ブラウンの経営組織論

この記事では、かつてアメリカの組織論における独特な一角を占めたアルヴィン・ブラウン(Alvin Brown)の『経営組織』(Organization of Industry, Prentice-Hall Inc., 1947)を紹介します。

翻訳者の安部隆一氏は、本書の解説において、アメリカにおける組織論を学ぶとすれば、まずブラウン理論から入るのがよいと言っています。

すぐれた組織論としては、バーナード理論やフォレット理論がありますが、これらの本質をはっきりとつかむうえで、ブラウン理論が役に立つからです。

ブラウン理論の特徴は、組織を過程および手段としてとらえ、個人責任を強調するところです。

組織論では、人間関係論の影響もあり、集団力学が個人に与える影響が時に重視され過ぎ、まるで個人とは別の集団的人格とでもいうべきものが人を支配するかのような印象を受けることがあります。

集団力学の存在は実験的にも確かめられていることであり、無視することはできません。

しかし、どこまでいっても人格や個性を持つのは一人の人間であり、組織の行動に対して責任を有するのも、最終的には一人の人間であるという点を曖昧にすべきではありません。

現代では、ブラウン理論が単独で取り上げられることはほとんどありませんが、責任、義務、権限、監督などの基本的な考え方の根底には、ブラウン理論の流れを感じ取ることができるでしょう。

組織の意味

産業は多数の人間の努力を動員します。人間の努力の複数性こそ、産業の最も重要な側面です。

このような努力は、共同の目的(purpose)に向けられる必要があり、また、複数の成員(member)の努力がて正しく協同的でなくてはなりません。

【原則】
  • 組織は、努力をより効果的に協同させるための手段である。

「組織(organization)」は、広義には、「おのおの独立した諸部分が、それぞれ特定の機能・行動・部署を持ち、かつ全体と有機的な関係を保持しながら、当該諸部分を整備ないし構成した状態もしくは様態」です。

また、「組織」は過程でもあり、「意識的・体系的な整序」としても定義できます。

ですから、「組織」という用語は、使用した手段と、その手段を使用した結果の両方を共に表すことができます。手段の意味で使う場合、「組織する」のように動詞的にも使います。

ブラウンは、「組織」という用語を、専ら協同的な努力を効果的にする手段(過程)を指すものとして用い、その結果として生じる構造には「企業(enterprise)」という用語を用いています。

「組織」は、「企業」の各成員が遂行すべき役割を規定し、成員たちの相互の関係を規定し、成員たちの協同的な努力が目的達成に最も効果的であるようにすることです。

経営活動との関係

企業には目的が不可欠です。「目的(purpose)」とは、成員たちの努力(endeavor, effort)の方向であり、成果として形をとるべき究極の目標です。

目的に向けた企業の努力を「経営活動(administration)」と呼びます。「経営活動」というと、監督(supervision)あるいは統制(control)に限定して使われがちですが、ブラウンは、目的達成に行われる仕事、役割、課業、任務など様々な言葉で表現されるあらゆる活動の意味で用います。

たとえ成員一人の担当部分が小さなものであっても、当該成員は、正しくその部分について経営活動に参与していると言えます。

したがって、経営活動は、企業目的の達成に向けられた全成員の努力の総合です。

組織は経営活動を効果的なものにする手段であり、経営活動を構成する各成員の担当部分とこれらの部分の関係を規定することによって、経営活動全体に適用されます。

組織に人が配置され、それぞれの責任を果たすことによって、経営活動全体が目的に向かって遂行されていきます。組織は経営活動に奉仕し、経営活動は目的に奉仕します。

組織が協同を効果的にする手段であるとしても、組織が成員個人の優秀性を保証することはできません。組織が要求する適材を組織の適所に配置してこそ、組織は効果を発揮します。

組織は効果的な経営活動のための手段ですから、経営活動が組織を決めます。組織は、経営活動が求める要件によって規制されます。

組織の諸原則

組織が従うべき諸「原則(principle)」は、経営活動の諸要件を分析することによって明らかになります。

「原則」は、組織者(社長または社長によって組織責任を委譲された者)が準拠すべき指針(基礎)ですが、「原則」を適用すべき経営活動の状況は千差万別です。

【原則】
  • 組織の原則が一個の科学であるのに反し、組織の実際は一個の技術である。

「原則」を知ったからといって、巧みに組織できるようになると考えるのは誤りです。逆に、巧みさをもって「原則」に代えられると考えるのも誤りです。

組織の必要性

産業は、個人単独の努力から始まりました。個人企業家は、自分の目的に直接に関わり、自分の努力はすべて経営活動の問題に注がれます。個人は組織を用いる必要はありません。

しかし、個人企業家が他人の助力を要するようになれば、自分自身と助力者との間に、努力を向けるべき仕事を分割しなければなりません。

成長を続ける産業では、目的は拡大され、より膨大な量の努力が求められるため、より多くの人々が必要となってきます。

多数者の採用に伴って、注意を払うべき2つの影響が生じます。

一つは、多数者の仕事の監視に多くの時間を費やすこととなるため、従業員数の増加につれて、企業家は実務に関与する時間がなくなっていくことです。

もう一つは、従業員数の増加に伴って、全員揃って同一の仕事をやっていては効果的でなくなる時が来ることです。

つまり、仕事を異なる部分に専門化して分割しない限り、経営活動は効果的でなくなります。時に「分業」と呼ばれる仕事の専門化こそ、組織が初めてはっきりと必要とされる場面です。

