組織の成果への貢献

組織において一人ひとりが成果をあげるということは、組織全体の成果に貢献するということです。一人ひとりが成果をあげることに責任をもつということでもあります。

自らの仕事を通じて貢献するためには、自らの仕事の中に、次の3つの領域における貢献を組み込むことが必要です。

  • 直接の成果(企業であれば経済的成果)
  • 価値への取り組み(組織の方向性、目的、使命などへの一致)
  • 人材の育成(自らへの高い要求水準、自らを変化させる意欲)

自分の仕事は組織の成果に貢献しなければならないという責任感をもち、組織の目的に一致する目標を設定して仕事をなし、貢献による成果を高めるために自らを変化させ能力を高めていくという価値観をもたなければなりません。

そのような姿勢で行動する習慣をもち、メンバー相互に意識し合い、問いかけ合わなければなりません。

そこには真摯さが求められます。そのような価値観、姿勢、行動をもてなければ、その組織において仕事をする資格はないと考えなければなりません。

貢献する責任をもつ必要性

貢献とは何か

組織において一人ひとりが成果をあげるには、自らの果たすべき貢献を考えなければなりません。組織全体の成果に貢献できてこそ自らの成果であり、仕事における自己実現でもあります。

組織の成果に貢献しようとすることは、成果をあげることに責任をもつということでもあります。

ドラッカーは、組織全体の成果あるいは業績に責任をもとうとしているなら、たとえ新入りであってもトップマネジメントの一員であると言います。

ところが、ほとんどの人は組織の成果に貢献する責任をもっていないと指摘します。意識が下に向いており、あるいは努力自体に向いています。組織や上司が自分に貢献してくれることばかり考え、自分がもつ権限ばかりを気にする人もいると言います。

自分がどちらの側にあるかを知りたければ、「自分はこの組織で何をしているか」と問うてみると分かります。

ほとんどの人は「経理部長をしている」、「販売の責任者をしている」、「部下が850人いる」などと答えると言います。このような人は、組織の成果ではなく、下に意識が向いています。自分の部門や部下を見ているからです。

組織の成果に貢献する責任をもつ人は、例えば次のように答えると言います。

  • 他の経営管理者たちが正しい決定を下せるよう情報を提供している
  • 客が将来必要とする商品を考えている
  • 社長が行うことになる意思決定について考え、準備している

貢献に焦点を合わせる効果

組織全体の成果に貢献しようとすることは、次のような効果があると言います。

組織全体の成果に注意を向けるようになる

自らの狭い専門やスキルにとらわれなくなります。狭い専門やスキルや部門と、組織全体の目的との関係について徹底的に考えざるを得なくなるからです。

それは同時に、チームの形成を動機づけることにもなります。

成果が存在する唯一の場所である外の世界に注意を向ける

組織が生み出すものの究極の目的である顧客や利用者の観点から物事を考えざるを得なくなります。

混乱と混沌に対する対応

原則とすべきものを知ることができ、意味あるものと雑音にすぎないものとの識別ができるようになります。

仕事や仕事の仕方が大きく変わっていく

自分や部門や部下のやりたいことやできそうなことではなく、可能性を追求するようになります。

その結果、高い目標、正しい目標を求めるようになります。

貢献すべき領域

成果に対する貢献は、3つの領域における貢献があります。あらゆる仕事に3つの領域における貢献を組み込んでおくことが必要です。

3つの領域の重要度は、組織によって、その人の地位や仕事によって大きく異なることがあります。

直接の成果

企業であれば、売上や利益など経営上の業績です。病院なら、患者の治癒率です。

直接の成果がそもそも何であるかがはっきりしなかったり、意見が分かれたり、矛盾したりしているなら、成果は期待できません。

価値への取り組み

価値とは、組織の方向性です。目的あるいは使命でもあります。

人材の育成

貢献に焦点を合わせるとは、責任をもって成果をあげようとすることであり、人材を育成する効果を与えます。人は課された要求水準に適応しようとするからです。働く人の視点と水準を高めます。

新しい地位の要求に応えて自ら変化しようとします。貢献すべき成果そのものが変化し、3つの領域の相対的な重度も変化するからです。努力の方向を変えることでもあります。

専門家の成果

知識労働者のほとんどは専門家です。高度の専門知識、独自のツール、関心、用語をもちます。一つのことだけに専門化してよく行うとき、大きな成果をあげます。

知識労働者が生産するものは、アイデア、情報、コンセプトなどです。専門化しているため断片的であり、それ自体で独立した成果をあげることはできません。

他の専門家のアウトプットと統合されて初めて成果につながります。

知識労働者が貢献に責任をもつということは、その産出物を他の専門家に利用してもらえるようにすることを意味します。他の人に理解されなければならないということです。

ですから、知識労働者には、自らの産出物を生産的なものにするために、何を知り、何を理解し、誰に利用してもらうかを自ら考えさせことが必要です。自らの産出物が有用でなければならないことを強く自覚させなければなりません。

