組織の第四様式「部面の分割」 − ブラウンの経営組織論⑫

この記事では、かつてアメリカの組織論における独特な一角を占めたアルヴィン・ブラウン(Alvin Brown)の『経営組織』(Organization of Industry, Prentice-Hall Inc., 1947)を紹介します。

経営活動においては、その仕事の種類にかかわらず、普遍的に3段階の「部面(phase)」が存在します。それは、「計画」、「実行」、「点検」の各部面です。

組織において責任を委譲する際には、課業の種類だけでなく、部面をも考慮しなければなりません。

通常、経営首脳者は「計画」の相当な部分と「点検」の一部分とを自らに留保して、「実行」を主に委譲することになります。

企業が成長するにつれて、首脳者たちは、自らに留保した「計画」や「点検」でさえ、自分たちの力量に余るときが来ます。

首脳者は、それまでにすでに構成を完了した諸責任に追加的な委譲をしようとする場合、まず、受任者の諸責任の度合いを高めようとするでしょう。

つまり、委譲する課業の種類は増やさなくても、「実行」以外の「計画」や「点検」の部面の委譲を増やそうとするわけです。

しかし、首脳者は、元々、自分の責任を遂行するために、それだけの「計画」や「点検」を留保する必要があると判断していたのですから、それを委譲してしまうと、今度は受任者の力量に余ることになり、結果的に首脳者の責任の遂行に支障を来すことになります。

通常、首脳者が留保する「計画」や「点検」は、「実行」を委譲している複数の受任者の責任に関わることが多く、それを分割しづらいからこそ自らに留保していた面もありますから、それを複数の受任者に分割して委譲しようとすると、全体としての円滑な遂行に支障を来す可能性があります。

そうなれば、首脳者が留保した「計画」と「点検」について、専らそれらの責任のみを受け持つ新たな受任者に委譲するという方法がとられることになります。

【原則】
  • 計画と点検の一部分は、実行に責任を負う成員以外の成員に委譲することができる。

こうすることによって、受任者たちの間で経営活動の諸部面を分化させるという特長を持った組織の様式が生じるようになります。これが、組織の「第四様式」です。

首脳者との関係

人間の頭脳に例えてよい経営活動の部面があるとすれば、それは「計画」・「点検」の部面でしょう。

「計画」や「点検」について行う委譲は、首脳者に、「計画」や「点検」に関する個人的な補佐と、監督するための時間的余裕をもたらすことによって、その力量を拡大します。

「計画」や「点検」の受任者は、首脳者と一心同体となって合成頭脳を形成し、緊密な監督団を形成します。

補助的責任との区別

補助的責任は、企業内の他のあらゆる責任に奉仕し、貢献する、いわばサービス責任です。

諸他の責任は、そのようなサービスに依拠し、この点で自力での措置を放棄しています。補助的責任がサービスである以上、それは第一義的に「実行」の部面が中心です。つまり、補助的責任は、諸他の責任の「実行」の一部を肩代わりしています。

ところが、経営活動の「計画」や「点検」の責任は、そのような肩代わりのサービスではなく、「実行」を担保する条件を提供するものです。

諸他の責任は、部面責任が遂行する結果によって、「実行」に制限が加えられ、指導され、かつ方針を授けられます。

補助的責任は、そのサービスが活用されるかどうかに深くコミットする必要はないのに対して、部面責任は、自らの活動によって「実行」に致命的な効果を及ぼします。

用語の誤用

経営活動の諸部面を分割することに関し、「機能的(functional)」あるいは「スタッフ(staff)」という用語が用いられることが少なくありません。しかし、これは誤用です。

「機能的」という言葉は、任務・資格ないし部署の何らかの意味での分化に関連する非常に曖昧な言葉です。むしろ、経営活動の諸要素(研究、製造、営業などの区分)の意味に理解されることが多いので、部面を表す言葉としては不適切です。

「スタッフ」についても多様な使い方があり、「ライン」に対する「スタッフ」という意味で使うとすれば、補助的責任に相当するものですから、部面責任とは違います。

したがって、ブラウンは、特別な用語を当てることなく、「部面責任」と呼んでいます。

以下、「実行」責任と切り離された概念として「計画」責任と「点検」責任を取り上げる場合は、「計画」責任と「点検」責任を総称して「部面責任」と呼びます。

部面の分割に課せられる諸制限

経営活動の諸部面の分割は、組織上の措置であって、実際に生じている経営活動の問題を取り繕うためのものではありません。

例えば、ある成員が自らの責任の遂行に問題を抱え、不十分な結果が得られている場合に、その成員の努力を補充するために、本来その受任者に委譲されていた「計画」部面を切り離して、別の受任者に委譲するというようなことです。

