イノベーションのマネジメント

イノベーションの必要性は、マネジメントについてのあらゆる文献が説いています。しかしながら、その内容は専ら既知のことを継承し、改善する機能が主眼であると言います。

イノベーションを促進し、方向づけ、成果をあげさせるために、マネジメントや組織構造はいかにあるべきか、何をなすべきかについてはほとんど言及していないと言います。

企業の中にも、イノベーション自体を独立した一つの重大な課題として取り組んでいるところは、組織の大小を問わずあまりないと言います。せいぜい単独の仕事、一人で行う仕事、発明家の仕事とされていました。

今や激変の時代であり、イノベーションのできない組織は、やがて衰退し、消滅すると言われます。

いかにイノベーションを組織の戦略に位置づけ、マネジメントしていくかが重要な課題です。

イノベーションの意味

イノベーションは、かつて「技術革新」と訳されました。

ドラッカーは、イノベーションを「科学や技術そのものではなく価値」であると言います。組織の中ではなく外にもたらす変化、経済や社会にもたらす変化です。人間行動にもたらす変化です。

単に新たな知識を加えただけではイノベーションとは呼べません。社会に対して何ももたらしません。新たな価値、富、行動に転換されて初めてイノベーションと呼べます。

そうであれば、常に市場に焦点を合わせなければなりません。顧客のニーズから出発することによって、将来必要な科学・知識・技術の姿を明らかにし、発明・発見のための体系的な活動を組織し、イノベーションに取り組むことができます。

イノベーションは戦略を持ち、マネジメントすることが可能であることを意味します。

また、研究開発とマーケティングに必要な資金と人的資源を手にしている組織が、率先して行わなければならないことも意味します。

イノベーションの力学

力学とは、因果関係です。

ドラッカーは、イノベーションの要因をすべて解明し尽くすことはできないが、イノベーションを気まぐれで予測できないものとするのは間違っていると言います。

ドラッカーは、2種類のイノベーションがあると言います。

  • 確率分布に従う予見可能なもの
  • パターン化することのできないもの

確率分布に従うイノベーション

  • いかなる種類のイノベーションが、製品、プロセス、事業、市場となり得るか
  • 成果をもたらしてくれる分野をどのようにして探すか

は、すでに明らかになっていると言います。

  • 経済的なギャップ
    • 需要の増大にもかかわらず収益が伸びないとき、プロセス、製品、流通チャネル、顧客ニーズを変えるイノベーションが大きな成果を生みます。
  • すでに発生していながら、その経済的なインパクトがまだ現れていない変化
    • 最も重要で確実な変化が、人口構造の変化です。
    • 知識の変化は、変化の速さが分からないので、イノベーションの種として確実ではありません。数十年のスパンが必要な場合もあります。
    • 重要でありながら不確実な変化としては、次のものがあります。
      • 意識の変化
      • ビジョンの変化
      • 期待の変化

パターン化することのできないイノベーション

世界の動きを利用しないイノベーションであり、世界の動きそのものを変えるイノベーションです。

企業家が、自らの意思によって何事かを起こそうとして試みるイノベーションです。

ドラッカーは、これこそが真に重要であり、常に目を光らせておくべきイノベーションであると言います。

しかし、これらは予測不能であり、確率分布の外にあります。例外的であり、最もリスクが大きいイノベーションです。

これからのイノベーションへの取組み

研究開発のコストと、その成果を製品や事業へ転換するコストとの比が大きく変わりました。

ドラッカーによると、その比は実に、

アイデア:研究:開発:製品化・事業化=1:10:100:1,000〜10,000

にのぼると言います。

現在の企業や公的機関は、100年前には考えられなかった規模の資本と財を手にしています。

すなわち、これからのイノベーションは、必要な資金と人的資源を持つ既存の組織において行わなければなりません。組織は、次の2つの能力を両立させることが必要になります。

  • 既存のもののために組織する能力
  • イノベーションのために組織する能力

確率分布に従うイノベーションに焦点を合わせる

イノベーションには、「確率分布に従うもの」と「パターン化できないもの」の2種類があると述べました。

パターン化することのできないイノベーションは重要であり、常に目を光らせておくべきですが、体系的かつ意図的な活動として行うことは不可能です。マネジメントの対象ではありません。

組織は、確率分布に従うものに焦点を合わせ、戦略を持って取り組みます。

その過程で、パターン化できないイノベーションに対する感覚を育てることもできます。素早く認識し、活用する体制をつくります。

イノベーションの能力

イノベーションをマネジメントする者は、自ら技術の専門家である必要はありません。

技術の専門家は他の分野に目が届きにくいので、他の分野で起こり、自らの事業を陳腐化させるイノベーションに気づかないことがあります(例えば、金属がプラスチックに置き換わるなど)。

近年のイノベーションは、まったく無関係の技術分野から生じることが多くなっています。

組織のイノベーションの能力は、マネジメントの能力の関数であると言います。国民性、業績、規模、歴史、研究開発活動の関数ではありません。

つまり、イノベーションができない理由を「優秀な人材がいないから」、「実績がないから」、「研究部門がないから」と言うことはできません。「マネジメントできていないから」が正しい言い方です。

イノベーションの能力を高めるには、イノベーションに関わる業績を記録し、評価するためのシステムが必要です。

ドラッカーは、世界の一流医薬品メーカーの何社かが行っている方法を紹介しています。

一定期間における業界全体のイノベーションを徹底的に調べ、次のような問いかけをします。

  1. 調べ上げたイノベーションのうち、本当の成功と言えるものはどれか。
  2. 自社の実績はいくつあったか。
  3. 自社の実績は当初の目標に見合っていたか、市場の方向性に合っていたか、市場における地位に見合っていたか、研究開発費に見合っていたか。
  4. 自社のイノベーションは成長分野でのものだったか。
  5. 逃がした重要なイノベーションの機会はどのくらいあったか。
  6. なぜそれらの機会を逃したのか。気づかなかったからか、気づいていながら手をつけなかったからか、本気で取り組まなかったからか。
  7. イノベーションの商品化にどのくらい成功したか。

多くは客観的な測定ではなく、主観的な評価を求めるものです。しかも、答えを出すというよりも、問題を提起するものです。

イノベーションを行う組織に共通の特徴

イノベーションの意味や力学を理解していることが必要です。

さらに、次のことが必要です。

  • イノベーションの戦略を持っていること
  • 既存事業のための目標や基準とは別に、イノベーションのための目標と基準を持っていること
  • 特にトップマネジメントが、イノベーションに対して果たす役割と姿勢を持っていること
  • イノベーションのための活動を、既存事業のための活動から独立させて組織していること

イノベーションの戦略と組織について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。