それが正しい意味でのゼネラリストになるということです。自らの専門知識を知識の全領域に正しく位置づけられる人のことです。自分の仕事の成果を生かしてもらうには、他の人のニーズや方向、限界や認識を知らなければなりません。

知識労働者は、上司や部下、他の分野の同僚に対し、次のように問うことが必要であると、ドラッカーは言います。

  • あなたが組織に貢献するためには、私はあなたにどのような貢献をしなければならないか
  • いつ、どのように、どのような形で貢献しなければならないか

組織全体の成果への貢献に焦点を合わることで、組織を動かすために必要な仕事とコミュニケーションで相互理解を促進できます。

成果をあげる人間関係

組織における人間関係とは、組織が成果をあげるために必要な人間関係のことです。

対人関係の能力ではありません。自らの仕事や他人との関係において、貢献に焦点を合わせることによって築かれるものです。

成果をあげるための基本的能力

ドラッカーは、貢献に焦点を合わせることによって、成果をあげるうえで必要な4つの基本的な能力を身につけることができると言います。

コミュニケーション

上司は部下に対し、まず上方へのコミュニケーションを求めることになります。

  • 組織および上司である私は、あなたに対し、どのような貢献の責任を期待すべきか
  • あなたに期待すべきことは何か
  • あなたの知識や能力を最もよく活用できる道は何か

そうすると、まず部下が、自分はどのような貢献を期待されるべきかを考えるようになります。上司には、部下の考える貢献について、それが有効であるかどうかを判断する権限と責任が生じます。

ほとんどの場合、部下が設定する目標は、上司が考えているものとは違います。部下は現実を上司と違うように見ているということです。部下が有能であるほど違いは大きいと言います。

その違いを知ることが重要であり、コミュニケーションの価値でもあります。成果に結びつく意味あるコミュニケーションが確立されることになります。

最近は、コンピュータの進化によって、情報が大幅に非人格化したため、互いに理解し合い、互いのニーズや目標、感じ方や仕事の仕方を知るために、ますますコミュニケーションを確保することが必要になっています。

チームワーク

自らの生み出すものが成果に結びつくには、誰かにそれを利用してもらう必要があります。横へのコミュニケーションです。

知識組織において成果をあげる仕事は、多種多様な知識や技能をもつ人たちで構成されるチームによって行われます。状況や仕事の内容に従って、自発的に協力して働くことが求められます。

知識労働者は、自分の専門分野に関してプロでなければならず、自分の能力や仕事に関して自分に責任があると考えなければなりません。

専門分野におけるプロでありながら、まったく異なる専門分野の人たちと、特定の任務のために組織されたチームの責任ある一員として行動することが求められます。

自己開発

貢献するためにどのような自己開発が必要かを自ら考えるようになります。

  • いかなる知識や技能を身につけるか
  • いかなる強みを仕事に適用するか
  • いかなる基準をもって自らの基準とするか

人は、自分で自分に課す要求に応じて成長します。自らが成果や業績とみなすものに従って成長します。自分に求めるものが少ない者は、成長することができません。

人材育成

知識組織において貢献に焦点を合わせようとすると、他の人との相互理解、相互貢献ということになりますから、自分の自己開発と同時に、他の人の自己開発を触発することにもなります。

属人的な基準ではなく、仕事のニーズに根差した基準を設定することになります。自分のやりたいことやできることではなく、可能性の要求になります。それは卓越性の要求です。

会議の成果

組織の中で多くの時間を費している会議についても、組織の成果に貢献しなければなりません。

参加者は、会議によって何を得るべきか、何を目的とすべきかを知らなければなりません。開催前、準備前に、目的を明らかにすることを主張しなければなりません。何かを意思決定するためか、情報提供のためか、何かを確認するためか、明かにさせなければなりません。

参加者の貢献に役立つものでなければ、参加する意味はありません。

開催前に確認した目的は、会議の開催中も終始維持されなければなりません。まず会議の冒頭に、会議の目的と果すべき貢献を明らかにし、そこから逸脱しないように進めます。

会議の司会者は、重要な役割を担います。討議に参加して発言することは控え、司会進行に専念します。両方を同時に行うことは困難です。

司会者は、特定の者のプレゼンテーションの場にしてはいけません。出席者の全員を刺激し、挑戦させるように仕向けなければなりません。

会議の終わりには、改めて冒頭の説明に戻り、結論を会議開催の意図と関連づけなければなりません。