戦略を実行するためには、軌道修正のためにフィードバック情報と組織学習が必要です。
まず、計画と実行との乖離が生じたときは、軌道修正しなければなりません。
また、戦略には仮説に基づく因果関係が含まれているため、その仮説を検証し、必要な見直しを行います。
さらに、戦略の前提となっている状況や競争環境が変化した場合は、それに応じて戦略そのものを見直す必要もあります。
このように、企業には、複数ループのフィードバックと学習のプロセス(戦略的学習プロセス)が必要です。そのために、バランス・スコアカードに落とし込んだ業績評価指標の因果関係が役に立ちます。
共有された戦略的フレームワークとしてのバランス・スコアカード
戦略的学習プロセスには、バランス・スコアカードが組織内で共有されていることが前提です。
バランス・スコアカードには、成果の業績評価指標(事後的業績評価指標)とパフォーマンス・ドライバー(事前的業績評価指標)が含まれており、指標の変化と成果への反映には時間差が生じます。個々の指標の変化が成果に与えるインパクトも異なるはずです。
したがって、学習プロセスにおいては、複数の業績評価指標の相関関係を測定・評価することが有効です。これは、因果関係の仮説検証に役立ちます。
本来であれば、戦略を構成している因果関係が正しく機能しているかどうかを速やかに知ることができる短期的で先行的な業績評価指標を導入することが必要です。しかし、そのような指標を見つけ出すことは簡単ではありません。
このような場合に、いくつかの企業では、事例を伴うレポートを作成し、報告するという手法を活用しています。
あるいは、ある戦略的ビジネス・ユニットのバランス・スコアカードの進捗について、他の戦略的ビジネス・ユニットの経営トップ数人がチームをつくって定期的に検討し、評価しています。
第三者による評価は、効果的な学習につながっているほか、ベスト・プラクティスを他の戦略的ビジネス・ユニットに移転することにも役立っているといいます。
チームによる問題解決
学習プロセスで重要なことは、部門横断的な視点です。
バランス・スコアカードの作成および管理について、4つの視点ごとに、担当部門を分けてしまうことは、望ましいことではありません。4つの視点は因果関係で結ばれており、その全体を全社的に理解し、コンセンサスを得て、実行することに意味があるからです。部門別に、4つの視点のうちのいずれかを担当するという方法は、部分最適を招きかねません。
ある企業では、4つの視点のそれぞれについて、担当するチーム(4チーム)を編成していますが、各チームは、幅広い部門のメンバーで構成されています。
業績について定期的に検討するための委員会を設けるところは多いですが、ほとんどの場合、戦略的な問題ではなく、オペレーションレベルの問題や短期的な財務的指標の分析に議論が終始しがちです。
戦略に焦点を当てた検討をするためには、バランス・スコアカードに基づいて、それぞれの業績評価指標の進捗を評価し、短期的な目標の達成状況だけでなく、それが貢献すべき戦略的な長期目標の実現可能性、因果関係の仮説についても評価しなければなりません。その結果、戦略を修正すべきかどうか、修正したとすればそれが適切であるかどうかも検討しなければなりません。
パフォーマンス・ドライバーの数値は上がっているのに、成果の業績評価指標の数値が上がっていないなら、因果関係の仮説に間違いがあることを示している可能性があります。
一つの検討委員会ですべてを議論しようとすると、どうしてもオペレーションレベルの議論に時間が割かれる傾向があるため、戦略を検討する委員会とオペレーションについて検討する委員会とを分離すべきです。
オペレーションの検討委員会は月次サイクルが、戦略の検討委員会は四半期サイクルが適しているといいます。戦略レベルの長期的な業績評価指標は、月次単位で大きく変化することは少ないからです。
オペレーションの検討の過程で、戦略上の問題や懸念が明らかになったときは、戦略の検討委員会に提起します。逆に、戦略の検討委員会の議論に基づいて、オペレーションの見直しの必要性が認められれば、オペレーションの検討員会に協議が付託されます。
検討委員会では数字的な報告と検討に意識が向きがちになるため、ある企業では、数字はグループウェアで共有し、適宜検討できるようにしています。その検討の過程で何らかの問題が明らかになった場合は、検討委員会の場において、その問題に集中して議論します。