こうしたやり方は、経営活動上の失敗を組織で補おうとするものであり、成員の質の欠如を成員の量によって補おうとすることに相当します。

このような場合になすべきことは、組織の改変ではなく、人事異動です。

当然の結びつき

諸部面を分離させることは、組織の当然の手段ではなく、そこに特殊な要件の存在を必要とするやむを得ざる人為的手段です。

「実行」には当然に「計画」や「点検」が付随するのですから、「実行」する任務を負う当人が、同時にその「計画」をし、「点検」をする責を負うのが本来です。

「実行」の真価は優れた「計画」にかかっており、「実行」の評価は綿密な「点検」に依存しているのですから、実行者はこれらの部面が適切に執行されることに関心を持つのが当然です。

そして、このように関心を持つことは、効果的な経営活動を保証するために重要です。

実行者は「実行」すべき事柄について熟知しているので、本来「計画」し、「点検」する力量を備え、それらを合わせて遂行することが、努力の節約という要件に適います。

なお、諸部面の委譲についても、同質性の原則に従う必要があります。「実行」の責任を複数の受任者に分割したからといって、部面責任を同数の受任者に分割することはむしろ非効率です。なぜなら、その部面責任は、元々委譲者が一人で遂行すべきと判断していたものだからです。

このことは、「実行」が分割できることとは異なり、「計画」と「点検」はそれ自体に結びつきが必要であることを意味します。この結びつきは、委譲者がどこまでも責任を負うべきところから生じます。

大企業での用途

企業が大きく成長するにつれて、留保された部面責任は、委譲の初期の段階で範囲が狭くなります。つまり、部面責任の委譲が進むということです。

製造業の首脳者は、もっとも基本的な諸方針に限った「計画」を留保します。例えば、製造や営業の方針、従業員関係・公共関係といった特殊な事項に影響を及ぼすような諸方針の「計画」などです。

製品の型や市場の型を決定するといった、より包括的な問題の「計画」もそのうちに入ります。

そして、その有効さについて自分が確実に知ることのできる程度で、経営活動に接触します。

それなら、なぜ首脳者はそれほど重要な部面責任を委譲するのかと言えば、適切に監督することに力量を傾ける必要に対応するためにほかなりません。

この必要に迫られるまでは、元々最も深い利害関係を持ち、かつ自分が起用するどの受任者よりも有能とみなされるべき首脳者自身が、最高の関心事である部面責任を手放そうとはしません。

それゆえ、経営活動の諸部面の分割は便法の域を出るものではなく、暫定的な手段に過ぎないとことを理解しなければなりません。諸部面の分割自体を目的として追求してはなりません。

【原則】
  • より単純な組織の様式でもって経営活動の諸要件を充足できる限りは、経営活動の諸部面を分割してはならない。

部面分割の範囲

経営活動の諸部面は、概念上明確に区分できるからといって、実際上も明確な区別ができるとは期待できません。

部面分割において、まず最も受け入れやすい姿は、ある種の「計画」と「点検」が、その性質上または熟練の要件上、専門化されており、補助的責任に近くなっているような場合です。

具体的には、従業員、公共ならびに政府との関係を処理する業務、建設業での設計、内部監査、製品検査などです。精緻な計算を要する計画や点検のサービスは、別個の責任を伴うでしょう。

これらは専門化が進み、経営活動の主流での「実行」とは区別される性格を漸次に帯びるに至ったものと言えます。

【原則】
  • その性質上専門化される計画と点検は、これを別個の委譲とするのに最も適している。

首脳者は、自分の力量をさらに拡大するためには、ある時点で、経営活動全体を左右する「計画」責任の分離に手をつけざるを得なくなります。この種の「計画」は、すでに委譲されている多くの「実行」責任に包括的に関係するので、細かく分割するわけにはいかないのです。

これを委譲するからには、「実行」とは別個の大きなまとまりの状態で分離して、それだけを新たな受任者(「実行」責任を担当しない受任者)に委譲しなければなりません。

別個の委譲とするのにどの部面を選び、どの範囲を分離するのかは、その部面が関わる経営活動の要素がいかなる性質を持っているかによって決まります。

部面の委譲を行うに当たって、首脳者は、自分で遂行できる余力のある限りは、より重要な部分を依然として留保するでしょう。「計画」の大枠に関する発議権や重要な結論についての決定権などです。

なお、「計画」には2つの側面があります。第一は方針であり、第二は方針に基づく方法です。前者は諸他の責任に広く関わることが多いので、委譲するとすれば、それ自体を一つの委譲とすることになるでしょう。後者は細目にわたり得るので、「実行」の受任者に分割して委譲できるかもしれません。

