「ニッチ」とは、一般的に「隙間」を意味します。経営学では「市場の隙間」、すなわち、大企業が狙わないような小さな市場や、潜在的にはニーズがあるが、まだビジネスの対象として考えられていないような分野のことです。
ドラッカーは、『イノベーションと企業家精神』の中で、企業家戦略の一つとして「ニッチ戦略」をあげており、その中で、「生態学上のニッチ」という言葉を使っています。
ニッチ戦略を考えるうえでは、生態学上の考え方、すなわち環境や競合相手との関係をよく考慮した対応が大切になります。
- 強みを生かし、弱みを補うこと
- タイミングを逃さないこと
- 常に変化をとらえ、自らも変化しつづけること
などが重要な点です。
「ニッチ」の一般的な意味
「ニッチ(niche)」とは、元々、建築用語です。装飾や飾り物を置くために、厚い壁面をえぐって造られたくぼみ台のことを指します。日本語では「壁龕 (へきがん)」と言います。
一般的な意味で「隙間」と訳されることも多いようですが、「適所、適職、ふさわしい生き方」という意味もあります。
経営学上の「ニッチ」
経営用語としては「市場の隙間」、すなわち、大企業が狙わないような小さな市場や、潜在的にはニーズがあるが、まだビジネスの対象として考えられていないような分野を意味する言葉として使われます。
経営の定石として、「中小企業はニッチを狙え」と言われます。大企業が狙わないような狭い市場、特定の専門分野、限定した顧客を選んで、大企業との競争を避けながら、その狭い場所でトップを目指します。
この場合、「どこが儲かるか」だけで選んではいけません。
もちろん需要がなければ意味はありませんが、それだけでなく、一般的な意味での「ニッチ」、つまり自社に相応しい場所でなければなりません。
- 自社の強みが生かされるか。
- 顧客との相性が良いか。価値観が一致するか。
- 自社の弱みを補えるか。
などをよく考えて選ぶことが大切です。
生態学上の「ニッチ」
ドラッカーがよく使う言葉ですので、正しく理解したい言葉です。
「生態学」は生物学の一分野で、生物と生物、生物と環境との関係を究明する学問分野とされています。英語で「ecology」と言います。
「エコ」とよく言いますが、「環境に優しい」くらいの意味で使われているのではないでしょうか。正しくは「エコロジー」の略で、特に人間と自然環境(他の生物を含めて)との共存を図るという意味が込められていると思います。
「生態学上のニッチ」とは、生態学で専門用語として「ニッチ」という言葉が定義されており、日本語で「生態的地位」と訳されています。
生物の種や個体群が占める特有の生息場所、あるいは、個々の生物種が生態系の中で占める役割を意味します。つまり、
- 特有の場所
- 特有の役割
の2つの意味を含んでいます。
もう一つ重要なこととして、
同じ生態的地位をもつ二種は共存することができない
とされていることです。
ドラッカーのニッチ戦略
ドラッカーは、『イノベーションと企業家精神』の中で、企業家戦略の一つとして「ニッチ戦略」をあげています(参考:「ニッチ戦略」)。
ニッチ戦略には、次の3つの種類があります。
- 関所戦略
- 専門技術戦略
- 専門市場戦略
「関所戦略」は、あるプロセスの関所に当たる位置、すなわち、なくてはならない製品やサービスを独占する戦略です。一社でしか占めることができない狭い場所であることが条件です。
「専門技術戦略」と「専門市場戦略」は、特定の技術または市場に特化する戦略です。上記の「生態的地位」の意味では、
- 技術 ⇒ 「役割」
- 市場 ⇒ 「場所」
に当たるでしょう。
「生態学上のニッチ」ですから、環境との関係、他の生物(つまり競争相手)との関係において生き残ることが必要です。
つまり、自社に相応しい技術や市場でなければならず、自社の強みを生かすことができ、弱みを補うことができるものでなければなりません。そこにいる顧客との相性も大切です。
すでに起こった変化を素早くとらえて行動を開始する、すなわちタイミングが重要です。タイミングを逃すと生き残ることが難しくなります。この点もニッチ戦略の肝になります。
「生態学上のニッチ」として、もう一つ重要なことは、環境との適合です。現在の環境に適合してニッチを占領しているということは、環境が激変したら絶滅の危機に瀕することを意味します。その点は大きなリスクです。
常に強みを磨き、高めることを怠らないこと、変化を見失わないことが重要です。自らも、競争相手に先んじて変化することをためらってはいけません。