上司の管理

組織のマネジメントは、文字どおりトップである場合を除いて、上司をもちます。

ドラッカーは、あらゆるマネジメントの成果や成功にとって、上司ほど重要な存在はないと言います。なぜなら、マネジメント自身の昇進や昇給の決定、仕事の方向性や目標の決定・承認の権限をもつのは上司だからです。

さらに、成功して昇進していく上司のもとで働き、その上司に認められることが、自らの成功を保証する最善の方法であるからです。

ところが、マネジメントの仕事として重視され、研修などで取り上げられるのは、大抵の場合、部下を管理することです。

実際のところ、マネジメントは、部下との関係よりも上司との関係で悩みを抱えていることが多いとも言われます。

ドラッカーによると、上司の管理は部下の管理よりも容易であり、なすべきこともなすべきでないことも、わずかであると言います。

なすべきこと

上司の管理は義務であり利益であると認識する

上司こそが成功の鍵であることを考えれば、上司が可能な限り効果的に働き、仕事を成し遂げてくれることが何よりも重要です。

ですから、部下である自分は、上司がそうできるようにサポートしなければなりません。

「マネジメント」とは、組織の成果に責任をもつ者です。それは、当然に、上司の仕事の成果にも責任をもつことを意味します。

上司に聞く

上司の仕事の成果に責任をもつためには、まず、上司のニーズを知らなければなりません。ニーズを知るためには、直接上司に聞かなければなりません。見ていて分かるものではありませんし、無駄に推測することにも意味はありません。

ドラッカーは、少なくとも年に一度は上司に対し、次のことを聞くことが必要であると言います。

  • 自分や自分の部下がすることで、上司の仕事の役に立つことは何か
  • 逆に上司の迷惑になることは何か

上司の個性を知る

上司もまた人であり、万能ではあり得ません。上司にも個性があります。個性とは、強み(長所)もあれば、弱み(短所)もあるということであり、それらは人それぞれで違うということです。

例えば、上司への報告の仕方について、次のどちらを望むかは人によって違います。

  • 定期的に計画の進捗状況を報告する
  • 何か変化が起こった場合や新しいことを行う場合に報告する

文章による詳細な報告を好むか、図表などによる簡潔な報告を好むかも違います。このことは、聞くことが得意か、読むことが得意かにも関わります。

朝の仕事始めの報告を好むか、夕方の仕事終わりの報告を好むかも違います。

意見や方針を絞り込んだうえでの報告を求めるか、上司も積極的に議論に参加したいと希望するかも違います。一般的に、上司の得意分野に関わる場合は、自らも議論に参加して意思決定したいと考えることが多く、苦手分野に関わる場合は、ある程度詳しい人たちが議論した結果の報告を求めることが多いようです。

上司との間に信頼関係を築く

上司の管理といっても、上司を指揮・命令することはできません。上司が仕事で成果をあげてもらうためになすべきことをなし、それを上司に受け入れてもらうことが必要です。

そのためには、上司との間に信頼関係を築き上げることが必要になります。そのためにもっとも重要なことは、上司の強みと弱みをよく理解したうえで仕事ができることであり、それができることを上司に認識してもらうことです。

人は強みによってしか成果をあげることができず、弱みは成果を妨げるものですから、上司の弱みが出ることを防ぎ、強みが発揮できる方向で仕事をすることが、結局のところ、上司に成果をあげてもらうために部下としてなすべき最善の仕事であると言えます。

上司に自分のことを知らせる

上司が仕事で成果をあげることに貢献することが部下としての仕事ですが、部下である自分にも個性があります。部門としての使命、なすべき仕事があります。仕事における優先順位もあります。さらに、自分の部下にもなすべき仕事や個性があります。

そうであれば、自分や自分の部下の仕事とその優先順位、強みや弱みを、上司にあらかじめ理解してもらわなければなりません。上司が自分や自分の部下に期待できることを知ってもらわなければなりません。

上司は当然に理解してくれていると思うべきではありません。上司の側に全面的に知る責任を負わせてはいけません。自ら積極的に上司に知らせなければなりません。

上司が十分に理解しているからこそ、部下を信頼して権限委譲ができるようになります。

仕事の裁量がないと嘆いているなら、上司が自分を信頼していないからです。信頼が得られていないのは、上司が自分のことを十分に理解してくれていないからです。

やってはいけないこと

上司を不意打ちに合わせてはならない

部下の立場であらかじめ想定できる懸念や警告は、上司によく伝えておかなければなりません。

上司の責任に関わることについて不意打ちに合うことは、上司に恥をかかせ、上司の自尊心を傷つけることになります。上司の信頼を失ってしまうことは必定です。

上司を低く評価してはならない

部下から低く見られているなら、上司は必ずそれを見抜きます。上司が、そのような部下を信頼することはありませんし、人間関係もギクシャクすることは間違いありません。

ましてや、自分のことを低く見ている部下を、上司の方が高く評価することはまずありません。