事業の分析

ドラッカーは、事業の内容について、定期的に、少なくとも3年に一回はすべて見直す必要があると言います。

事業を見直すには、まず現在の事業とその方向性を正しく診断し、理解する必要があります。そのための事業分析を行わなければなりません。

事業の分析には、事業の現状の分析と未来の事業に関わる分析があります。

事業の現状分析

事業分析の基本は、現在の事業の骨格、すなわちその経済的な構造を調べることから始まります。具体的には、次のような分析を行い、資源と業績、活動と成果、利益とコストの間の関係や、相互作用を調べます。

  • 事業において業績をもたらす領域(製品、市場、流通チャネル)の分析
  • 利益、コスト、資源の現状と見通しの分析
  • 製品の類型による分析
  • コスト構造の分析

これらの分析によって、企業が今どのような状況にあるかを知ることができます。それぞれの分析について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

未来の事業に関わる分析

事業の現状を理解するだけでは不十分です。

そもそも市場にとって適切な事業を行っているのか、将来どのような事業に取り組むべきかを知ることができないからです。

これを知るための情報は企業の中にないため、上記の分析では知ることができません。

マーケティング分析によって、企業を外から見る必要があります。市場、顧客、最終用途の視点からの分析です。

さらに、知識の分析も必要です。企業が有する経営資源のうち、競争優位性をもたらす唯一の資源は知識だからです。

事業が継続し、かつ成長していくためには、知識分析によって、自社の競争優位性を決定づけている知識とは何であり、それがどの程度の卓越性を持っているのかを分析します。

企業の競争優位性を決定づける知識は、企業の中にあるものですが、事業の外部にある顧客、市場、最終用途に貢献して初めて有効なものです。企業の外にある顧客の満足と価値の視点で分析する必要があります。

2つの分析について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

総合分析

以上の分析を総合的に行うことにより、企業は、事業の現状を理解し、将来への方向づけを行うことができるようになります。

まず、事業の現状を知るための分析は、暫定的な診断を与えます。その診断結果を、マーケティングと知識の分析によって再点検していきます。

再点検によって、診断結果が大幅に変更されることもあります。例えば、製品類型について大幅な変更が必要になったり、製品ライフサイクルの段階について大きく解釈を変更することが必要になったりします。

時には、顧客の再定義が必要になり、事業全体を再設計し直さなければならないこともあります。

さらに、マーケティングと知識の分析を、事業の現状の分析と重ね合わせることによって、自社に欠けているものを発見できます。その結果、当然行えるはずであったのに行っていなかったことが分かります。

ドラッカーは、常に3つの種類の欠けているものがあると指摘しています。

全盛期を過ぎたものに代わるべきものを開発する努力

製品、市場、最終用途、流通チャネルなど、様々なものが考えられます。

機会と成功の追求

顧客ニーズの見落とし、ニーズの変化の見落としなどが起こりがちです。

これらの見落としに気づき、製品やその提供方法を変更したとしても、流通チャネルとの適合性をチェックしなかったために、届けるべき顧客に届かないということも起こります。

逆に、流通チャネルを変更したために、これまでの顧客に届かなくなったり、意図したとおりに届かなくなったりすることもあります。

製品、市場、流通チャネルのいずれかを変更したときは、必ず全体の適合性を検証する必要があります。

知識

特に重要な知識として、ドラッカーは、次の3つをあげています。

  • 本当に重要な新しい知識として取得する必要があるもの
  • 現在の中核的な知識のうち向上させ、最新のものとし、進歩を図る必要があるもの
  • 再定義が必要な知識

このうち、最も重要でありながら見落とされがちなのは、3つ目だと言います。

可能な意思決定

以上の分析によって、自社の事業の現状と方向性を理解できるようになります。その結果、次の意思決定が可能になります。

  • 製品やサービスが提供しようとする顧客の満足
    • 自社の製品やサービスが満たすべき顧客のニーズ、事業が対価を期待できる顧客への貢献でもあります。
  • 望ましい貢献を果たすために卓越性をもたなければならない知識の領域
    • 事業の存続と繁栄のために必要な卓越性の領域です。事業に必要な知識の領域の決定は、必要とする人材を明らかにすることでもあります。
  • 際立った価値を提供すべき顧客、市場、最終用途と、それらに到達するための流通チャネル
    • 流通チャネルは、顧客としても満足させるべき存在です。
  • 以上の目標を具体化すべき技術、プロセス、製品、サービス
  • 成果をもたらすあらゆる領域におけるリーダーシップ