成果をあげるための能力

組織において成果をあげる人のタイプというものは存在しません。性格や資質、頭の良さは関係ありません。

そういったものとは全く別に、文字通り「成果をあげるための能力」というものが存在するというのがドラッカーの見解です。しかも、成果をあげる能力は、実践を繰り返すことによって修得できる習慣的な能力であると言います。

ただし、組織には、成果をあげることを妨げるいくつかの現実が存在します。断固たる意思と行動によって現実を変えようとしない限り、成果をあげる能力を修得することは困難です。

ドラッカーは、成果をあげるために身につけておくべき5つの習慣的な能力を示しています。

  • 何に自分の時間がとられているかを知る
  • 外の世界に対する貢献に焦点を合わせる
  • 強みを基盤にする
  • 優れた仕事が際立った成果をあげる領域に力を集中する
  • 成果をあげるよう意思決定を行う

成果をあげる人のタイプは存在しない

どのようなタイプの人が成果をあげることができるのかについては、様々な書籍などで長らく語られてきました。いわゆる幅広い専門的な能力や知識、優れた性格などがあげられてきました。

しかし、ドラッカーは自らの経鹸から、成果をあげる人のタイプは存在しないと断言します。

外交的か内向的か、楽観的か悲観的か、温かいか冷たいか、関心が広いか狭いか、論理的か直感的か、決断が速いか遅いか等々いずれも関係ないと言います。

さらに、頭の良い人がしばしば成果をあげられないとも言います。知力、想像力、知識などは、成果をあげるための基礎的な資質であることは間違いありませんが、成果に直接つながるものではなく、限界を設定するにすぎません。体系的な作業を通してのみ、頭の良さが成果に結びつきます。

人の性格や気質、知力などとは別に、「成果をあげるための能力」というものが存在します。万能性や卓越性、天才性、高徳さとは関係がなく、並みの者でも身につけることができる能力です。

成果をあげるための能力

ドラッカーは、成果をあげる能力とは、

なすべきことをなす能力

であると言います。この能力には、相応しい性格のタイプはありませんが、実践という努力を繰り返すことによって習慣化することが必要であると言っています。

知識労働者に特有の能力

成果をあげるための能力は、知識労働者に特有の能力です。

肉体労働者は、決められたことを正しく行う能力、能率をあげることは求められますが、通常、仕事の方向づけや範囲、質や方法について決定する責任や権限は与えられていません。

現場管理者であっても、そのような責任や権限がなく、決められた仕事を正しく行うよう管理・監督することが仕事であれば、成果をあげるための能力は求められません。

知識労働者とは、知識や理論を使い、頭脳を用いて仕事をする人のことです。なすべきことを考え、判断して行う能力が求められます。経営管理者であれば、なすべきことを他の者に指示する能力も求められます

(ただし、知識労働者には、あらかじめ決められた定型的な業務のみを行う者もいます。そのような場合、実態は肉体労働に近く、成果をあげる能力が求められるものではありませんので、ここで言う知識労働者からは除きます。)

知識労働者は頭脳が専らの道具ですから、上司が直接あるいは細かく監督することはできません。助力を与えることができるだけであり、自らマネジメントしなければなりません。

要するに、肉体労働者がなすべきことは、求められる行動を正しく行うことです。知識労働者がなすべきことは、求められる成果をあげるために自らを正しく導くことです。だから、知識労働者はマネジメントです。

成果が知識労働者の動機づけ

さらに重要なことは、成果をあげること自体が、知識労働者の動機づけになるということです。成果をあげることができない知識労働者は動機づけられず、働く意欲をなくしさえします。

知識労働者にとって成果をあげる能力を修得することは、知識労働者であり続けるためにも必要なことです。

人ではなく仕事の改善で成果をあげる

成果をあげるための能力は、スーパーマンのような能力ではありません。もとより、スーパーマンを育てることはできませんし、雇うこともほとんど不可能です。

成果をあげる能力によって組織の仕事ぶりを向上させるには、万能の人材を確保したり、育てたりすることによって行うのではなく、仕事の方法を改善することによって行うべきというのが、ドラッカーの考え方です。

各人がもつ強みを基に仕事を行えるような組織をつくることが必要です。仕事そのものが、人の強みを生かし、人の能力を高める機会であり手段でもあるということです。

ただし、強みを基に仕事をするというのは、他の分野を軽視したり、無視したりすることではありません。そのようなことでは、互いに強みを生かし合って組織全体の成果に貢献することはできません。強みを生かし合うには、他の分野を少なくとも理解する姿勢と努力は必要です。

なぜなら、知識労働者の成果とは、特定の専門分野に関わる成果であり、それ自体が独立した成果ではないからです。知識労働者が生み出すのは、知識、アイデア、情報であり、他の知識労働者のインプットになって初めて成果に貢献できるものです。