混合責任

組織の様式には幾種類かあり、明確に鑑別することは重要であったとしても、実際の組織においては、混合的に適用されていることが少なくありません。

【原則】
  • 責任は専らある組織様式のものであることを要しない。

混合責任の典型は財務です。企業は利潤をあげなければならないので、すべての経営活動は利潤に影響し、その範囲において財務を超える類の「計画」はないと言うことができます。

とはいえ、「実行」に属する財務もあります。資金の確保・調達・運用・配分に関わることです。財務責任は、通常、これらの「実行」を含みます。

したがって、財務責任は、その内容が同質的である限りは、「計画」(第四様式)と「実行」(第二様式)の混合責任になるのが普通です。

一つの責任のうちに2つの様式を組み合わせるに当たって、似通って技術的な能力が要るという理由に基づくことも少なくありません。

結局のところ、どうするのが経営活動がより効率的になるか、努力が節約できるかの判断によって、適否が決まります。

ただ一人の受任者にある課業の「実行」責任を委譲する場合、それに関わる「計画」責任も同じ受任者に付随して委譲しようとするのが普通です。

もし部面を分割して、「実行」責任受任者と「計画」責任受任者の2人だけしかいないという状態になるのは、むしろ非効率です。

それよりも、課業の種類を分割して、ある課業の「計画」・「実行」責任受任者と、別の課業の「計画」・「実行」責任受任者の2人にするほうが効率的でしょう。

「計画」を別個のまとまりの状態で分離して委譲する機会が生じるのは、通常、当該「計画」が、数個に分割された「実行」責任に関連する場合です。

つまり、首脳者が、数人の受任者に対し、彼らの「実行」責任に個別に関連する「計画」を委譲し、残った「計画」(受任者全員に関わる「計画」)を別の一人の受任者に委譲し、この受任者の「計画」がその他の受任者の活動を導くことになります。

【原則】
  • 計画と点検は、2人ないし2人以上の成員に委譲される実行に関連を持つ場合に限り、通常分離して委譲することができる。

ただし、「点検」の場合、この法則に例外を認めてよい理由があります。「点検」は責任の遂行の検証者としての性質を持っているので、「点検」を「実行」者当人に委ねるのは好ましくない場合があるからです。「点検」の第三者性が重視される場合です。

委譲の数に及ぼす影響

経営活動の諸部面を分割するかどうかの判断に当たって、委譲者が比較考量すべきは、その部面責任を自分で遂行することと、他人に遂行させてこれを監督することと、どちらが簡単であるかです。

監督にかかる労力は、委譲の数とともに増加する一方、受任者一人ひとりの能力が増大するにつれて減少しますから、十分に高い力量を持つ受任者に部面の委譲を行うことによって、留保責任として自ら当たることを免れつつ、代わりに付加される監督責任をより軽減させることができます。

部面の諸関係

「計画」担当受任者が、自分の委譲者に助力する方法を4つあげることができます。もちろん、そのすべてを義務とするかどうかは、実際の責任の規定によって決まります。

第一に、「計画」を立てることです。

第二に、「実行」を観察することです。適切な計画を立てるために、「実行」について知る必要があるからです。その過程では、「実行」責任受任者と相談することもあるでしょう。

第三に、観察の結果を委譲者に「報告」することです。通常、委譲者は一定の「点検」責任を留保しており、「実行」を監督する必要があることから、それに資するためにも「報告」は有効です。

受任者の「計画」責任には、委譲者の「点検」責任(それを更に別の受任者に委譲している場合を含む。)の結果が反映される必要があります。

第四に、「計画」の内容を解釈し、「実行」責任受任者に説明することです。「実行」責任受任者が「計画」の内容について疑義があるときは、「計画」責任受任者に問い合わせ、解釈を示してもらうことも含まれます。

解釈

「計画」についての委譲者の関心は、「計画」が完成し、発令されても終了はしません。たとえ「計画」が完全に定式化されたとしても、「実行」責任受任者に説明しなければなりません。

