管理責任としてのリーダーシップ − バーナードの組織論⑮

公式組織における行為のすべてが、客観的で論理的な因果関係によって導き出されるわけではなく、個人の選択、動機、価値的態度、効用評価、行動基準および理想に依存せざるを得ません。

これらは個人の価値観に関わっており、バーナードは、「個人的心理」、「主観」、「道徳」などの言葉で総括的に表現しています。

通常、組織の構造および過程について共通の理解を得ようとするとき、協働の技術的な側面を強調し過ぎるおそれがあります。

現実には、構造的な特徴が曖昧で、作用している要因の把握は簡単でないため、人間協働における主要要因をリーダーシップだけに求めがちです。

協働に関わるのは人間であるため、様々な不確定要素、伝達における共通理解の困難、個人的同意、説得の役割、動機の複雑性や不安定性などが避けられません。

それらの中に道徳的要因が表れますが、まさにそのためにリーダーシップが必要です。リーダーシップは、信念を作り出すことによって協働的な個人的意思決定を鼓舞するような力です。

リーダーシップが作り出す信念

信念とは、共通理解の信念、成功や個人的動機が満たされるという期待への信念、客観的権威が確立しているという信念、組織に参加する個人の目的よりも共通目的のほうが優先するという信念です。

しかし、リーダーシップだけが重要な要因ではありません。目的のある協働は、貢献するすべての人々より得られる諸力から生じます。あくまで全体としての組織の成果であり、リーダーシップ自体の成果ではありません。

ただ、リーダーシップによって作り出される信念は、人間努力の生きた体系において、エネルギーと満足を絶えず相互に交換し続けられるようにするための触媒です。これがなければ、組織の構造は存続するどころか成立することもできません。

協働こそが創造的過程ですが、その協働に不可欠な起爆剤に当たるのがリーダーシップです。

リーダーシップには二つの側面があります。

第一の側面は、局部的、個人的、特殊的、一時的側面です。体力、技能、技術、知覚、知識、記憶、想像力における個人的優位性の側面です。

これらはリーダーシップの技術的側面であり、一定の条件づけ、訓練、教育などによって育成できる面でもあります。

第二の側面は、決断力、不屈の精神、耐久力、勇気における個人的優位性の側面です。これが個人的心理や道徳に当たります。

これらは、より一般的で不変的であり、かつ絶対的で主観的であるため、育成することが難しい側面です。社会の態度や理想およびその一般的諸制度を反映して、個人のうちに形づくられます。

第二の側面が行動の質を決定し、他人の尊敬や崇敬を集めるものです。人の行動に信頼性と決断力を与え、目的に先見性と理想性を与える性質です。一般に「責任」という言葉で総括されます。

組織と道徳

「道徳」とは、個人に内在する一般的、安定的な性向です。その性向と一致しない欲望や衝動を禁止あるいは修正し、一致するものを強化する傾向を持ちます。

一致しないものを禁止・修正し、一致するものを強化する傾向が強く、安定しているとき、その「道徳」は「責任感(責任能力)」を備えることになります。

道徳の水準が高いことと責任とは同一ではありません。「責任」とは、道徳の水準や内容にかかわらず、それが行動として表れるような個人の資質のことです。

ある人が、特定の道徳準則を守り、別の道徳準則を守らないとすれば、責任感がないのではなく、重視している準則と重視していない準則があることを意味します。

ただし、重視している道徳準則さえも守らない人は、そもそも責任感がないということになります。

管理職位の性質と能力

管理職位は複雑な道徳性を含み、高い責任能力を必要とし、活動状態のもとにあり、そのため、対応する一般的、特殊的な技術的能力を必要とします。

低い職位と高い職位との間の主な差異は、道徳的な複雑性の程度にあります。つまり、職位が高くなるほど多くの責任が課されますが、より大きな責任感が要求されるわけではありません。

職位が高くなればなるほど、各方面から多くの行為を求められるようになるため、ますます多くの意思決定を必要とします。

管理職位は、複雑な道徳性に直面するだけでなく、人々のために道徳を創造する能力も要求されます。組織内におけるモラールの確保、創造、鼓舞などが最も一般的に認められているものです。

道徳の創造には、特定の技能標準を定め、遵守させることや、道徳的対立を解決するために例外事例の処理を行うことなども含まれます。

リーダーシップと協働体系の発展

人間協働における最も一般的な戦略的要因は管理能力です。その本質は、協働に貢献する責任感を人々から引き出すことができるような、高い道徳性に基づく理想を創造するリーダーシップです。

協働には、直接動機、関心、リーダーの実戦能力が不可欠であることは間違いありませんが、それよりもまず、機会と理想のほうが先行します。

協働に不可欠な実戦能力も、責任感がなければ発揮されません。責任感が、犠牲を当然のことと考えさせ、協働への信念を引き出すのであり、直接的な動機や一時的な関心では長続きしません。

組織の存続は、それを支配している道徳性の高さに比例します。高い道徳性が責任を引き出すからです。そして、長期目的、高遠な理想が高い道徳性を生み出します。

個人的な関心や動機は不安定です。協働体系に一時的に参加したとしても、長続きすることなく離反しがちです。組織道徳の創造が責任を引き出し、個人的な関心や動機による離反力を克服します。

リーダーシップは、自然の法則を無効にするものではありません。協働努力に不可欠な諸要因に代わり得るものでもありません。そもそも、他の諸要因と同等ではありません。

リーダーシップは社会に必要不可欠の本質的な存在です。目的に共通の意味を与え、諸要因を効果的なものにする誘因を創造し、変化する環境の中で、無数の意思決定の主観的側面に一貫性を与え、協働に必要な強い凝集力を生み出す確信を個人に吹き込みます。

管理責任とは、主としてリーダーの外部から生じる態度、理想、希望を反映しつつ、人々の意思を統合して、人々の直接目的や時代を越える目的を果たさせるよう自らを駆り立てるリーダーの能力です。