経営能力の採点

経営能力を採点するツールの代表は、財務諸表です。企業の業績全般を定量的に評価することができます。

ただし、ドラッカーによれば、業績というのは事業の成果ではあっても、過去の経営能力の成果です。現在の経営能力の成果ではありません。

したがって、現在の経営能力を採点するには、業績では遅すぎます。業績につながるものではあっても、もっと早い段階で個別に評価できる方法が必要です。

ドラッカーは、4つの分野における成果によって評価することができると言います。事業の将来性や、成長に必要な特性の有無を明らかにするリトマス試験紙です。

4つの分野の成果は定量的に測定できるとは限りませんが、評価は可能です。成果は、期待との比較によって評価します。4つの分野においてあらかじめ期待を明文化しておき、実際に起こったことと比較します。

評価は改善につなげます。評価と改善の繰り返しが、強みや弱みを浮き彫りにします。強みを育て、生かし、弱みを補っていくことが、確かな実績を残していくための経営能力です。

投資

投資の意思決定は、期待収益をあらかじめ評価したうえで行います。

投資が直接もたらす収益だけでなく、全体の収益に対する影響も評価します。他の事業との相乗効果もさることながら、マイナスの影響が生じる可能性もあるからです。直接収益と全体収益への影響について、期待と実績を比較します。

ところが、ほとんどの企業では、投資に関する意思決定手続きを定め、時間をかけて意思決定を行っていながら、一度決定が行われ、実際に動き出すと、誰も注意を払わない場合が多いと言います。

経営者には、投資決定の結果を正面から受け止め、責任をとる姿勢が必要です。

人事

組織の将来を決定するものは、結局のところ人事です。人事は、人材の育成と配置が中心になります。

意欲や能力は、配置前の人選においては意味があっても、配置後の評価には意味がありません。配置前の人選においても、これまでの仕事の成果によって証明された意欲と能力でなければなりません。

しかしながら、結局のところ、新たな仕事で成果をあげるかどうかは、実際に配置してみなければ分かりません。ドラッカーは、配置前の正しい評価など不可能であると言います。

ドラッカーの言う「優れた人事」とは、誠心誠意人事を行い、自らが下した決定の結果を気にかけ、決定に間違いがあったと判断されたときは速やかに訂正できることです。結果に対して責任を負ってはじめて、適正な人事を行ったことになります。

人事の評価は、意欲や能力が仕事を通じて具体化された成果によって行わなければなりません。成果を期待と比較することによって評価します。

期待した成果をあげなかったときは、本人の責任ではなく、配置の決定に間違いがあったということです。組織のためにも、本人のためにも、速やかに撤回することが最善です。

イノベーション

ドラッカーによると、イノベーションとは「資源に富を創造する能力を与えること」です。これまでの単なる改良ではない新事業や新製品が典型的ですが、研究や開発もイノベーションに大きな影響を与える機能です。

イノベーションの成功率はせいぜい3割であるというのがドラッカーの見解です。失敗の方が多いと言います。

しかし、P&Gや3Mのように、成功の確率が高い企業も存在します。彼らの特徴は、イノベーションの成果を期待との対比において体系的に評価していることです。評価はすなわち絶えざる改善を意味し、改善が成功確率を高めます。

さらに、体系的な評価は、自社の強みや得意分野、弱みを明らかにします。強みを強化し、弱みを補うことによって、さらに成功確率を高めていきます。

戦略計画

組織は様々な戦略計画の実行によって仕事を遂行します。計画とは、未来をつくるために今日なすべきことを決めることです。

計画には、未来の予測を踏まえた目標や期待が込められています。未来に至る要所のマイルストーンです。それらを明文化しておき、正しかったかどうかを評価しなければなりません。

  • 予測していたことは本当に起こったか
  • その予測は本当に重要だったか
  • 設定した目標は、会社、市場、経済、社会の動きに照らして正しかったか
  • 目標は達成できたか