科学的管理法の実施とその効果 − 科学的管理法②

科学的管理法では、さまざまな手法が用いられます。時間研究、動作の標準化、機能的職長制度、計画部制度、計算尺、指導票、課業と賞与などです。

しかし、科学的管理法の根本は手法ではなく考え方であり、次の四大原理が結合したものです。

  1. 真の科学を発展させること
  2. 労働者の科学的人選とその科学的教育および成長
  3. 労使間の友誼的強調
  4. 管理者と労働者との、ほぼ均等の職責分担

考え方に誤りがあれば、特定の手法を用いても失敗します。

科学的管理法の導入過程では、必ずしも大発明が生まれる必要はありません。既存の知識を集め、適用することによって、法則や規則として作業標準をつくりあげます。重要なことは、労働者と管理者が、互いの義務と責任に関して考え方を変えることです。

テイラーは、科学的管理法は決して単一の要素ではなく、全体の結合であると言い、次のように要約します。

  1. 科学を目指し、目分量をやめる
  2. 強調を主とし、不和をやめる
  3. 協力を主とし、個人主義をやめる
  4. 最大の生産を目的とし、生産の制限をやめる
  5. 各人を成長させて、最大の能率と繁栄をもたらす

科学的管理法の手法

科学というと大仰に聞こえますが、決してそうではありません。例えば、金属加工機械を最適化するといった研究は、それ自体が専門科学として多年を要する分野となり得ますが、現場での実用性の面からいうと、数ヶ月の研究によってかなりの知識が得られ、研究や実験の費用を補って余りある成果が得られるといいます。

多くの場合、最後の結論に至るまで実行をせず研究を続けるよりも、一般的理論としてある断案ができたら、なるべく早くそれを実行に移し、厳重にテストしていく方が得策です。ただし、どうしても従来の方法に対する関係者の思い入れが強いため、新しい方法に対する懐疑が働きやすいことは知っておくべきです。実験者が十分な権威と機会をもっていなければ、公平な徹底した試みをすることはできません。

テイラーの事例でも示されるように、専門科学者の手を借りなければならないような高度な科学を要求する現場作業は多くありません。時間研究や動作研究は、地道な計測と記録によって、大きな成果を生み出す科学的法則を明らかにすることができます。(参考:科学的管理法の適用事例

大まかな順序は次のとおりです。

  1. 研究しようとする仕事に熟練した人を10〜15人選びます。なるべくいろいろな会社や地方から選ぶほうがよいといいます。
  2. 彼らの一連の基本的な動作、作業、道具を正確に研究します。
  3. 各基本動作に要する時間をストップウォッチで計測し、そのなかから仕事の各要素を行うのに最も速い方法を選びます。
  4. 間違った動作、遅い動作、無駄な動作はすべてやめます。
  5. 最も速くて良い運動と、最も良い用具を集めて、一系列につくり上げます。
  6. 最良の方法を標準と定め、教師(職長)に教えます。
  7. 教師は労働者を教育し、一般に行われるようにします。

科学的研究は、作業や工具だけでなく、労働者に影響する種々の動機を研究することにも活用できます。人間そのものが研究対象の場合、非常に例外が多いことは確かですが、大多数の人に適用できる法則を発見することは可能であり、テイラー以降もすでに多くの研究結果があります。

課業の観念

科学的管理法は、別名「課業管理法」と呼ばれるほど、課業の観念が従業員の能率に及ぼす効果を重視します。毎日一定の課業を与え、その達成を目指すことによって能率が上がります。一日の一定時間ごとに達成度を知らせることで、労働者自らが現在の進捗を確認します。実際に達成した際には満足を得ることができ、達成速度によって自分の成長を確認することもできます。

労働者に課業を与え、最高のスピードを要求するためには、課業の完了に対して、高い賃金を保証することが必要です。テイラーは、課業と賞与(賃金の割増)が、科学的管理法の手法として、もっとも重要な要素であり、科学的管理法の頂点であるとさえ言います。

テイラーは、『工場管理法』の中で、課業に取りかかる時間を決めても、やめる時間は決めておかないほうがよいと言いました。課業を完了次第帰宅できるようにすべきであって、課業が済んでも決まった時間まで残らせるのは人道に反し、不得策であると批判しました。

ただし、課業である以上、完了するまでは帰宅できないことになります。標準時間で完了できなければ、低い賃率での支払いになりますから、標準時間で終わる動機づけになります。

テイラーの実験によって、賃金を増すことがあらかじめ明らかであれば、喜んで最高のスピードで働く労働者が数多くいることが分かっています。仕事の種類によって、増給の程度が違うことも明らかになっています。労働者を長くその職にとどまらせることができる効果もあります。

ただし、課業と賞与を実施するには、その他の手法(計画部、精密な時間研究、方法と用具の標準化、手順制度、機能的職長(教師)の養成、指導票、計算尺など)がすべて先に揃っていることが条件です。この順番を間違うと、労使間のトラブル、場合によってはストライキの原因となります。

