事業の内容を分析するに当たっては、事業の業績にとってもっとも重要な領域について分析する必要があります。
ドラッカーによると、事業に業績をもたらす領域は、製品、市場、流通チャネルであると言います。まず、それぞれの領域について個別に分析し、次に、それらの領域が互いに適合しているかどうかを分析します。それらの3つの領域は一体となって業績をあげるからです。
なお、この段階での分析は、さらに詳細な分析を進めるうえでの前段階の分析に相当します。したがって、精密な分析にこだわるのではなく、問題を明らかにすることに焦点を合わせることが重要です。
業績をもたらす3つの領域
「事業は何か」という問いを通じて導き出されるものは、事業において業績をもたらす3つの領域、すなわち、
- 製品
- 市場(顧客、最終需要者)
- 流通チャネル
です。
これらの領域が、事業を理解するための分析の対象になります。
それぞれが独立して収益上の貢献をし、コストを発生させます。それぞれに資源を割り当てられます。それぞれに将来性を持ち、市場におけるリーダーシップ上の地位を占めます。
一方で、互いに整合性を要求するため、事業として総合的な取り組みが不可欠です。
分析においては、それぞれの領域について、資源と業績、活動と成果、利益とコストの間の関係などを調べます。さらに、互いの相関関係、相互作用を調べます。
製品
企業が提供する財やサービスです。
製品は、企業がコントロールできる唯一の領域ですから、通常、まず最初に分析すべき対象です。
製品は、顧客が満たしたいと願うニーズ(欲求)や顧客の価値観から、企業が導き出したものであり、企業の解釈です。
ですから、顧客の欲求や価値観を一義的に意味するものではなく、二義的な意味しかありません。
また、単体の製品が完結したものとして意味があるとは限りません。
主力と位置付けられる他の製品の販促品や付属品である場合もあります。その場合、主力製品への貢献によって評価されます。
複数の製品のセットで一つの商品として評価すべきものもあります。例えば、化学製品のように、一つの生産プロセスから不可避的に生成される製品群があります。
機能的には同じでも、サイズ、形状、色が違う商品群なども、セットで一つとみなすべきかどうか、判断の余地があります。
市場
一般的には、財やサービスの交換が行われる場所、財やサービスの需要と供給が相対して価格が成立する場を意味します。
企業にとっての直接の顧客や最終需要者を含み、それら集合体を意味します。個人や団体だけでなく、さらに幅広く製品分野の市場や業界分野の市場としてとらえる場合もあります。
顧客は一種類ではありません。最終需要者と一致するとも限りません。
例えば、一般消費財のメーカーから見て、直接の顧客は最終需要者の場合もあれば、卸売業者や小売業者といった流通チャネルの場合もあります。後者の場合、最終需要者は、顧客の顧客に当たります。
直接の顧客が最終需要者でない場合であっても、最終需要者まで含めて市場を分析したうえで、事業を理解する必要があります。
ドラッカーは、大規模小売店や市中銀行などの場合、製品よりも先に市場を分析する方が望ましいだろうと言います。
市場は、企業が満たすべき顧客のニーズや価値観を一義的に意味します。事業の一部として定義され、計画されますが、実態は企業のコントロール外にあります。
流通チャネル
製品を最終需要者のもとに届けてくれる経路です。通常、卸売業者や小売業者を意味します。
生産財(他の製品の材料、部品など)のメーカーにとって、直接の顧客は組み立てメーカーなどです。その生産財を組み込んだ最終製品をつくり、最終需要者に販売します。さらに別のメーカーを経由して最終製品に仕上がる場合もあります。
この場合、生産財メーカーから見ると、組み立てメーカーなどは、顧客でありながら、最終需要者に至る流通チャネルでもあることを理解する必要があります。
流通チャネルも、事業の一部として定義され、計画されますが、実態は企業のコントロール外にあります。しかも、技術や市場よりも速く変化することを理解する必要があります。事業の見直しに最も緊急性を要求する領域です。
多くの場合、顧客としての機能も持ち、独自のニーズを持つ存在であることを考慮する必要があります。最終需要者のニーズを満たす製品だからといって、黙って要求どおりに取り扱ってくれるとは限りません。
領域の適合性
3つの領域が適合していることが、事業に業績をもたらす条件の一つです。
製品は市場に適合している必要があります。直接の顧客のニーズだけでなく、最終需要者のニーズにも適合していなければなりません。
流通チャネルは、製品に適合し、市場(最終用途)にも適合しなければなりません。
流通チャネルは顧客でもありますから、製品や販売方針の方も流通チャネルのニーズを満たさなければなりません。流通チャネルの側が無条件に合わせてくれると考えてはいけません。
事業単位の分析
ドラッカーは、事業単位がいくつかの完全なまとまりになっている場合は、事業単位そのものから分析をスタートする方が、現実に近いものを把握できると言います。
事業単位全体として、資源と業績、活動と成果、利益とコストの間の関係などを分析します。
その後に、各事業を構成する3つの領域について分析します。
ドラッカーは、その後、再び事業全体の総合分析を行い、そのうえ更に、高度の洞察と理解のもとに製品についての分析を行うべきと言います。
簡単な分析の必要性
この段階の分析は、正しい答えではなく、正しい問いを得るために行います。白熱した議論を生み出し、意見の対立と判断が必要な問題を明らかにすることが大切です。
この段階での精緻な分析は逆効果であると、ドラッカーは言います。精緻な分析は、歓迎されない分析結果が出た場合に、それを隠してしまうことがあると言います。
問うべきは、「最も簡単な分析、最も簡単な道具は何か」ということです。
やろうとしていることは、事実についての判断ではなく、事業そのもの、事業の将来についての判断ですから、結論を出すのは部下の権限ではなく、トップマネジメントの権限です。
不確実な点、曖昧な点、意見の対立がある状態、すなわち、何が問題なのかを明らかにした状態こそ、トップマネジメントが判断するうえで重要です。