利益やコスト、資源配分の分析は、事業の現状を教えてくれます。現在の顧客や製品、流通チャネルの非効率な部分を改善し、効果的な部分に資源を集中する必要性を知ることができます。
しかしながら、そもそも適切な事業を行っているかどうか、事業をどのように変えていくべきかは教えてくれません。それらの答えは企業の内部にはないからです。
事業の目的は顧客の創造です。買わないことを選択できる第三者が、喜んで自らの購買力と交換してくれるものを供給することですから、事業を外から見て、顧客の視点で分析する必要があります。
企業の中から見える現象は、顧客や市場の現実とは一致しないことがほとんどです。内部からは自らの強みさえよく見えません。当たり前のものであるため、気づくことが困難です。逆に、自らにとって足りないものや困難なもの、すなわち弱みが大きく見えることの方がほとんどです。
ですから、自分たちの評価が常に正しいと決め込むのではなく、顧客の視点で検証しなければなりません。
なお、これまでのマーケティング分析において共通に明らかになっている現実について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。
標準的なマーケティング分析
マーケティングは、十分に浸透しているように見えて、未だ誤解されていることも多いようです。販売予測や入出庫、広告を統合した体系的販売活動をマーケティングと称していることもあります。
自社の製品や技術など、企業の内部からスタートしていることが最大の問題です。
マーケティングとは、顧客の欲求や価値観を起点にすべての事業活動を考えることです。
したがって、マーケティング分析とは、企業外部の視点、すなわち顧客の視点で事業を分析することです。外から見ることで、事業全体を見ることができます。自社の市場や顧客、製品の視点ではなく、顧客の立場から、顧客の購入、満足、価値、購買、消費、合理性を見ようとするものです。
企業から不合理に見えるものであったとしても、それを合理的なものとしている顧客の現実を見ることこそ、事業を市場や顧客の観点から見るということです。
標準的には、次のような点がマーケティング分析の対象となります。
- 顧客は誰か(市場、顧客の視点)。
- 顧客はどこにいて、いかに購入するか(流通チャネルの視点)。
- 顧客は何を価値とし、いかなる目的を満足させたいと考えているか(財やサービス、それらの提供方法の視点)。
- 顧客の生活と仕事において、それはどのような役割を果たし、どの程度重要か。
- 年齢や家族構成など、どのような状況で最も重要か。
- 顧客にとって、どのような状況で最も重要でないか。
- 直接あるいは間接の競争相手は誰か(競合の視点)。
- 彼らはいま何をしており、明日何をしているか。
顧客をとらえる3つの側面
事業の見方、顧客の捉え方には、3つの側面があります。
- 誰が買うか(顧客)。
- どこで買うか(市場)。
- 何のために買うか(用途)。
どの側面が適切かは事業によって異なりますが、すべての側面について検討し、最も分析に適した側面を見つけることが必要です。
むしろ、一見不適切と思われる側面についての分析が重要です。一つの側面についての分析結果を他の側面についての分析結果に重ねることによって、重大かつ実り豊かな洞察を得ることができるからです。
多元的な側面からの分析によって、誰のために、どのような種類の満足を、どのようにして供給しているかを、自信をもって定義することができます。競合を見落とさないためにも必要不可欠な分析です。
予期せぬものを知るための分析
市場や顧客は企業の外にあり、コントロールができませんから、企業にとって予測できない行動や変化が起こります。
それらを見落とさないために分析すべき対象を、ドラッカーは教えてくれます。重複する視点もありますが、多様な視点からの検討が大切です。
ノンカスタマー
市場にありながら、あるいは市場にあっておかしくないにもかかわらず、自社の製品を購入しない人たちのことです。
ほとんどの企業は、自社の顧客にしか目を向けませんから、変化に気づくことが遅れます。突然、予想外のところから競合や代替製品が出現し、市場を奪われることもしばしばです。
なぜノンカスタマーなのかを知ることは、変化の兆候や潜在ニーズ、見落としているニーズを知るうえで価値があります。
