職長制度の改革 - 科学的管理法④

テイラー当時の工場は、いわゆる軍隊式で、例えば、支配人、工場長、職長、副職長、組長、工員というの階層型組織になっていました。

なかでも職長や組長の役割は種々雑多で、多様な優れた素質や知識がなければ務まらない仕事でした。大きな工場を始める際にもっとも難しいのが、職長や組長を確保することでした。工場を稼働させる事実上の責任は、職長にあったといいます。

職長の役割を列挙すると、仕事の割り振り、工場内での仕事の流れの決定、工員の教育と監督、工員の採用と仕事の確保、作業時間の記録、賃金の決定などです。工場内の仕事、機械、人員の管理は、すべて職長にかかっているといっても過言ではありませんでした。

このような幅広い職長の役割を一部委任できるよう、副職長や組長が置かれました。

テイラーは、職長の仕事をこなすのに必要な資質をすべて兼ね備えた人材を確保することは困難であるものの、その一部を備えている人を確保するのは難しくないと考えました。

そこで、組織を軍隊式から機能式に変えることを提案し、自ら実行して成果をあげました。基本的な改革の考え方は、次の2点でした。

  • 設計や計画などの事務的な仕事を担う部門を創設し、現場の実行的な仕事とは分離する。職長や組長は、実行的な仕事に専念させる。
  • 職長が行う管理の仕事を8つの機能に分割し、一人の職長が受け持つ機能を制限する。できれば一人に一つだけの機能を受け持たせる。

従来の軍隊式では、ある工員を管理する職長は一人であり、その一人を通してすべての指揮命令が行われました。職長は管理監督者でした。しかし、機能的職長の下では、一人の工員が、最大8人の職長と関わります。この場合の職長は、むしろ専門分野における援助者と言ったほうがよいでしょう。

機能を分割する効果として、職長の養成が比較的短期間で可能になったことがあげられます。

職長の機能

職長の8つの機能は、計画を実行に移す機能と計画そのものに関わる機能に大きく分けることができます。

最初の4つは、計画を実行に移す機能です。基本は、時間研究などによって標準化された作業を、標準時間内に実施できるように、工員に教育し、自らやってみせながら、工員が遵守できるように指導・監督する役割を果たします。この4つが、狭義の職長の役割です。

次の3つが、計画に関わる機能です。計画の内容を書面として作成するのは事務部門です。テイラーは、その事務部門を「計画部」と呼びました。職長の役割は、計画部が作成した内容を現場で確実に実行されるようにすることです。

最後の1つは、工場全体の規律の維持に関わります。

準備係

仕事(原材料、部品等の加工対象)が機械に取り付けられるまでの準備一切を受け持ちます。その職長が受け持つ工員が次になすべき仕事をあらかじめ準備し、現在の仕事が終わり次第、速やかに次の仕事に移れるようにします。

また、各工員には、もっとも速く仕事を機械に取り付けることができるようにする方法を教え、その通りにできるように実地でやって見せながら、実際にできるように指導します。取り付け方法やその時間は、すべて時間研究によって標準化されていますので、その標準を遵守させる必要があります。

速度係

実際の機械操作に関わる仕事、つまり、機械に仕事が取り付けられてから、機械加工が終わるまでを受け持ちます。具体的には、仕事に応じて、適切な加工具、加工の開始位置、加工速度などについて標準を遵守させつつ、加工を行わせることです。

検査係

仕事の品質を受け持ちます。仕事の仕上がりを検査し、判定する役割を果たします。

修繕係

機械および付属品の保全を受け持ちます。実際に保全を行うのは工員ですが、保全方法にも作業標準と標準時間が決められていますので、それらが遵守されるよう教育、指導、監督します。

保全には、機械や付属品のメンテナンス、付属品の整理整頓、機械・付属品・機械周辺の清掃を含みます。

仕事の順序および手順係

手順を工員に遵守させる役割を担います。

「手順」とは、仕事(材料、部品、製品等)が工場内をどのような順序で流れていくのがもっとも経済的であるかを考え、それを正確に決定したものです。

最終的な組み立て工程を持つのであれば、納期に応じて定められる期限までに、その最終工程にすべての部品が揃うようにしなければなりません。

手順は日表に作り込まれ、各担当部門に通知されます。日表が、仕事の手順および順序について工員を指導する土台となります。

指導票係

指導票とは、計画部が仕事の詳細を工員や実施の係(職長など)に教えるための手段です。具体的には、参考とすべき全般図面と詳細図面、使用すべきジグや工具、加工条件、手作業の標準、各作業の標準時間、賃率などが記載されます。

これを担当する職長は、指導票を工場に送り、その実行に何か困難が生じた場合には、解決に当たります。

時間および原価係

工員と時間表(タイムカード)のやりとりを行います。

「時間表」とは、工員がその日に行った仕事の時間と原価とを記録するものです。担当職長は、記入された時間表を工員から確実に受け取り、計画部の原価および時間記録係に送らなければなりません。

工員からの適時で正確な報告がなければ、計画部の仕事は機能しませんから、報告は所定の様式による書面の報告が原則です。

工員に正確な報告をさせるには、報告を含めて工員の仕事であり、報告の内容が漏れなく適切であることを賃金支払いの条件にする必要があります。テイラーは、報告の様式に賃金の支払いクーポンをつけておき、報告内容がすべて適切な場合に、そのクーポンを切り取って賃金帳係に送るようにすることを提案しました。

