トップマネジメントの役割

戦略は、主にトップマネジメントの役割になります。トップマネジメントとは、組織のトップに位置づけられる機関です。

組織の事業全体を見て、考えて、意思決定する立場にいるがゆえに、「われわれの事業は何か、何であるべきか」との問いに答える役割を果たす必要があります。

方向づけを行い、ビジョンを明らかにし、基準を設定する仕事です。その役割を果たし、仕事をするために、トップマネジメント特有のなすべきこと、構造、戦略があります。

ドイツ銀行に見るトップマネジメントの典型

ドラッカーによると、トップマネジメントの仕事と組織を確立したのはゲオルク・ジーメンスです。ジーメンスは、1870年から80年にかけて、ドイツ銀行をヨーロッパ最強の金融機関につくりあげました。

ジーメンスはトップマネジメントのチームをつくり、ドイツ銀行の活動を分析し、それぞれの活動についてトップマネジメントのメンバーに責任をもたせました。

誰がどの活動を行うかは、メンバーの能力、関心、資質によって決定しました。

トップマネジメントにはキャプテンがいます。ジーメンスの役割でした。特定の活動や関係については、担当メンバーが直接かつ最高の責任を持って意思決定しました。キャプテンは、各担当のナンバー2の役割を引き受けました。

各地の支店長もトップマネジメントの一員でした。それぞれの地域において、取引先との関係について全責任を負いました。

組織の解体を防ぐ方法

これほどの権限と責任を各トップマネジメントのメンバーに与えると、組織全体が空中分解し、解体しかねません。

それを防ぐために、ジーメンスは役員室を創設しました。トップマネジメントの企画部門です。少数の専門スタッフからなり、次の仕事を行いました。

  • トップマネジメントのメンバー全員に、他のメンバーが行った意思決定と活動を周知徹底させる。
  • 銀行全体の将来ビジョンの素案を作成する。
  • 主な投資すべてについてフォローする。

トップマネジメントの仕事と組織

この例から、ドラッカーは、トップマネジメントに関して、次の3つの教訓を引き出します。

トップマネジメントに特有の仕事が厳然として存在する

トップマネジメントという立場、すなわち、事業全体を見、考えて意思決定できる者だけが果たすことができる課題が存在します。

  • 組織全体を方向づける。
  • ビジョンを明らかにする。
  • 基準を設定する。

トップマネジメントには独自の構造が必要である

組織の設計原理としては、チーム型組織が最適です。

トップマネジメントが行うべき活動を分析し、それぞれの活動についてトップマネジメントのメンバーに責任を持たせます。

トップマネジメントには、独自のインプット機関が必要である

トップマネジメントに、刺激、情報、思考、知識を供給する機関です。

トップマネジメントの仕事と組織について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

トップマネジメントには独自のニーズがあります。「われわれの事業は何か、何であるべきか」との問いに答えることです。現在ではなく将来に、部分ではなく全体に関わりを持つ存在です。

トップマネジメントの監視

トップマネジメントの意思決定は、組織としての最終意思決定であり、社会に対する大きな影響力を及ぼすため、その正統性を担保するための第三者的な監視機能が必要です。

本来、取締役会がその役割を担うべきですが、ドラッカーは、あらゆる国の企業で、取締役会は衰退していると指摘します。トップマネジメントは自らの脅威となる取締役会を望んでいません。

取締役会が抱えている問題とあるべき機能について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

トップマネージメントの業績評価

トップマネジメントの経営能力は、組織にとっても社会にとっても大きな影響を与えますが、その業績を評価することは簡単ではありません。影響は長期に及ぶため、短期的な評価では間違うおそれがあります。

経営能力を採点するツールの代表は、財務諸表です。企業の業績全般を定量的に評価することができます。ただし、ドラッカーによれば、業績というのは事業の成果ではあっても、過去の経営能力の成果です。現在の経営能力の成果ではありません。

したがって、現在の経営能力を採点するには、業績では遅すぎます。業績につながるものではあっても、もっと早い段階で個別に評価できる方法が必要です。

ドラッカーは、業績につながるものとして、4つの分野における評価指標を示しています。事業の将来性や、成長に必要な特性の有無を明らかにするリトマス試験紙に当たるものです。詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。