コスト構造の分析

コストは、業績を上げるために発生しています。

効果的なコスト管理とは、業績をあげない活動に資源を投入することをやめ、業績をあげる活動に資源を集中させることです。

機会を最大限に開拓することが最重要の課題になります。

そのためには、コスト管理の原則にしたがって分析を行います。最大のコストに集中し、事業全体の流れを見ながら、コストの種類に応じた管理策を講じます。

なお、この記事ではコスト構造の分析に焦点を当てていますが、コスト削減について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

コスト管理の原則

コストは売上を搾取し、企業の業績を落とすために発生しているわけではありません。業績を上げるために発生しています。

効果的なコスト管理とは、業績をあげない活動に資源を投入することをやめ、業績をあげる活動に資源を集中させることです。

機会を最大限に開拓することが最重要の課題であり、その他は付加的な課題に過ぎません。業績を上げないコストは浪費以外の何ものでもありません。

コスト管理にも原則があります。

  • 最大のコストに集中します。
    • コストの90%は10%の活動から発生しています。
  • コストも多様ですから、その種類に応じて管理します。
  • コスト削減の最も効果的な方法は、活動そのものをやめることです。
    • 一部削減が効果的であることは稀であり、行うべきでない活動についてコストを削減することは無意味です。
    • よく行われるコスト削減キャンペーンで、すべてのコストを一律5%削減などとやっていますが、逆効果です。行うべきでない活動が温存され、重要な活動が損なわれます。しかも、重要でない活動のコストはすぐ元に戻ります。
  • 事業全体を視野に入れなければなりません。さもないと、他の活動にコストを押し付けるだけに終わります。
    • 部分最適は、時に他を害し、全体を害することになります。
  • コスト分析の対象は、経済的価値を生むための全活動です。
    • コストとは、製品やサービスを購入し、効用を得るために、最終消費者が支払うものの合計です。管理、修理、利用に関わるすべてのコストを含みます。
    • 自社外で発生しているコストも含めた全体の把握と理解が必要です。
    • 正確な数字を把握することは難しいですが、企業を外部から見るマーケティング分析によるチェックが必要です。
    • マークス&スペンサーやシアーズ・ローバックは、優れたメーカーを見つけ、製品と生産工程を開発し、製品のコストを指定しました。
    • GMは、独立系ディーラーのコストに働きかけました。
    • IBMは、コンピュータを生産的に使えるよう顧客の事務合理化に取り組みました。
    • いずれも自社外のコストを機会ととらえ、成功の鍵としています。

以上の原則をもとに、コスト分析は次のように行います。

  1. 大きなコストが発生しており、コスト削減が大きな効果をあげるコストセンターを見つける。
  2. 主たるコストセンターで、重要なコストポイントを見つける。
  3. 事業全体をコストの流れとして見る。
  4. コストを、企業別に発生するものではなく、顧客が支払うものとして定義する。
  5. コストを基本的な特性によって分類し、分析する。

コストセンターの発見

コストセンターとは、コスト管理を行う価値があるところであり、わずかなコスト改善が総コストの大きな削減をもたらすところです。

業種や個々の企業によって異なりますが、例えば、次のようなコスト科目がコストセンターになり得ます。

資金費

「資金」とは、元手や購買力を意味します。特定の目的、用途にあてるために保有される金銭です。

「資金費」とは、ドラッカー特有の用語ですが、利子などの資金の管理・調達費であったり、運転資本、減価償却、設備保守費など特定目的に固定された資金などを指しているようです。

財務活動(資金調達・管理)は、事業の成果に直接関わるきわめて重要な活動ですが、経済の論理に従って適時適切に資金を手当てしているとは言い難い状況が見られます。

よく見られるのは、自己資本、短期・長期借入のアンバランスです。

低金利による借入が可能なときに、自己資金を在庫費用や不要不急の不動産購入に投入し、いざ資金が必要なときには高金利の借入に頼らざるを得ないということがあります。

短期資本のために長期借入を行い、資本が不要になった後も金利を支払い続けていることもよくあります。

輸送・保管費

複数の企業に分散されたり、企業内でも発生場所が分散しているため、隠されやすく、無視されやすいコストです。主要工程の間で発生するため、誰も責任を負わないことになりがちです。

倉庫を小さく分散しすぎて、輸送・管理費が高くついていることがあります。

輸送、マテハン、積み降ろし、保管を考慮しない流通加工(ラベル貼り、包装など)をしているため、傷み、破損、非効率などによるコスト高になっている場合もあります。

工場でのIEが進んでいる企業でも、倉庫作業、搬入・搬出、トラックへの積み下ろしなどにIEを活用していないことは多いようです。

原材料費

単に良い物を安く購入するだけでは高くつきます。

資材管理として、VEなどを活用し、設計と購買を統合することは必須です。製品に適合した原材料や部品の調達が必要であり、逆に、製品を原材料や部品に適合させることも必要です。

生産費

近年、コストセンターとして大きいことは稀です。コスト管理の体系的な努力が唯一継続的に行われてきた分野だからです。

ほとんどの産業で、生産費は総コストのごくわずかな部分にしかすぎません。これ以上の大幅なコスト削減を行うためには、本格的な技術革新が必要です。

  • オートメーション化のような生産工程全体の革新
  • 生産工程の分離、分散化
    • 在庫が完成品から半製品に変わり、在庫の大幅削減につながります。
    • 注文後に半製品から製品に組み立てることもでき、注文への対応が容易になり、カスタマイズの余地があります。
  • 伝統ではなく経済理論に従い、生産工程を再組織
    • ドラッカーは、「原材料間のバランスにおいて再組織する方法」が考えられると言います。
    • 例えば、製紙プロセスを、パルプを安くかつ速く紙に変換するプロセスとしてではなく、熱と化学品を効率的に利用するプロセスとして組織する、などです。

