マネジメントの仕事

マネジメントは自立した客観的な役割を持つ存在ですから、行うべき職務が明確に存在します。

職務を設計するに当たっては、まず前提として、達成すべき課題を知る必要があります。

次に、すべてのマネジメントに共通の仕事を明らかにし、最低限必要な資質を確認します。

さらに、職務の設計に当たって不可欠な条件を確認します。最大の貢献を求めること、マネジメント限界の法則です。やってはいけないこともあからじめ知らなければなりません。

最後に職務設計の視点を確認します。マネジメントは組織の成果に責任を持つ者ですから、自らの責任で職務を設計し、提案することが原則です。

マネジメントの課題

ドラッカーによると、マネジメントには2つの課題があります。それらの課題を達成できるように、職務を設計しなければなりません。

投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造すること

オーケストラの指揮者に似ています。行動、ビジョン、指導力を通じて、各パートが総合され生きた音楽となります。

投入した資源の総和よりも大きなものを生み出すためには、次の条件を満たす必要があります。組織をつくる理由そのものです。

  • 資源、特に人的資源のあらゆる強みを発揮させる。
  • 資源のあらゆる弱みを消す。

個々の活動と全体の成果をともに見ながら、多様な活動が相乗的な成果をもたらすよう留意します。次の問いを同時に発することが必要です。

  • 事業全体のいかなる成果の改善が必要か。そのために個々の活動で何が必要か。
  • 個々の活動のいかなる改善が可能か。その結果、事業全体のいかなる業績の改善が可能か。

資源が投入されるのは、組織全体の目標に貢献するためであることを忘れてはなりません。

なお、マネジメントが行う決定と行動は、マネジメントの3つの役割にとって適切でなけれならいことは言うまでもありません。

  1. 事業のマネジメント
  2. 人と仕事のマネジメント
  3. 社会的責任の遂行

あらゆる決定と行動において、ただちに必要とされているものと遠い将来に必要とされているものを調和させていくこと

マネジメントにとっての第4の次元:時間に関する課題です。

すべての決定と行動は、常に現在と未来、短期と長期の視点で行う必要があります。できれば両者の視点を調和させ、少なくともバランス(トレードオフを最小化)させる必要があります。

マネジメントに共通の仕事

マネジメントには各人異なった仕事がありますが、共通の仕事をあげると、次の5つになります。

  1. 目標を設定する。
    • 目標を持つべき領域を定める。
    • ゴールを決める。
    • 行うべきことを決める。
    • 連携する人たちとのコミュニケーション
  2. 組織する。
    • 活動、意思決定、関係を分析し、仕事を分類する。
    • 分類した仕事を活動に分割し、作業に分割する。
    • 組織構造にまとめる。
    • 活動と部門のマネジメントを選ぶ。
  3. 動機づけとコミュニケーションを図る。
    • チーム・ワーク
    • インセンティブ、報奨
    • 昇進に関わる方針の提示
  4. 評価測定する。
    • 評価尺度を定める(全体の成果、自らの仕事、部下に対する助けに焦点を合わせる)。
    • 成果を分析し、評価する(自己管理の手段)。
    • 尺度の意味と成果を部下と上司、同僚に知らせる。
  5. 人材を育成する。

マネジメントの資質

マネジメントの仕事は体系的な分析の対象となるので、その能力はほとんど教わらなくとも学ぶことができると、ドラッカーは言います。

  • 人を管理する能力
  • 議長役や面接の能力

マネジメントの人材開発に有効な方策も明らかになっています。

  • 管理体制
  • 昇進制度
  • 報奨制度

しかし、どうしても学ぶことができない、教えることもできない根本的に必要な資質があると言います。

真摯さ:まじめで、ひたむきな様(原語では「integrity」(健全さ、誠実さ))

  • 一流の仕事を要求し、自らにも要求する。
  • 基準を高く定め、それを守ることを期待する。
  • 何が正しいかだけを考え、誰が正しいかを考えない。
  • ともに働く人たちに対しても、真摯さより知的な能力を評価したりはしない。

オートメーションといった新しい技術のもとでは、意思決定が事業に与える影響、対象とする時間的な広がり、もたらすリスクが大きくなるため、マネジメントは、自らの利益よりも企業全体の利益を重視することが求められます。

さらに、社会のリーダーとしてのマネジメントである以上、哲学をもってあらゆる行動と意思決定を行い、知識、能力、スキルだけでなく、ビジョン、勇気、責任、真摯さをもって人を導くことが求められます。