工場訓練係

工場全体の規律の維持に当たります。工場内で発生する様々なトラブルの納め役ということができます。

工員の不従順、不謹慎、怠業、遅刻、無届欠勤などがあった場合は、その工員に対して適切な対応をしなければなりません。

各工員について、日々の仕事振りなどから、長所と短所とを完全に記録しておきます。工員の賃金を改定する場合には、この担当職長にあらかじめ相談することが必要です。

機能的職長制度の効果

機能的職長制度は、職長の仕事を限定し、明確化しているため、時間研究の対象となり得ます。仕事を標準化すれば、工員と同様に課業を設定することができますから、仕事が標準の品質と時間で完了できたときは高い賃率で支払い、そうでなければ低い賃率で支払うことも可能です。

以前までは各工員の創意工夫に頼っていた仕事の方法について、計画部によって多方面から標準化を図り、職長による綿密な教育や支援が行われるようになるため、工員の仕事は、総じて、以前よりも低い能力や技術によってできるようになるはずです。

したがって、総人件費のレベルは下がりつつ、未熟練の工員にとっては今までできなかった仕事ができるようになり、標準的な賃金よりは十分に高い賃金を得ることができます。高度な能力や技術を持つ工員は、さらに高度な仕事に従事することができ、その分、以前よりも更に高い賃金を得ることができるようになります。

職長の養成

改革の仕事としてもっとも難しく、もっとも大切なこととしてテイラーが指摘するのは、機能的職長の人選と養成です。

職長教育においては、これまでの考え方を変えさせることが必須です。計画部が専門的に決定し、指示や指導する事項については、速やかに従うことを教えなければなりません。

テイラーの経験によると、実際に適任であると思って選別しても、3人のうち2人までは勝手に辞めたり、結果的に見込みがなくて辞めさせたりすることになるため、一機能に対して一人ずつ全部揃えて教育するほうがよいといいます。また、改革の初めには職長が大勢必要であるため、多めに養成しておくほうがよいともいいます。

また、候補者から適任者を前もって選び出す方法はなく、最後は実際にやらせてみなければ分からないといいます。予想とはまったく違う結果になることも多いようです。

職長として必要な性質として、テイラーは2つをあげました。一つは堅忍であり、もう一つは構成的想像です。後者については、自分の心中にもっている僅かの事実を利用して障害を乗り越え、更に進んで何かしら有益なものをつくり出すことができる性質です。これらについても、実際にやらせてみないと分からないといいます。

通常、機能的職長制度を新たに運用し始める際は、これまで職長であった者から選任することになります。この場合に、直ちに起こりがちな問題は、機能が限定されることによる職長の不満です。それまでは、職長として多くの仕事をこなしてきたため、自分の権限が狭められたと感じるからです。

しかし、実際に運用し始めると、次第にその不満は消えていくといいます。自分の責任の範囲が明確になる代わりに、なすべき準備(特殊な資料の活用や先の見通し)、あり余る仕事の量に直面するようになるため、不満を言う余裕がなくなってくるからです。

それでも不満が続くような職長は、大抵の場合、機能的職長としての役割を部分的にしか果たしていないといいます。自分がその専門的な機能を果たすことができないことのはけ口として不満を言い続け、指導しても改善されないようであれば、最後は解任するしかありません。

工員の混乱への対処

機能的職長制度の導入が難しい理由の一つは、階層組織に長年馴染んでいることにより、工員がもつ先入観です。上司である職長は一人でなければならないという先入観です。

これは、管理の原則としても長年言われ続けてきた「命令一元化の原則」に相当するものです。歴史的に、2人以上の上司から指揮命令を受けることによって、実際に混乱を生じさせてきたことは事実です。

ただし、テイラーの方法では機能が明確に分けられているため、各職長が越権をしない限り、矛盾した命令を受けるようなことは原理的にはないはずでした。また、職長の役割は、命令や監督というよりも支援という性格のほうが強いものであったと考えられます。

実際に各機能の職長と工員の間にトラブルが生じたときは、工場訓練係の職長が解決に乗り出すようになっていました。

このような機能分担による管理は、学校教育を考えると、決して特別のものではありませんでした。学校では、小学校を除き、クラス担任はいるものの、科目別に異なった専門教師が教育し、能力を管理します。すべての科目を一人の教師が教えることは、専門的に不可能だからです。生徒が目標とする人格像や、それを目指すための科目のバランスなどの全体計画は、教育指導要領および各学校の方針によって定められています。これが工場における計画部の役割に相当します。

それでも、工員の混乱を避けるため、テイラーは、8つの機能を分割した職長制度を一気に導入することは勧めませんでした。まず、5つないし6つの機能を静かに実行し、定着した後に、初めて機能別職長制度の考え方を明らかにしたほうがよいと言いました。

工場の規模が大きくなる場合は、一つ機能を担当する職長が複数になってきますから、機能別に主任を置くことを提案しました。主任の役割は、一義的には、各係の職長の教育、動機づけなどの管理です。それに加えて、係の間でトラブルが生じたときは、主任同士で解決を図ります。ただし、主任同士は同格ですから、解決が図れないときは、両主任の上司(副工場長など)が解決を図ります。