ところが、現実には、訓練された技術者たちが、日常的に、効果が少ない生産費の削減に動員されています。単に生産費の日々の変動を分析することによって、コスト管理を行っているつもりになっている、とドラッカーは指摘しています。

改善は小さなことの積み重ねであると言うものの、効果が大きなところを差し置いて、効果が小さいところに優秀な人材を投入することは適当ではありません。

コスト削減が重要だというならば、効果が高いところに優秀な人材を投入することが、何より大事なことです。

コストポイントの特定

コストポイントとは、コストセンターの中でも、特にコストの大半を発生させている活動を指します。コスト計算の基礎とした作業量の大きな部分を発生させている活動です。

見落としやすいものとして、例えば売掛金があります。やむを得ないものと考えられがちですが、メーカーの立場では、流通業者の在庫状況から見て妥当かどうかを評価する必要があります。流通業者の資金繰りの面倒を、無利子で必要以上に見ているだけになっていることがよくあります。

売上にわずかしか貢献していない多数の顧客が、コストの大半を発生させています。通常、次のような問題が発見されます。

  • 小口受注のため受注事務や輸送のコストがかさむ。
  • 売掛金の大半を占め、不必要な融資、信用調査や回収事務のコストがかさむ。

このような顧客に対しては、

  • 最少取引数量を決める。
  • 輸送費を顧客持ちにする。
  • 訪問営業をやめ、DMによる案内だけにする。
  • 現金決済に限定する。

などの方法によって、コストを削減する余地があります。

売上の減少を危惧するかもしれませんが、小口顧客は過大なサービスを求めないことも多く、全体として大きな売上減にならないことがほとんどです。

売上貢献度の高い顧客にサービスを重点化することで、全体の売上を上げることができます。

コストを全体の流れとして把握

特定のコストポイントだけに集中しすぎると、他の活動にコストを付け替えるだけになることがあります。

例えば、生産コストを削減するために在庫を増やすことになれば、生産の平準化を図れるかもしれませんが、

  • 在庫費用の増大
  • 原材料の新たな浪費
  • 需要予測精度の低下
  • 工程管理能力、生産効率の低下

などの弊害が起こる可能性があります。

重要なことは、顧客が支払う全体コストを削減することです。全体の流れを理解し、全体最適を目指す必要があります。

特定のコストを削減して全体のコストを引き上げてはいけません。全体のコストを削減するために、特定のコストを引き上げることはあってしかるべきです。

コストポイントの分類

コストも多様ですから、基本的な特性によって分類し、分析することが効果的です。種類によって、異なるコスト分析・管理が必要になるからです。

生産的コスト

顧客が必要とし、喜んで代価を支払ってくれる価値を提供するための活動のコストです。生産、販促、営業、知識、資金、製品差別化のためのコストなどがあります。

重要なことは、最小のコストで最大の成果をあげることです。増分分析により、成果が急減する時点までコストを追加していきます。

生産的コストは業績をあげるために必要なコストですから、機会に集中して資源を投入します。

コスト管理ではなく成果管理が必要です。資源の生産性によって評価します。

  • 単位給与当たりの生産高と利益
  • 単位労働時間または単位設備稼働時間当たりの産出高と利益
  • 単位投入資金当たりの産出高と利益

補助的コスト

経済価値は生み出しませんが、経済活動の一環として避けられないと考えられるコストです。輸送、受注、検査、人事、経理などのコストがあります。

補助的コストについては、まず、本当に必要かどうかを判断します。「この仕事をやめたならば、どれだけの損失を受けるか」を問います。

損失が、最小限に切り詰めた場合の補助的コスト以下の損失であれば、活動自体をやめます。

どうしても必要であれば、「最小限必要な活動とコストがどれだけか」を考えます。前提として、活動全体の再設計が必要になります。全体の流れとしてとらえ、見直します。

監視的コスト

何か悪いことが起こらないようにするための活動のコストです。情報収集、検査、調査などのコストがあります。

補助的コストと同様、まず、本当に必要かどうかを判断します。やめた場合の損失がコスト以下であれば、活動自体をやめます。

どうしても必要であれば、同様に活動全体の再設計を行い、最小限必要な活動とコストを求めます。

一つには、全量管理をサンプル管理に変更する方法があります。許容範囲を設定したうえで、必要なサンプル数などを設定します。

サンプル管理を行う場合、「他の活動の監視としても併用できないか」を検討する余地があります。ある海運会社では、輸送、荷役、乗客待遇の品質管理手段として苦情処理を活用しています。苦情の全数調査を実施していますが、結果的に各活動のサンプル調査になっており、全体の監視的コストを削減しました。

監視的コストは、不断の検討をしないと簡単に増大します。コスト削減活動自体が監視的コストを増大させることがありますので、注意が必要です。

浪費的コスト

成果を生まない活動のためのコストです。待ちの状態にある機械や人、空きがある輸送設備、荷の積み降ろしに時間がかかりすぎる輸送設備などが典型です。

数字に表れないため、発見が難しい場合もあります。ドラッカーは、「間接費が生産的コストの1/3を超える場合、隠された浪費的コストがあると見てよい」と言います。経理上の間接費と作業量による配分コストの数字が大きく異なる場合も同様です。

それ以上に大事なことは、「何もせず、いかなる成果もあげずに、時間や資金や人を使っているのはどこか」を意識的に探すことです。

発見したら、やめるべく手を打ちます。この場合、事業全体の再設計が必要になることがあります。慣行、設備、経営方針の変革が必要なこともあります。経営者のこだわりやプライドが邪魔をすることもあるかもしれません。