あなたの会社はなぜ社員を採用できないのか?
最近は、人手不足でなかなか人を採用できない企業が多いようです。中小企業などは特にそうではないでしょうか。
若い人は大手企業にばかり入ろうとし、中小企業など選ぼうともしないという声も聞きます。
本当にそうなのでしょうか?
2023年4月にマイナビが公表した大学生就職意識調査結果があります。これによると、予想とは違う結果が出ています。
新規学卒予定者の大多数が、大企業志向だという証拠はありません。
それなのに大企業にばかり行っているとするならば、それなりの理由があるはずです。
要するに、あまりにも求人情報が少なすぎて、あるいは曖昧過ぎて、不安で選べないからです。
2024年卒大学生就職意識調査の結果
この調査は、全国の大学3年生および大学院1年生を対象に、株式会社マイナビが、1979年卒(1978年調査)以来実施しているものです。
就職意識(大手企業志向、企業選択のポイント、就職希望度など)を調査しており、最新の調査は2023年4月に公表されています。
2024年3月卒業見込み者を対象に、調査回答数41,197件と比較的大規模な調査になっています。
代表的な調査結果を紹介すると、まず、「大手企業志向か、中堅・中小企業志向か」という問いに対しては、「絶対に大手企業がよい」と答えたのは8.0%、「自分のやりたい仕事ができるのであれば大手企業がよい」と答えたのは40.9%です。
一方、「やりがいのある仕事であれば中堅・中小企業でもよい」は40.0%、「中堅・中小企業がよい」は7.1%です。
また、「企業選択のポイント」を聞いたところ、「安定している」と答えた者が全体の48.8%と最も多くなっています。
近年は、安定している会社が大企業とは限らないのですが、就職経験がほとんどないであろう学生が想像するのは、おそらく大企業ではないかと予想できます。
しかし、次いで多いのは「自分のやりたい仕事(職種)ができる」であり、30.5%を占めます。比較して、決して少ない数字ではありません。
このような調査では、必ずしも本音が出ているとは限りませんが、大企業志向が明らかに大きいとは言えません。
ところが、多くの中小企業は、このような調査をよく見ていません。特に、若い人が来ないといっている企業で、このような調査結果をしっかり調べているところにお目にかかることはありません。
ですから、求職者の意識やニーズもほとんどよく分かっていません。そのような状態で、「大企業志向だ」と思い込んでいるところがあります。
中小企業の募集努力の実態
若い人が採用できないと仰る中小企業の社長によく遭遇します。というか、お会いする中小企業の社長は、口を揃えて若い人が採用できないと仰います。
実際に募集しているのかと聞くと、ほとんどが常時募集していると仰います。
具体的にどういう募集の工夫や改善をしているのかを聞いてみると、何もしていないか、「給料の提示額を上げた」という答えがほとんどです。
中には、給料の額を上げているように見せかけて、定額残業代込みの月給を提示している場合もあります。しかも、定額残業代込みであることを隠してです。はっきり言って詐欺です。それで人を採用して、「話が違う」とトラブルになったら、間違いなく違法性を問われます。絶対にやめるべきです。
「給料を上げないと来てくれないから」というのが理由です。
しかし、そもそも中小企業が給料で大企業と勝負することは困難です。
仮に採用できたとしても、給料につられてきた社員は、必ず給料で辞めていきます。仕事の中身で選んでいないから、定着もなかなかできません。仕事が合わない可能性が高く、やりがいも持てません。
でも、多くの中小企業では、募集情報において、給料ばかりを気にしています。
もちろん、求職者にとって給料は大事な条件ですから、相場を下回るような給与では採用は難しいです。相場をよく調べて、無理のない範囲で少しでも上回るようできるのであれば、それに越したことはありません。
若い人が大企業を選ぶ理由
中小企業に若い人が行かないのであれば、大企業を選んでいることになります。
なぜ中小企業に若い人がなかなか来てくれないのでしょうか。
マイナビの調査では、「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社」を選ぶと言っている人が30.5%もいて、「やりがいのある仕事であれば中堅・中小企業でもよい」と言っている人が40.0%もいるのにです。
結局、中小企業が「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社」かどうか、「やりがいのある仕事」があるかどうかが分からないからではないでしょうか。
分からなければ、大企業に行ってしまいます。イメージがよいし、安定していそうだし、大きいからいろいろな仕事ありそうだし、その中には自分のやりたい仕事や、やりがいのある仕事がきっとあるだろうと思えるからです。
結果的には、単なる幻想であることが多いのですが、会社で長く働いた経験が少ない若い人が、そのように想像するであろうことは、それこそ容易に想像できます。
要するに、中小企業の求人情報は、会社や仕事に関する情報が少なすぎるのです。ホームページもあまり充実していない場合も多いですし、ホームページすらない企業もありますから、会社のことがほとんど分からない状態なのです。
不安で選べないのは当たり前ではないでしょうか。
