マネジメントの職務設計における間違い

マネジメントには、その役割に相応しい職務を設計しなければなりません。

マネジメントにもっとも必要なことは、自らを動機づけ、組織の目標に貢献する責任を自主的に引き受けることです。特にマネジメントが部下をもつ場合、マネジメントの仕事ぶりが部下の仕事ぶりにも影響を与えます。

マネジメントのやる気を引き出すには、仕事そのもにやりがいがあり、仕事を通じて成長を実感できることが大切です。

だからといって、仕事を通じて自らを壊すような無理な要求をしてもいけません。マネジメントにも限界があります。

間違った職務設計

狭すぎる職務

職務の範囲が狭すぎると、優れた者であっても成長することができません。

数年ですべてを身につけられるほど狭く設計した職務では、欲求不満になります。その職にある限り、学び、育つことのできるものでなければいません。

次の昇進のための一時的なポストになっている仕事や、昇進のインセンティブが著しく強い組織で、そのような問題があり得ます。

昇進が目的では、仕事に意味がなくなります。昇進する者は常に少ないですから、昇進が報奨になる仕組みは間違いです。急成長する組織でそのようになりがちです。詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

仕事そのもにやりがいがあり、成果を通して喜びを得られるものであることが重要です。

補佐役の職務

補佐役の仕事はマネジメントの仕事ではありません。自らコントロールできない仕事は、マネジメントの意欲を削ぎます。それ以外にも、仕事とは言えない職務を与えてはなりません。

マネジメントの仕事は、明確な課題に対応するものでなければいけません。自らの目的、目標、機能があり、目標を達成するためになすべきことが明確でなければなりません。自ら貢献でき、責任を持てるものでなければなりません。

ただし、次のような条件が満たされれば、若手のマネジメントにとって、補佐役の仕事も優れた訓練になると言います。

  • 任務が明確に規定されていること
  • 期間が限定されていること
  • 期限が来たら、速やかにマネジャーの仕事に戻すこと

単なる調整役の職務

通常、マネジメントの仕事だけでは、専念しなければならないほど時間を要する仕事ではないと言います。

十分な仕事がない場合の弊害は、部下の仕事をとってしまうことです。働くことの感覚、尊さを忘れ、組織に害をなすことさえあります。

マネジメント自身あるいはその部下の権限を越えた職務

組織全体の目標に貢献しなければいけませんが、その人自身の目的、目標、機能がなければなりません。ですから、会議や調整を行わなければ遂行できない職務は間違っています。

また、頻繁に出張しなければならない職務も間違っています。

報償としてのポスト

報償の代わりにマネジメントのポストを与えてはいけません。仕事の不足をマネジメントのポスト(肩書)で補ってもいけません。

肩書は地位と責任を意味しますので、期待を与えます。マネジメントのポストは、マネジメントの職務を遂行するためのものであるのが当然です。

ですから、ジェスチャーで肩書を与えることは、あえて問題を起こそうとするに等しいと、ドラッカーは警告します。

後家づくりの職務

「後家づくり」とは、いわゆる未亡人をつくることです。そのポストに就いた優秀な者が次々に倒れてしまうような職務は間違いです。

そのような職務は、通常一人の人間の中に見られないような複数の資質を併せ持つ者にしか務まりませんが、ごく希にそのような者がおり、そのときにつくり出された職務がそのまま確立されてしまったものです。

ドラッカーが例を挙げるのは、マーケティング担当のマネジメントと、販促宣伝担当のマネジメントです。

両者をマーケティング担当のマネジメントに一本化するという発想も考えられますが、別の見方と別の尺度を必要とするために、後家づくりの仕事になり得ます。マーケティング担当は物を動かし、販促宣伝担当は人を動かします。両者には異なる資質が必要です。

マネジメント限界の法則

「一人が監督できる部下の数には限界がある」という法則があります。「管理限界の法則」です。

この考え方はマネジメントをゆがめると、ドラッカーは言います。階層を積み重ね、コミュニケーションと協力は妨げられ、明日のマネジメントの育成は困難になります。

重要なのは「マネジメント限界の法則」と言うべきもので、

人間の数ではなく関係の数

で決まるというのが、ドラッカーの考えです。

2つの例をあげています。

<社内の主な機能別部門の長全員を直接部下とする社長の場合>

機能別部門の長である財務部長、製造部長、マーケティング部長などは、全員が毎日協力して働かなければならないため、社長にとってそれら部下の数は8~12人以下にしなければならないと言います。部下の数はそれだけであっても、相互の関係は膨大な数になるからです。

<シアーズ・ローバックの地域担当副社長の場合>

数百人の店長を直接部下にできると言います。

なぜなら、店舗はそれぞれ独立しているので、店舗間で連携をしなくても仕事ができるからです。すべての店舗が同じ種類の仕事をしているため、同じ尺度で評価、報奨できます。