主権国家の責任と役割 − グローバリズムの正体⑪

発展途上国において、IMFの支援のもとでグローバリゼーションを進める際は、国のエリート層による旧来の独裁が、国際金融による新たな独裁にとって代われるだけであることも少なくありません。各国は一定の条件に従わなければ支援を断られるからです。

これは主権の一部を放棄するよう強いられるのと同じです。

発展途上国の多くの人々にとっては、グローバリゼーションは経済現象を遥かに超えたものです。グローバリゼーションが非難される理由の一つは、伝統的な価値観を揺るがすように思われるからです。

必要なのは、公正で民主的かつ維持可能な成長のための政策です。これが開発の動機です。開発とは、社会の変容と貧しい人々の生活を両立させ、すべての人々に成功のチャンスが与えられ、医療や教育を受けられるようにすることです。

国がとらなければならない政策をごく少数の人間が決定している限り、この種の開発は進展しません。民主的な決定が下されるようにするというのは、発展途上国の広範なエコノミスト、当局者、エキスパートが議論に積極的に参加できるようにすることを意味します。

公正、民主および持続性の重視

各国には、主権国家として政策の選択権があり、選択肢の中には、国際資本市場にどの程度まで従いたいかということも含まれます。

それぞれの政策が及ぼす影響は国によって異なるので、どの選択肢を選ぶか決めるのは、国際官僚ではなく、その国の政治過程の役割です。

そのために成長が鈍ったとしても、それはより民主的で公正な社会を実現するために多くの途上国が喜んで支払う代価です。ゆっくりとしたプロセスをとれば、伝統的な制度や規範は圧倒されることなく、新たな難題に適応し、対応することもできるはずです。

多様な改革戦略が必要です。外部のアドバイザーは、特定の政策を強制して民主的な意思決定を損なってはいけません。多様な政策を提示し、それぞれの政策が、様々なグループ、特に貧しい人々に与える影響などを明らかにして、民主的な意思決定を支援する必要があります。

発展途上国が自ら引き受けられる改革を奨励すべきです。その代わり、途上国は、自らの幸福について責任を引き受けなければなりません。

予算は乏しいかもしれませんが、その範囲内でやっていけるように予算を管理し、少数の人には大きな利益を生むが消費者が高い代償を払うことになる保護貿易障壁をなくしていく必要があります。

厳しい規制を敷くことで、国外の投資家や国内企業の不正行為から国を守る必要もあります。そのために、途上国には有能な政府が必要です。強力で独立した司法部を持ち、民主的な説明責任を果たし、開放性と透明性を備え、公共セクターの有効性と民間セクターの成長を阻害してきた腐敗とは無縁な政府が必要です。

発展途上国が国際社会に要求すべきことは、誰がリスクを引き受けるべきかについて、自国の政治過程を経たうえでの判断を反映する形で、途上国自身が選択する必要と権利を手に入れることです。

先進国には、自らも途上国に対して貿易障壁をなくすなどして、自ら説くところを実践する特別な責任があります。

途上国に対しては債務免除も必要です。債務免除を受けなければ、発展途上国の多くは全く成長できないからです。途上国では、輸出額のかなりの部分が先進国からの負債の返済に使われているからです。

政府の役割

自由市場イデオロギーの代わりに経済学に基づく分析が必要であり、市場の失敗と政府の失敗の両方を理解したうえで、政府の役割についてバランスのとれた見方をする必要があります。

経済学は、これまでの間、なぜ、どのような条件のもとで市場はよく機能するのか、またどんな場合にうまく機能しないのかを説明してきました。

市場のプロセスは、生き延びられるだけの資産を持たない多くの人々を取り残してしまう可能性があります。

政府は、こうした市場の失敗を緩和するばかりではなく、社会正義を確保するために極めて重要な役割を果たすことができます。あらゆる社会や経済を効率的かつ人に優しく機能させるうえで、政府が重要な役割を果たすという点については、幅広い合意が存在します。

ただし、弱体な政府と過度に介入する政府は、いずれも安定と成長を損ないます。

経験を積んだ経済学者の間にさえ、政府と市場の役割についての考え方には本質的な意見の相違が存在します。しかし、いくつかの問題については広範な合意が存在するのです。

例えば、ハイパーインフレのもとで経済はうまくいかないという合意がありますが、インフレを低いレベルに抑えることがどれほどの利益を生むのかについては意見の一致がありません。

問題は、広範な合意のない提案や政策勧告を、あたかも定説であるかのようにIMFが提示することです。資本市場の自由化がまさにそうです。

そもそも、経済学がすべてに優先され、経済学に特有のものの見方(市場原理主義)がすべてのものの見方に優先されることが、グローバリゼーションに対する不満を掻き立てています。

欧米先進国では、マクロ経済だけでなく、破産法の内容や社会保障の整備といった経済政策のあらゆる側面について活発な議論が交わされているにもかかわらず、発展途上国では自ら選択する機会を奪われており、先進国が自国において拒否した方策を押し付けられているのです。

現実の経済局面に応じた対策

経済政策は、イデオロギーではなく、現実に生じている経済の局面に応じて選択されなければなりません。

政府の浪費と緩すぎた金融政策によって、巨額の赤字と深刻なインフレが生じているような場合は、過剰な需要を抑えることが重要になります。

深刻な経済の下降に直面している場合には、金融政策と財政政策の双方を通じて、総需要を刺激しなければなりません。税金を減らし、支出を増やし、金融を緩和することです。経済を完全雇用状態に維持し、できるだけ長期的な成長をうながすことです。

経済の下降期に完全雇用を維持しようとすれば、必ず赤字が計上されるものですが、それ自体は問題ではありません。経済が上昇期に入れば、税収も増加し、赤字は減少していくからです。

経済の破綻こそが税収の大幅な減少につながり、予算のバランスがとれなくなるのですから、そのような時期に増税によって税収を確保しようとしたり、緊縮財政で予算のバランスをとろうとしたりすると、経済を危機的な状況に追い込むことになります。

金融の再構築、すなわち弱い銀行システムという問題にしっかり対処することは重要です。しかし、第一に行うべきは、金融の流れを維持することであり、そのために対外債務の返済を一時停止させることも必要です。

金融の流れを維持するには、現存する機関の再構築にもっと力を入れなければなりません。そして、企業の再構築には、マクロ経済の大揺れから生じた経営難の迅速な解決を測るため、特別な破産条項を設けることが必要です。

政府の介入は財務上の再構築を目的とすべきです。会社の所有者を明確にして、会社が再び市場に参入できるようにします。そうすれば、会社は為替相場が下がっているのを大いに利用して輸出を伸ばすことができます。資産の掠め取りをしようとする誘惑もなくなります。