詳しい情報発信の必要性
若い人材、よい人材、自社に合った人材を本当に採用したいのであれば、彼らが求めている情報をしっかりと提供しなければなりません。
ただでさえ良いイメージが付きやすい大企業の方から、自社の方へ興味を向けさせなければならないのですから、より詳しい情報発信がどうしても必要です。
- わが社はどのような会社で、どのような事業を行っているか。
- わが社の使命、ビジョン、理念は何か。
- わが社の顧客は誰か、どのような顧客ニーズに対応しようとしているか。
- わが社の製品やサービスはどのようなもので、どのような特徴があるか。
- 取引先はどのようなところか。
- 経営者はどのような人で、どのような考え方を持っているか。
- 組織にどのような特徴があるか。
- 一緒に働くのはどのような人たちか。
- あなた(求職者)にやってほしい仕事はどのようなものか。
- その仕事のレベルはどの程度か(必要な能力、資格、経験など)。
- その他、わが社が社員に求めるものは何か。
- わが社にはどのような評価・報奨制度があるか。
- わが社に入ったらどのようなキャリアパスや教育訓練が用意されているか。
などです。現に働いている社員の意見を聴いてみることも必要です。彼らが就職活動をしていたときに、どのような情報を望んでいたかが参考になるからです。
もちろん、労働条件に関わる事項(給与、休暇・休業制度、保険制度、退職金制度、福利厚生制度など)は当然に提示します。違法な条件は論外です。
また、マイナビの調査では「就職観」についても聞いており、
- 「楽しく働きたい」 38.9%
- 「個人の生活と仕事を両立させたい」 22.8%
- 「人のためになる仕事をしたい」 11.9%
などが上位に来ています。
就職経験がほとんどない状態での質問ですから、仕事の実態をよく分からずに答えている可能性があるものの、上位の就職観を意識した情報発信が望ましいでしょう。
同種の就職意識調査は、他にも多数ありますから、よく調べたうえで、求職者が求めている情報を発信すべきです。
このような情報は、詳しいに越したことはありません。詳しいことが、自社が望む応募者を特定することにつながります。来てほしくない応募者をおのずから除きます。
情報を曖昧にしたがる中小企業
ここまで詳しく出すべきだと言うと、逆に応募者を限定し過ぎてしまい、応募者が減るのではないかと心配する社長が多いです。
ですから、発信する情報を最低限にしようとします。なるべく曖昧にし、隠そうとさえします。採用した後にはすべて明らかになるにもかかわらずです。
一旦採用してしまえばどうにでもなるという、まるで根拠のない信念を持っている社長も多いです。その結果、「こんなはずではなかった」と思って社員は辞めていきます。下手にごまかそうとすると、そうならざるを得ません。
詳しい情報を出した場合、やましいことをやっている企業やブラック企業でない限り、応募者が増えることはあっても、減ることはまずありません。
詳しい情報を出さないから、求職者は、大抵の場合、給与などの労働条件でしか選択できません。給料が高いとか、職場が近いなどの理由で選びます。有名であるとか、安定しているとかいう理由で、大企業を選びます。
自分たちで、大企業に取られてしまうような口実を与えているわけです。
もちろん、情報を詳しく出したからといって、最初から優れた人材が一気に押し寄せてくるなどということはありません。効果は少しずつしか出てきません。
採用後の人事配置や教育訓練、評価・報奨制度を明確化し、充実させていくことも重要です。これらが少しずつ相乗効果を発揮しながら、良い人材が集まり始め、業績はあがり、評判も良くなって、更に応募者も増えていくのです。
詳しい情報を出せと言われても
ということで、募集の際には詳しい情報を出しましょうと申し上げているわけですが、ここで多くの中小企業、特に人手不足に困り、業績も芳しくない企業は、重大な問題に直面します。
何かというと、
詳しい情報がそもそもない、出したくても出せる情報がない
という問題です。
要するに、
- わが社がどんな会社なのか、どんな特徴があるのか。
- わが社の使命、ビジョン、理念は何か。
- わが社の顧客が誰で、顧客のどのようなニーズに対応しようとしているのか。
- わが社が提供している製品やサービスにどのような特徴があるのか。選ばれている理由は何か。
- 経営者はどのような考え方を持っているか。
- 組織にはどのような特徴があるのか。
などが、そもそもはっきりしていないのです。
ですから、社員に何を求めるのかもはっきりと示すことができず、評価・報奨制度も曖昧で、キャリアパスや教育訓練のビジョンも示すことができません。
このような企業では、採用選考の基準も曖昧になり、結局、自社に相応しい人材が採用できません。「自社に相応しい」の意味がそもそも曖昧だからです。
当然、採用できても定着しません。この会社で働き続ける意義を見出せないからです。そのような社員に対して「わがまま」だとか、「根性がない」とか言っても始まりません。その原因をつくっているのは、会社であり社長です。
自社に当てはまると思えるなら、改めて、わが社はいったいどんな会社なのかをはっきりとさせる努力をしなければなりません。
そこからしか、良い人材を採用して、業績を向上させる手立てはないということを、腹を括って認めなければなりません。