スタッフ部門の問題と対策

スタッフ部門とは、事業の目的を果たすための直接の機能であるライン部門に、専門的事項に関する助言や勧告を行う部門です。

ライン部門は組織の骨格であり、権限と責任を担っていますが、スタッフには公式の決定権や命令権はありません。

にもかかわらず、スタッフの権限逸脱行為は日常的にみられ、組織内抗争(コンフリクト)の典型的な原因の一つになっています。

スタッフ部門に対しては、もちろん、公的・サービス機関としての問題と解決策が当てはまりますが、ここでは、スタッフ部門特有の問題と解決策に限定して説明します。

スタッフ部門成立の経緯

「ライン」と「スタッフ」という言葉は、軍の組織に由来します。

ライン部門とは、事業の目的を果たすために直接貢献する機能を担います。仕事の段階別に組織されていることが一般的です。仕事は、通常、ラインの段階を順番に移動していきます。

各段階に存在するスキルや能力は多様ですから、ラインマネジメントは、専門的事項に詳しいスタッフの助言や勧告を受けながら意思決定を行っています。

一方で、必要とされるスキルや能力は、どんどん高度化・専門化しています。他方、同様のスキルを持つ専門スタッフをライン部門ごとに配置することは非効率でもあることから、特定の専門スキルや能力を持つスタッフを統合して、部門を作るようになりました。

スタッフ部門の役割

スタッフ部門の役割は、ラインマネジメントに対して助言や勧告を行うことです。ラインマネジメントの能力を増大するための活動と言えます。

事業の成果に直接貢献するのはラインマネジメントです。そのマネジメントに対して助言や勧告、企画や予測という形でインプットを提供することが、スタッフ部門の貢献になります。

よって、スタッフ部門に直接の意思決定権はありません。スタッフ部門からのインプットをどのように活用するか、あるいは活用しないかは、ラインマネジメントの権限です。

スタッフ部門にあらざる部門

財務、経理、エンジニアリングなどの部門は、スタッフ部門と理解されている場合もありますが、実際は違います。助言や勧告が仕事ではありません。

財務部門は資金の調達や管理を行う活動であり、マーケティングやイノベーションと同様、事業の成果に直接関わる部門です(直接成果活動)。

経理部門は、お金という共通単位で表した成果としての「数字」を扱います。目標達成状況を評価するための情報をライン部門にフィードバックする仕事ですから、事業の直接成果に必要な情報を供給する部門です(情報活動)。

OR(オペレーションズリサーチ)は、意思決定すべき問題を明らかにし、代替案の選択肢を供給しますので、経理部門と同様、事業の直接成果に必要な情報を供給する部門です(情報活動)。

エンジニアリング部門は、技術的な頭脳を供給することで、事業の直接成果に貢献します(成果貢献活動)。プラントの設計・調達、工場のレイアウト設計、IEなどがあります。

人事部門が実施していることも多い求人や教育訓練も、事業の直接成果に貢献する活動です。人事部門は、そのような成果貢献活動以外に、種々雑多な業務を行うことによって混乱しています。

スタッフ部門に関わる問題

肥大化の危険

スタッフ部門は、つねに肥大化の危険を持っています。

顧客を満足させるという直接の成果によって支払いを受けるのではなく、予算によって運営されているからです。

その結果、より多くの予算を獲得することがスタッフ部門の成果となりがちです。明らかな失敗でさえ予算を増額する理由になります。

責任のない権力

スタッフ部門は、特定の専門能力に特化した独立部門となってトップマネジメントに直結することで、事業の成果に対する責任のない権力、すなわち不当な権力を持った存在になりがちです。

トップマネジメントから承認された権限を正式に持っている場合さえあります。

責任を伴わない権限は専横であり、必ず腐敗します。

ラインマネジメントにとって、奉仕者になるのではなく主人になろうとします。ラインマネジメントに代わって自ら意思決定しようとすることさえあります。

ラインマネジメントは、自分たちの昇進が、スタッフ部門によって左右されると感じるようになります。

スタッフ部門が立案したプログラムを採用し、忠実に実行し、体よくトップマネジメントに報告されることが、ラインマネジメントの仕事になっていきます。

スタッフ部門は、手法や道具や方法論の画一化を推進します。「正しい目標は一つだが、その実現の方法はたくさんある」とは考えずに、「目標が何であれ、正しい道具、正しい方法は一つである」と考えがちです。

マネジメントの視点の欠如

道具に固執し、道具が目的となり、道具が奉仕すべき本来の目的を見失いがちです。ライン部門の成果をサポートするという元々の使命を忘れがちです。

その結果、事業の成果に貢献するというマネジメントの姿勢を育てることができません。

事業の成果の観点から、自社の強みや弱みが何であり、必要な技術や情報が何であるかに意識が向かなくなり、自らの部門がそれらにどのように貢献できるのかという視点を考えられなくなります。

その結果、現業の仕事を軽く見るようになり、正しさよりも頭の良さを大事にするようになります。

ある中小企業における情報システム部門の責任者は、自分が考えたIT化による作業効率化を「生産性の向上」と誇っていました。具体的な経費削減効果を問うても、答えに窮しました。