計画部の役割について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

指導票と機能的職長

課業を課すからには、作業標準が明確であり、労働者が十分に教育され、問題が起こった際には指導を受けられることが必要です。

作業標準を明確にするのが「指導票」です。計画部における各専門家の合作によって作成され、最良の方法(最適な機械の設定や動作、各要素作業のスピードなど)が詳しく記されます。

指導票が正しく守られるように指導するのが機能的職長です。科学的管理法では職種ごとに職長を置くのではなく、8つの機能に別れた職長を置いて、複数の専門的な立場から従業員を指導します。一つは指導票を遵守させる「指導票係」ですが、残りの7つは次のとおりです。

検査係:
仕事の内容と品質を表す図面と指導標の理解
準備係:
機械加工を行うための準備(機械に加工品を取り付ける方法、その動作をを速く良くする方法)
速度係:
機械を最良のスピードで運転する方法、機械が最短時間でその仕事を成し遂げるように正しい工具を特別の仕方で用いる方法
修繕係:
機械やベルトなどの調整、整頓、手入れなどの方法
時間係:
賃金報告伝票の記入およびその返却
手順係:
仕事の順序、仕事が工場の中を移動する順序
訓練係:
上記の係と従業員とのトラブルの解決

機能的職長制度の更なる詳細については、次の記事を参照してください。

創意工夫の奨励

課業管理は、作業標準を定め、それに従って作業することを要求するため、労働者を自動機械のように扱うという意見が出てきます。しかし、それは誤解です。

その時点での最新知識に基づく標準用具と標準方法とが与えられることによって、そこから創意工夫をスタートし、新たな知識に貢献することができます。労働者は、まず最善の方法で作業することをマスターすることから始めなければなりません。

その上で、課業管理においては、労働者の改善意見が奨励されます。もちろん、科学的研究によって現在の標準が定められているのですから、従業員の勝手な思いつきでそれを変更することは許されません。

提案に対しては、機能的職長をはじめ計画部においても科学的に研究し、実験し、現在の標準よりも優れていることを確認することができれば、新標準として採用する義務があります。採用された提案には、報酬によって報いなければなりません。

科学的管理法実施の心得

科学的管理法の導入には時間がかかります。物理的な環境の変更や時間研究、作業標準化などにも時間がかかりますが、精神的態度や習慣を根本的に改革することがもっとも重要であり、時間が必要です。テイラーによると、小さな会社でさえ2〜3年、時には4〜5年かかることもあるといいます。

ですから、最初のうちは、一時に一人ずつ適用すべきであるといいます。まず一人を選び、研究し、新しい方法を実験し、非常に利益があることを納得させるまで、決して他のことに手をつけません。

こうして、労働者の1/4から1/3くらいが新たな方式に変わってしまうと、それから先は急に進行することができるといいます。残りの労働者も、その利益の恩恵を受けたいと思うようになるからです。

十分な時間をかけず、労働者の十分な教育と確実な納得を得ないまま、いきなり課業管理を行い始めた結果、ストライキが起こり、改革を行う前よりもはるかに悪い状態になってしまうことさえあります。

科学的管理法の実施には、どうしても専門の指導者が必要です。実施の過程で必ず起こってくる特殊な困難に打ち勝った経験をもっていることが特に重要です。

テイラーは、科学的管理法の実施を30年にわたって行い、原理にしたがって仕事を進めていった場合には、一度たりともストライキは起こらなかったと断言します。

科学的管理法の導入には、時間をかけて労働者の意識改革を行う必要がありますが、会社の経営陣も十分に科学的管理法の根本原理を理解し、信頼し、変革に伴う特殊事項や相当の時間を要することを知り、自ら科学的管理法を欲するようになっていなければなりません。

実施上の注意については『工場管理法』でも述べられていますので、次の記事も参照してください。

科学的管理法の効果とその分配

科学的管理法による効果は生産性の向上であり、コスト削減と生産量の増大による利益の増加です。増加した利益は、労働者と使用者に分配されるだけでなく、消費者にも分配されなければなりません。消費者こそが、労働者の賃金と会社の利益の支払い者ですから、増加した利益の恩恵をもっとも受けるべき人たちです。

消費者に利益が分配される、すなわち安い価格で質の良い製品が購入できるようになるということが、一層の市場拡大を生み、さらに使用者と労働者への分配を増やすという好循環を生み出します。

コスト削減の効果によって競争力もつきますから、不景気にも強い会社になります。労働者の生産力の増加が、他の労働者の仕事を奪うという心配は現実にはなりません。

経済学においても、その国の豊かさは生産性の高さによって決まることが分かっています。国が豊かになっていけば、労働時間を短くすることもできますし、教育文化や休養の機会も多くなっていきます。

だからこそ、科学的管理法の導入によって生産量が2倍になったからといって、労働者の賃金を単純に2倍にすることが良いのではありません。生産量の増加は、労働者の努力だけでなく、管理者の努力、経営者の意思決定や投資などにも寄っていますから、労使間での利益の分配と消費者への還元を十分に吟味しなければなりません。

科学的管理法では、生産量の増大と市場の拡大が好循環を生み出すような最適な分配を考えていくことも重要なです。