グローバリズムの正体

ここでは、『Globalization and its discontents』(邦題『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』(鈴木主税[訳])について紹介します。

本書は、国際通貨基金(IMF)等によるグローバリズム・イデオロギーが、多くの国で飢餓と暴動を生み出してきた事実を告発し、あるべきグローバリゼーションの姿を示そうとするものです。

本書の著者であるジョセフ・E・スティグリッツは、1993年3月に米国クリントン政権の大統領経済諮問委員会に参加し、1995年には同委員会の委員長に就任しました。

1997年1月に同職を辞任した後、世界銀行の上級副総裁兼チーフ・エコノミストを2000年1月まで務め、2001年に「情報の経済学」の分野でノーベル経済学賞を受賞しました。

著者が本書を執筆した動機は、世界銀行にいたときに、グローバリゼーションが発展途上国、特にその国の最貧層に破壊的な影響を及ぼすのを目の当たりにしたからです。

特にIMFの政策は、経済学者が長年用いてきた標準的なモデル、すなわち市場が完全に機能すると主張し、失業の存在さえ否定するような時代遅れの仮定に基づくものでした。証拠を踏まえて最善と思われる行動を決定するのではなく、イデオロギーや政治によって証拠が捻じ曲げられていました。

人々はグローバルなコミュニティを形成しており、あらゆるコミュニティがそうであるように、何らかのルールに従わなければ共生していくことはできません。しかも、そのルールは誰から見ても公正なもの、すなわち権力者と同じく貧者に対しても当然の配慮をした、基本的良識と社会正義を反映するものでなければなりません。今日の世界では、それらのルールは民主的なプロセスを通じて形成され、その影響を被るすべての人々の要望に留意し、応えるものでなければなりません。

そのためには、透明性を高める必要があります。IMFと世界銀行がやっていることについて市民に情報を与え、その政策によって影響を被る当事者にもっと発言権を持たせて、自ら立案に関われるようにすべきです。

各国においては、自国の成長を促すだけでなく、その成長が最も公平に共有されるような政策をとるべきです。そのために、民営化と市場競争によって、会社が最も効率を高めて消費者に提示する価格を下げる必要があります。

市場競争が正常に機能するためには、ルールや仕組みが必要です。さらに、市場参加者への教育など、それを働かせるための取り組みも必要です。そのためには、十分な時間をかけて段階的に取り組むことが必要です。

市場は、自由化すれば直ちに効率的に機能し始めるということはあり得ません。ルールや仕組みをつくるためにもそうですが、市場経済が起動に乗り、それを維持する(市場の失敗を補完する)ためには、政府の一定の関与がどうしても必要になるのです。

グローバリゼーションとグローバリズム

「グローバリゼーション」と「グローバリズム」は同じではありません。

スティグリッツは「グローバリゼーション」を肯定します。グローバリゼーションが自由貿易の障壁を取り払い、世界各国の経済をより緊密に統合することによって、世界中の人々、とりわけ貧しい人々を豊かにする可能性を秘めていると確信しているからです。

しかし、「グローバリズム」については、問題があると考えています。「グローバリズム」はイデオロギーであり、グローバリゼーションを半ば強制的に押し付けようとするものです。

特に、スティグリッツが批判するグローバリズムは、IMF等が自由市場の万能性を極端に信奉し、それに政治的自由主義(政府の介入排除)をも加えて融資の条件として、発展途上国に強要するものです。

国際通貨基金(IMF)と世界銀行の成り立ち

国際通貨基金(IMF)と世界銀行は1944年に誕生しました。目的は、荒廃したヨーロッパの債権に資金を提供し、将来の経済不況から世界を救うための協調した努力を行うことでした。

IMFの設立当初にその方針を牽引したのは、ケインズ理論、すなわち経済不振に対して政府が積極的に介入しようとするものでした。ところが、IMFの方針が、緊縮財政、民営化、市場の自由化をイデオロギーとして押し付ける政策に変容していきました。

グローバリゼーションの適切な進め方

ローバリゼーションはまともに機能してきませんでした。だからといって、グローバリゼーションを断念することはできません。実際に、グローバリゼーションは大きな利益をもたらしてきたからです。

問題はグローバリゼーションにあるのではなく、それをどのように進めるかにあります。

問題の一端は、IMF、世界銀行、WTOといった国際経済機関にあります。これらの機関は、発展途上国の利益よりも先進諸国の利益(の一部)を考慮してきました。さらに、特定のイデオロギーによって対処することが多かったのです。

グローバリゼーションの潜在的利益を現実のものとするためには、環境に配慮すること、貧しい人々が自分たちに影響を及ぼす決定に発言権を持てるようにすること、そして民主主義と公正な取引を堅持することが必要です。