事業の成果への具体的な貢献を問うと、「私の仕事ではないから、私には関係ない。売上高アップや経費削減などの数字は関係ない。」と答えました。

彼にとって、「生産性の向上」とはIT化による作業効率化だけを意味しており、それこそが至上の美学でした。その美学に意見する筆者など、彼にとって、理解不能の分からず屋でしかありませんでした。

自社の経済的成果さえ自身の美学には無関係であったのです。

しかも、この会社は、中小企業の便益(補助金など)を受けるため、わざと企業規模を中小企業の基準に合うように調整していました。常用雇用を制限し、非正規雇用にすることで、中小企業の基準を満たしているわけです。

直接の経済的成果を生み出すのはライン部門ですから、スタッフ部門の支援を常に定量的に評価できるとは限りません。

しかし、作業効率化によってライン部門の成果活動にどのように貢献できるのか、定性的にでも説明できることが大切です。作業効率化によって生じた余力を、ライン部門のための新たな支援に振り向けることも考えられます。

少なくともライン部門の成果に貢献するという目的をもって行う作業効率化でなければなりません。

中小企業においてさえ、スタッフ部門という部門の仕切りは大きな影響力を持ちます。人の思考の前提を変え、方向を変え、いとも簡単に本来の目的を見失わせます。

問題解決の指針

ラインマネジメントの道具として組織

スタッフの仕事の成果とは、現業の人間の効率をあげ、生産性をあげることです。現業の人間に対する支援部隊であって、現業の人間に代わるものではありません。

ですから、スタッフ部門がラインマネジメントの主人とならないようにしなければなりません。

原則は、ラインマネジメントの上司であるトップマネジメントの直属ではなく、ラインマネジメントの道具となるべき位置に組織化される必要があります。

ライン部門が共通して必要とするスペシャリストを、独立したスタッフ部門に一括して配属し、ラインマネジメントの部下としてスタッフ機能を担う人材(通常は業務の一部として兼務)のサポートをさせることはできます。

ただし、独立スタッフ部門は厳選し、極力小さくし、意思決定権を明示的に制限しなければなりません。取り組むべき仕事も限定しなければなりません。新しい仕事を始めるなら、スクラップ&ビルドを徹底します。

ラインの成果への貢献を明確にするため、スタッフ部門の仕事には、具体的な目標と期限を設定しなければなりません。さもないと、自身の専門分野に拘泥し、際限なく仕事が広がっていきます。

さらに、トップマネジメントは、定期的にスタッフ部門の長と会い、自社の業績に対してどのような実質的貢献をしたかを聞かなければなりません。

選択権の付与

事務の合理化のため、部門共有のスタッフ部門を設ける必要がある場合は、ラインマネジメントに明確な選択権を与える必要があります。

代わりに外部の専門能力を選択できる自由を与え、外部の専門能力を使ったことによって評価が下がることのないようにする必要があります。

あわせて、スタッフ部門の専門能力を活用する際の費用負担も行うようにすべきです。

スタッフ部門は自らが定めた道具をラインマネジメントに強制するのではなく、ラインマネジメントが要求する道具を提供すべきです。その道具が不適切であれば、外部の専門能力を購入できるようにすべきです。

トップマネジメントのためのセクレタリアート

トップマネジメントに直属のスタッフ部門は、原則、トップマネジメントのためのセクレタリアート(企画部門)であるべきです。重要度の高い長期の問題、限定された問題に専念させなければなりません。

ラインマネジメントを支配する権限を持たせてはなりませんし、ラインマネジメントの昇進に関わる影響力も持たせてはなりません。

トップマネジメント直属のスタッフ部門が、ラインマネジメントに奉仕し得るとすれば、次の3つの貢献が考えられます。

  • ラインマネジメントがスタッフに期待できる貢献が何か(サービスメニュー)を明らかにすること
  • ラインマネジメントの部下であるスタッフ(スタッフ部門の管轄に関わる業務を行う者)の教育訓練
  • 専門的事項に関する調査

スタッフ部門配属の長期化防止

スタッフ部門に長期間配属してはいけません。

マネジメントの視点が持てなくなったり、ラインの仕事の軽視や不当な権力の行使を招いたりすることを防ぐために必要です。

スタッフ社員として採用し、生涯スタッフ部門に配属するという人事方針などはもってのほかです。複数の現業部門で実績をあげた経験をスタッフ部門配属の要件とすべきです。

現業を知らないスタッフは、現業に対して傲慢になります。現業において実績をあげたことがなければ、現業の人間の信頼も得られません。

スタッフは、他の人に手柄を立てさせることを欲する気質を持たなければなりません。そのような気質を採用時に把握することは困難であり、長期間維持することも困難です。

ただし、組織にそのような気質が必要であることは間違いありませんから、一時的に誰もが経験すべき仕事であるということはできます。

なお、「スタッフ部門にあらざる部門」で説明したとおり、スペシャリストの仕事は、スタッフの仕事と同義ではありません。

スペシャリストがスタッフ機能を部分的または一時的に担うことはあっても、スペシャリストをスタッフ機能のみに長期間配置することは、本人のためにも不適切です。

スペシャリストのキャリアコースを設けるのであれば、事業の成果に貢献できる活動(成果活動)として、スペシャリストの仕事を設計しなければなりません。