「計画」には完全な定式化を欠く場合があり、不測の事態にも適応させる必要があるので、解釈を必要とします。

説明や解釈は、元々、委譲者の所管事項であり、監督の一部分ですが、委譲者が「計画」責任受任者を持つのであれば、それらのことにその受任者を活用することが合理的です。

したがって、委譲者は、「計画」責任受任者に、「計画」の影響を受ける全員に対し、「計画」を解釈する任務を委譲することができます。

「解釈」が提供されるべき契機またはタイミングは、あらかじめ取り決めておくことができます。

ただし、「計画」責任受任者の任務は、委譲者の意思を写すものであって、受任者自身の意思ではなく、受任者自身が監督を行使するのでもありません。

諸関係の侵害

とはいえ、「計画」責任受任者の任務は、容易に委譲者の権限と混同されます。「点検」責任受任者がいる場合も同じです。

「計画」責任受任者は、自分が行動できる4つの方法によって、「実行」責任受任者と密接な関係に入るため、どうしてもその本分を越えて、委譲者の監督権限を自らの権限であるかのように行使して、「実行」に干渉しがちになります。

具体的には、「実行」責任受任者の行為に手を出し、是正させ、叱責し、訓戒を与えるなどの行為です。これらは解釈や助言を逸脱する行為です。

「実行」責任受任者は、委譲者からその「実行」責任を委譲されているので、「実行」責任受任者が義務を履行する相手はあくまで委譲者です。

ですから、「計画」責任受任者は、「実行」責任受任者が委譲者に果たす義務に干渉することはできません。

このようなトラブルは、「実行」責任受任者の側の原因で起こることもあります。「実行」責任受任者が、自分の仕事を委譲者以外の者に「計画」・「点検」されることを嫌うことがよくあるからです。

ですから、「計画」責任受任者にそのような意図がなくても、その解釈や助言をあたかも指図であるかのように受け止め、感情的に拒絶することが起こるわけです。

適切な諸関係の保持

【原則】
  • 計画と点検に関する責任には、責任の諸関係を特別に厳守する任務がある。

部面責任に対しては「責任を横領するな」という警告を発することが重要です。部面責任におけるほど頻繁に誤謬が犯されやすいところはないからです。

このような自然の衝動を抑制し、健全な組織の本筋に導くのは、委譲者の監督責任です。

部面責任には、委譲者に特別近いという印象が生じることがあるので、受任者が監督を行使しているつもりがなくても、「実行」責任受任者からは、委譲者を代弁するかのように見えてしまいがちです。

こうした誤謬が生じる原因の一部には、諸責任の規定が適切でないことも少なくありません。

例えば、「計画」責任受任者に委譲された責任の規定に「これらが実施されることを点検する」という表現があると、明らかに誤解を招きます。

「計画」責任は、「計画が実施されるかどうか」を点検する責を負うことはできますが、それは観察と報告を意味する限りにおいてです。

「計画が実施されることを点検する」という場合、一般には、「計画」どおりに実施されていないと判断されるときは警告し、是正させる意味合いが含まれると理解されるでしょう。しかし、このような責任は委譲者の監督責任ですから、「計画」責任の規定に表現されるべきではありません。

「機能的統制」の誤謬

それでもなお、部面責任が「実行」の仕方に何らかの直接的な影響を及ぼすことができるという観念は強く、それを「機能的統制(functional control)」と呼ぶことがあります。

この言葉は、「計画」という機能が自明的に「実行」への統制力を持つという考え方を含んでいます。

それが正しいとすると、「計画」責任受任者と「実行」責任受任者の立場が同列であるにもかかわらず、前者が後者に監督権限を持つことになり、明らかな誤謬です。

ある責任の遂行に関する義務は、これを委譲した人にのみ帰するものであり、この原則に例外はありません。

「計画」が自ずと「実行」を統制するという言い方ができるとすれば、それはあくまで「計画」どおりに「実行」する責任があるということであり、その責任は「実行」責任受任者が委譲者に対して負う義務にほかなりません。

なお、「計画」責任受任者に、「実行」の監督権限をも併せて委譲するという明示的な企てがなされることがありますが、これはただの詭弁です。委譲者は、責任を委譲したからこそ監督権限を有するのであり、それを更に委譲するとすれば、委譲した監督権限を更に監督する権限を有するというおかしなことになるからです。

もし委譲者が、監督権限を委譲することによって監督する責任から解放されると考えるなら、それは責任の不履行を意味するに過ぎません。責任の委譲は、責任を持つからこそできることであり、責任を持つ以上、それを委譲しても逃れることはできないのです。

また、委譲者が責任の不履行の隠れ蓑として、「調整権限」を「計画」責任受任者に付与するといった言い方をする場合もありますが、そのような「調整」は、「計画」責任受任者が委譲者に助力する4つの方法(計画、観察、報告、解釈)の範疇を超えることはできません。

そもそも、部面責任の規定において「統制」、「監督」、「権限」、「調整」といった言葉を紛れ込ませるのは誤謬のもとであり、責任不履行の隠れ蓑になるものですから、避けるべきです。