なお、ノンカスタマーの増加は、人口動態の変化と関係していることがあります。
ある層が、元々ノンカスタマーであったけれども、マイノリティーであったために問題にしていなかったということがあります。ところが、注目していなかった結果、その層の急激な増加を見過ごし、自社顧客の急激な減少に見舞われることがあります。
例えば、高齢者、働く女性、核家族、共働き世帯などの増加は、重要な人口動態の変化であり、ライフスタイルなどが大きく異なっているため、見過ごしてはいけない変化であったと言えます。
顧客のお金と時間の使い方
同様に、潜在ニーズや満たされていないニーズ、見落としているニーズを知ることができます。
例えば、設備の購入において、顧客によっては、経費で処理できる方が買いやすい場合もあれば、設備投資(減価償却資産)として処理できる方が買いやすい場合もあります。どちらが買いやすいかを知ることができれば、顧客によって、レンタルとするか、一括販売とするかを変えることができます。
顧客の価値選好
顧客が重視している価値に関する分析です。
顧客あるいはノンカスタマーが他社から購入しているものを知ることで、それが顧客にとってどのような価値があり、満足を与えているか、それらの満足が自社の製品から得られる満足と競合するものかを分析します。
さらに、それらの満足を自社の製品で提供できるか、あるいは自社の方がよりよいものを提供できるかを検討します。
現在、顧客がわが社から得ている満足は、顧客の生活においてどの程度重要で、その重要度は今後大きくなるか、小さくなるかを検討します。
さらに、顧客はまだ満たされていない新しいニーズ、十分満たされていないニーズを持っているか、持っているとすればどのような分野かを検討します。
自社が提供できる価値
自社の現在の製品、あるいは提供可能な製品のうち、本当に重要な満足を提供しているものが何かを検討します。製品ではなく、顧客が重視している本質的な価値や満足に着目します。
存在意義
自社の製品の存在意義をなくしてしまうような状況が起こるか、それはどのような状況かを検討します。わが社の事業を左右するものであり、経済性、物からサービスへの流れ、低価格から便利さへの流れなどです。
それらの見通しを知り、利用できる有利な要因がないかどうかを検討します。
商品群
顧客の考え方や経済的な事情から見て意味のある商品群が何かを検討します。
製品群は顧客の主観であり、知覚です。通常、企業と顧客の知覚は違っており、意味があるのは顧客の知覚です。買うかどうかを決めるのは顧客だからです。
例えば、食器洗い機を洗濯機に似せてつくったところ、全く売れませんでした。価格が2倍になったため、高額な洗濯機と理解されたからです。全く別種の製品とすべきでした。
あるいは、シアーズは店頭で自動車保険を販売して成功し、生命保険を販売して失敗しました。顧客は、自動車保険を自動車の付属品ととらえていましたが、生命保険は金融商品ととらえていたからです。同じ保険でありながら、全く別種の製品でした。
潜在的な競争相手
産業構造は急速に変化し、新規参入者が次から次へと強力な競争相手となって現れます。
しかしながら、企業にとって、外にある産業構造は不変に見えるため、変化の兆候を見逃してしまいます。
ですから、競争相手になりそうでありながら、今そうなっていない者が誰か、それはなぜかを検討します。
潜在機会
自社の方も、産業構造の変化によって、新たな機会に直面します。
自社の方が競争相手になり得るのに、まだなっていない相手がいるかを検討します。
わが社の事業の一部と考えていないために、わが社には見えていず、試みてもいない機会がないかどうかも検討します。
顧客にとっての現実
企業から見て完全に不合理に見える顧客の行動は、顧客の現実でありながら自社には見えていないものです。大きな潜在的機会になります。
例えば、小売業者がプライベート・ブランドを持とうとする理由について、メーカーはよく理解できていないことがあります。それは差別化、店の個性化を図るためです。全国ブランドだけで占められているなら、その店で買う理由がなくなるからです。
不合理に見える顧客の行動は、自らに有利なものに変えることができないのであれば、自らの側を顧客の行動に適応させなければなりません。