最大の貢献を求める

マネジメントには、その仕事に応じて、最大の貢献を求めなければなりません。設定できる最大の責任、最大の挑戦を求めなければなりません。それに見合った十分な大きさと重さの仕事を設定します。

それに伴って最大限の権限を与えなければなりません。

意思決定を可能な限り現場に近いところで行うこと

を意味します。組織は変化に対応するためにも、高度に分権化しなければなりません。

組織は、迅速な意思決定ができなければなりません。そのために、成果と市場や技術に密着し、さらに、イノベーションの機会として利用すべき社会、環境、人口構造、知識の変化に密着したものでなければなりません。

このようなドラッカーの考えは、これまでの権限委譲の考え方とは全く異なります。

元々上層部が持っている権限を現場に委譲するのではなく、元々権限は現場にあるということです。現場の最前線でできないことが上層に委譲されるという考え方です。

いかなる事業を行うかは、トップ・マネジメントが決めます。目的、目標、計画、組織化、最前線における実行と定められていきます。上層から下層に仕事が定められていきます。

しかし、マネジメントの仕事は下から決めなければなりません。最前線の活動からスタートします。成果は外にあるからです。

事業の定義は、顧客の欲求からスタートしたものですから、成果は顧客にあります。最前線のマネジメントの仕事ぶりにすべてはかかっているのです。

その意味で、現場の最前線をマネジメントする現場管理者は重要です。彼らにできる限り大きな仕事、権限と責任、組織単位を与えることは、明日の上位マネジメントを育成するためにも有効です。現場管理者の仕事について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

上層のマネジメントの仕事は、最前線のマネジメントを助けるための派生的な仕事にすぎません。

最前線でできないことが上層に委ねられるのが本来の姿です。上層に委ねられるべき意思決定を明文化し、明文化されていない権限はすべて下位のマネジメントに属すると決めるのがよいでしょう。

ただし、

現場の意思決定には限界がある

ことも知っておく必要があります。

現場のマネジメントが行うべき仕事の範囲は限定されているからです。ある地域を担当する販売責任者は、他の地域の販売責任は持ち得ませんし、担当地域の販売を超えるような事業全体の意思決定は当然行えません。

組織の価値観に影響する意思決定も行うべきではありません。上位のマネジメント(通常はトップマネジメント)の役割です。

たとえ部下に関わる意思決定であっても、部下のキャリアや将来を左右するような意思決定は、組織の長期的な方針や価値観に関わる内容であり、単独の意思決定権を認めることは不適当です。

権限や責任は、常になすべき仕事を中心に与えられるべきですから、仕事の範囲を超えた意思決定を要求してはいけません。本来なすべき意思決定の妨げにさえなります。

職務設計の視点

本来の機能

マネジャーの仕事そのものであり、継続的な職務です。例えば、市場調査部長や製造部長としての仕事です。

割り当てる仕事

個々のマネジャーに対し、組織や上司が設定する責任であり、貢献の責任です。

職務規定に示したものを超えていることが、優れた成果をあげる者の印です。

上、下、横との関係によって規定される仕事

上司、部下、同僚のそれぞれが成果をあげるために、自らがなすべき仕事、貢献について考えます。

特に上司との関係が重要です。なぜなら、マネジメント自身の昇進や昇給の決定、仕事の方向性や目標の決定・承認の権限をもつのは上司だからです。上司の管理について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

必要とする情報とその情報の流れにおける彼の位置によって規定される仕事

仕事に必要な情報が何か、どこから手に入れるかを常に考えます。それらの情報を提供してくれる者に対して、必要とする情報の内容と、その理由を理解してもらう必要があります。

上、下、横の誰が、いかなる情報を自分に頼っているかも考えなければなりません。

以上の4つの視点で職務設計を行いますが、ドラッカーは、やってはいけない職務設計の間違いを指摘しています。狭すぎる職務や異なる資質を同時に要求する職務は間違いです。詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

マネジメントの責任

最終的な職務の決定は、上司であるマネジメントが行います。

大事なことは、マネジメント自身が、職務設計の視点から自らの仕事を主体的に知り、自ら設計し、提案する責任があるということです。「組織の成果に責任を持つ」ことが、マネジメントだからです。

  1. 自らの職務を書き表す。
  2. 自身の成果と貢献について提案する。
  3. 自らの部門が責任を負うべき成果と貢献について提案する。
  4. 他との関係を列挙し、必要とする情報と他に貢献できる情報を明らかにする。

他人がマネジメントを奮起させることはできません。自分で自分を奮起させる必要があります。

その方法が、自ら仕事の基準を設定することです。自ら設定した目標によって、自らを奮起させなければなりません。