要するに、成果を他の人に供給するのが知識労働者の仕事であることを認識し、そのような姿勢と行動に自らの知識を反映させることが必要です。それは、自らの貢献について責任を負うということでもあります。

成果をあげるための意思決定

そのために、知識労働者は、大なり小なり意思決定を行うことが求められます。

その結果を上司が認めてくれないこともあり得ますが、自らの仕事をしている限り、目標、基準、貢献は自らの意思決定が握っています。

意思決定の内容は、その範囲と責任の大きさは違っても、トップマネジメントの意思決定と本質的に同じです。企画、組織化、統合、調整、動機づけ、成果の測定のサイクルに関わる意思決定です。

自らリスクを取って意思決定し、行動するからこそ、間違いを認め、改善し、成長することにつながります。

成果を妨げる組織の現実

時間がすべて他人にとられてしまう

組織で働いている以上、他人が自分の時間を奪うことを拒絶できません。

日常業務に取り囲まれている

昇進経路は関係ありません。現業部門から昇進した者でも、ゼネラリストとして昇進してきた者でも、同じように日常業務に忙殺されます。

日常業務は、組織で起こっている本当の問題を教えてくれません。ましてや、組織の外で起こっている変化を知ることもできません。

組織で働いている

知識労働者は、他の者が自分の貢献を利用してくれない限り、成果をあげることができません。

成果をあげるうえで最も重要な人間は直接の部下ではありません。他の分野の人や上司です。

組織の内なる世界にいる

組織の中にいると、外の世界で何が起こっているかを直接知ることはできません。外の世界の現実は、組織の中の基準によって咀嚼され、報告書という高度に抽象化されたフィルターを通して知らされます。

多くの場合、組織にとって重要な意味をもつ外部の出来事は定性的です。定量化されるときにはもはや手遅れです。すでに過去の事実です。

重要なことは趨勢ではなく、趨勢の変化です。知覚することが必要であり、ITでは捉えることができません。

さらに、直接知ることができない外部にこそ、すべての成果があります。組織の中にはコストと努力しかありません。顧客のみが最終的な決定権、拒否権をもっています。

組織は社会のための機関であり、社会にとって必要な機能を果すための存在です。機能とは手段であり、現実世界である社会にとっては、大きさも広がりもない存在でしかありません。手段はできる限り効率化されることが望まれます。人は少なく、組織は小さく、活動は少ないほど、組織は完全に近づきます。

組織の目的や成果は組織の外部にありますから、外部環境は組織の内部から有効にコントロールすることはできません。他の主体との相互作用によって左右される程度です。

一方、組織の中にいれば、最もよく見え、よく耳にし、急を要するのは、当然に組織の内部の問題になります。ですから、組織の内部に焦点を合わせがちになります。

組織は成長するほど、特に成功するほど、組織の現状を維持するために、一層組織の中に関心が向き、内部のことで仕事が占領されることになってしまいます。

ITの発達がそれを加速します。ITは、定量データを大量に処理し、大量に吐き出します。しかも、定量化できるデータはほとんど内部のデータです。大量に処理できるがゆえに、必要かどうか分からなくともとにかく大量のインプットがなされ、大量のアウトプットが生じます。

大量のコンピュータ情報に晒されていると、コンピュータの論理や言語で表せない情報や刺激を軽視するようになってしまいます。ただし、それは昔から存在している状況を浮き彫りにしているにすぎません。組織の中では、常に定量化された内部情報が優先され、定性情報は軽視されてきました。その結果、定性情報が定量化されたときには、すでに手遅れになっています。

成果をあげるための習慣的能力

ドラッカーは、成果をあげるために身につけておくべき習慣的な能力として、次の5つをあげています。実践を繰り返すことによって習慣化すれば、誰もが身につけることができます。

何に自分の時間がとられているかを知る

残されたわずかな時間を体系的に管理する努力をします。詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

外の世界に対する貢献に焦点を合わせる

「期待されている成果は何か」からスタートし、そこから仕事を組織化します。詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

強みを基盤にする

自らの強みと、上司、同僚、部下の強みを基盤にします。しかも、それぞれの状況下において強みとなるものを中心に据えます。状況によって強みとなるものが変わるからです。状況に適合してこその強みです。詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

優れた仕事が際立った成果をあげる領域に力を集中する

優先順位を決め、それを守るように自らを強制します。最初に行うべきことを行い、2番目に行うべきことに手をつけてはいけません。詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

成果をあげるよう意思決定を行う

意思決定とは手順の問題です。合意ではなく、異なる見解に基づいて行います。全会一致は、意思決定を保留すべきことを意味します。異なる見解を尊重し、考え抜いたうえで意思決定しなければなりません。

ですから、数多くの決定を手早く行うことは間違いです。必要なものは、わずかの基本的な意思決定です。詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。