「分業」とは、例えば、製造と営業との分割です。製造と営業は、経営活動全体の部分であり、それらを別々の人に担当させようと決定することは、一つの組織行為です。

規模増大に伴う影響

企業の規模が拡大し、人数が膨大になると、企業家の時間の大半は従業員の監視に傾注されていき、

いずれは、この監視自体も企業家の力量を超え、助力を得る必要が生じます。

例えば、経営活動が製造と営業に分割されている場合、製造に従事する成員を監視するために職長を、営業に従事する成員を監視するために営業主任を選任します。

組織を適用するには、熟練を要することにも留意する必要があります。企業家が、仕事を従業員に不適切に配分すると、従業員の仕事に重複が生じ、組織が逆効果になることがあるからです。

組織は、企業の規模の拡大に十分先行して準備される必要があります。企業家の努力にゆとりがあるうちに、慎重に仕事の種類を区分することを怠れば、専門化による効果が発揮できません。

大規模企業の組織

組織の必要性をもたらすものは、間接的には企業の成長であり、直接的には従業員数です。根本的には、目的達成に必要とされる努力が、一人ないしは少数者の力量を超えて増大することです。

努力に対する要求が現存の成員の力量を超える場合に、新しい成員を雇い入れます。組織は、成員を増やす前に、多数者の努力を協同させる方法を定めておく必要があります。

企業は、その目的達成のために、機械・工程および人間を必要とします。しかし、優れた機械は速やかに普及し、独自に改良を加えた工程もいずれ真似されていきます。特別に優れた人間を独自に採用することも困難です。

ある企業と他の企業との成功に格差をつける唯一のものは、人間の努力を共同させる熟練の巧拙にこそあります。

企業の規模が大きくなればなるほど、協同の巧拙の格差が歴然としてきます。組織は、この格差の発生に関わっています。

組織の先行性

組織は経営活動のための手段です。企業の各成員が、それぞれに遂行すべき経営活動の部分を規定し、当該成員たちの間の関係を決めることによって、経営活動全体の遂行を可能にします。

組織こそ、企業を始めるに当たって最初に着手すべき対策の一つです。

【原則】
  • 組織は努力に先行する。

既存企業の組織

組織が努力に先行する以上、組織は企業の創始時に生まれていなければなりませんが、組織が企業の創始当初に完成していなければならないというわけではありません。

企業の目的は変化することが常であり、それに伴って経営活動にも変更が生じます。努力の形態に変化が生じる都度、組織を再検討せざるを得ません。

組織を既存企業に適用するときにも、組織が努力に先行するという原則が当てはまりますから、経営活動の変化の実施に先行して、組織の変更が規定されなければなりません。

成員の人選

組織は努力に先行するのと同様、努力に従事する人たちの人選にも先行しなければなりません。

経営活動の諸要件を検討して初めて、成員の要件を把握できます。必要な努力を諸作業に配分した後、所要成員の数ならびに力量を決定することこそ、組織の使命です。

【原則】
  • 組織は、企業成員の人選に先行するとともに、成員についての諸要件をも決定する。

企業構成要素の間の相互関係

組織は努力に先行し、かつ人員の採用に先行するとはいっても、すべての努力が実行可能となる前に、また人員の採用を全くしないうちに、組織の万端が完成していなければならないわけではありません。

なぜなら、組織すること自体に努力を必要とし、努力は人を必要とするからです。

組織は経営活動の諸要件によって支配されます。それゆえ、組織を規定するためには、経営活動の諸要件が相当な範囲にわたって規定されていなければなりません。この作業にも努力が要請されます。

企業の基本的な構成要素の間には密接な相互関係が存在します。

最も重要な企業の構成要素は、目的です。目的が経営活動の性質、ひいては組織の性質を決定します。目的を達成するための経営活動を計画することに伴って、第二義的な目的を生み出します。

次に、諸目的達成のための諸方法が工夫されます。それは多数の専門化した努力の領域で構成されます。経営活動は、これら諸方法の総体から成り立っていると言うことができます。

さらに、組織は、経営活動に必要な努力の協同、つまり人員の要件を規定し、人事がその要件を充足します。ただし、人員の一部は、経営活動を計画し、組織を規定するためにあらかじめ必要です。

これらの構成要素は相互に依存し合っているため、どれか一つを先立って完全に規定するというわけにはいかず、諸要素を並行的に規定しながら、段階を追って細目に至っていきます。

組織の範囲

組織は、成員が遂行すべき経営活動の諸部分を規定するために、所要の努力を作業に分割します。

その分割は、経営活動を部門に細分して、その努力を規定するだけでなく、各部門内の個々人の分担分としての任務までを規定したときに完了します。

【原則】
  • 組織は、もっぱら諸個人と彼らの間の諸関係を取り扱う。
  • 組織された努力は、まさに個々人の努力の総和にほかならない。

後者の原則については、複数人が協同することによって相乗効果が生まれ、個々人がバラバラに努力するよりも多くを達成できることを否定しているのではありません。

例えば3人の協同によって達成できるものは、たとえ相乗効果を伴ったとしても、あくまでその3人が生み出すものです。組織が魔術のように3人以外の何者かを付け足すわけではありません。

経営活動における各成員の担当する部分を、その成員の「責任(responsibility)」と呼びます。

つまり、企業の経営活動を効果的にするために、組織は2つの任務を果たします。①諸成員の諸責任を規定すること、②彼らの間の諸関係を規定すること、です。

諸責任の規定は、経営活動への最初の対策に過ぎず、効果的な経営活動は、諸責任の遂行の仕方にもかかっています。

責任の遂行は、それらの配分だけでなく、諸責任相互の関係によっても、具体化されます。