったのです。

IMFの思考を支配してきたのは金融界の利害ですが、WTOの場合は商業界の利害でした。この場合の問題は、当人たちが特定業界の利害を追求しているつもりはなく、自分たちの施策が一般の利益に適うと心から信じているため、手段を選ばず自分たちの考えを受け入れさせようとすることです。

世界各地の経済構造は著しく異なっているだけでなく、時と共に変化するものです。経済学は、金融機関の役割、情報、グローバルな競争の変化にその関心を集中してきました。そして、この変化は、危機への対処法をも変えてきました。

しかし、世界銀行とIMFは、新しい変化とそれが経済政策に与える影響を認めたがりませんでした。イデオロギーは、それを通して世界を見るレンズ、すなわち経験による実証をほとんど必要としないほど固い信条を与えます。これらの信条に反する証拠は即座に却下されます。

自由化が不安定をもたらす証拠があったとしても、それは市場経済への移行に当たって耐えなければならない痛みであり、一つの調整コストに過ぎないとして無視されてきたのです。

グローバリゼーションの潜在的利益を現実のものとするためには、環境に配慮すること、貧しい人々が自分たちに影響を及ぼす決定に発言権を持てるようにすること、そして民主主義と公正な取引を堅持することが必要です。

発展途上国には、発展を助ける形で援助が与えられるだけでなく、より広範な援助を与えることも必要です。比較的少ない資金で、健康や識字率の向上に大きな差が出てくるからです。

IMFには、一種の国際通貨である特別引出権(SDR)を創出する権利が与えられています。SDRを発行してグローバルな公共財に資金を供給することは、グローバル経済の力を維持すると同時に、世界の最も貧しい国の助けにもなります。

グローバルな経済資源(海底の鉱物や海洋の漁業権)からの収益を、開発援助への資金として使うこともできるでしょう。

主権国家の責任と役割

発展途上国の多くの人々にとっては、グローバリゼーションは経済現象を遥かに超え、その国の伝統的な価値観を揺るがし、大きな変化をもたらす可能性があるとみなされます。

必要なのは、公正で民主的かつ維持可能な成長のための政策です。発展途上国の広範なエコノミスト、当局者、エキスパートが議論に積極的に参加できなければなりません。

政策の内容については、社会の変容と貧しい人々の生活を両立させ、すべての人々に成功のチャンスが与えられ、医療や教育を受けられるようにすることが大切です。

国際経済機関におけるガバナンスの変革

グローバリゼーションを機能させるためには、必要なルールの制定を助けるグローバルな公共機関が必要です。

このような機関は世界政府ではありません。あくまで、グローバルな共同行動が望ましい問題、またそれが必要とされる問題に焦点を合わせることが必要であり、国家の主権を侵害するようであってはなりません。

また、特定の業界や国家の利害にのみ左右されてはならず、国際的な協調のうえに支援先である相手国の経済の成長や安定を目指すものでなければなりません。

グローバリゼーションのための七大改革

展途上国におけるグローバリゼーションの進め方について、スティグリッツは、7つの重要な改革を提案しています。

そこでは、性急な自由化を戒めたうえで、政府の積極的な役割を明確にしています。自由化を進めるにしても、厳格なルールがあってこそ機能するものであるからです。

グローバリゼーションの過程では、必ず、一定の産業の盛衰や失業の発生、社会の変革が伴いますから、リスク管理やセーフティ・ネットの整備も必要です。

世界銀行の改革

スティグリッツが所属していた世界銀行では、必ずしも満足できるとは言えないまでも、改革が進みつつあったといいます。当時の新総裁が、発展途上国の声にもっと耳を傾ける組織にする方向でかなり動きました。

改革に当たっては、開発、一般的な援助と世界銀行の援助、世界銀行と発展途上国との関係という3つの領域で考え方を変える必要がありました。

方針を見直すに当たり、成功した開発がどのように行われたかを調べました。予算の制約内でやっていくことの重要性、女性の教育を含む教育の重要性、マクロ経済の安定の重要性が明らかでした。強固な技術的基礎を確立する必要があり、それには高等教育への支援が必要でした。

概して、成功した国々は、開発に対して技術的な問題を遥かに超えた包括的なアプローチをとりました。平等と経済成長を同時に促進することは可能です。実際、多くの平等主義的な政策が経済成長を助けていました。

貿易と開放性への支援は重要ですが、過去の例において成長を生み出したのは輸出拡大がもたらした仕事の口であって、輸入拡大による失業ではありませんでした。政府が輸出や新事業を奨励する措置を講じたときには自由化は機能しましたが、それ以外の場合は大抵うまくいきませんでした。

政府は、貯蓄と投資の効率的配分を促す機関の創設を支援することにより、順調な開発を進めるうえで中心的な役割を果たしました。

成功した国々は、このほかに、民営化を巡る競争と創業、既存企業のリストラも重視しました。

30年前、左派と右派のエコノミストたちの意見は、資本供給の増加と効率アップが開発の核心であるという点で一致していました。意見が異なったのは、そうした変化が政府主導の計画によってもたらされるべきか、自由な市場によってもたらされるべきかという点だけでした。

結局、どちらもうまくいきませんでした。発展は、資源や資本だけでなく、社会の変容も伴います。この変容の責任が国際経済機関にないのは明らかですが、そのプロセスにおいて重要な役割を果たすことはできます。

WTOの改革と不公平な貿易政策の是正

シアトルで開かれたWTOの会議で、グローバリゼーションに対する世界的な抗議が始まりました。グローバリゼーションが、世界的な不公平と先進工業国の偽善ぶりを示す最も明白な象徴だったからです。

先進工業国は、発展途上国に市場の開放を説き、強制する一方で、織物や農産物など、途上国の製品に対しては市場を閉ざし続けました。途上国の政府は特定の産業を助成すべきでないと説く一方で、自分たちは助成金として農家に何十億ドルも支給しつづけ、途上国の競争を不可能にしました。

アメリカは競争市場の価値を説く一方で、国内産業が輸入品に脅かされると、直ちに鉄鋼とアルミニウムについて世界的なカルテルを要求しました。金融サービスの自由化を要求する一方で、途上国が力を持っている建設業や海運業の自由化には抵抗しました。

特に重要な分野の一つが知的財産権でした。創意工夫に富む人に新しい工夫を見出そうとする動機を与えようとするなら、知的財産権が重要です。しかし、先進国の研究者や生産者の権利や利益と、途上国の利用者の権利や利益とのバランスをとる必要もあります。

WTOの改革においては、貿易政策について、途上国の利益を扱ううえでのバランスや、貿易の範囲を超えた環境のような問題を扱ううえでのバランスについて考える必要があります。