時間管理の方法

あらゆる問題を解決するために必要な資源でありながら、もっとも希少かつ失いやすい資源は、時間です。

時間管理に関しては、常に効率化、すなわち作業のスピードアップが重視されます。そのためのITツールやアプリなどがもてはやされます。

しかし、「どうやるか」を工夫しても根本的な解決にはなりません。仕事は増え続け、追われ続けます。

大事なことは、目的から考えることです。時間は、目的を果たすために使うものだからです。

時間を賢く配分することを意味します。それは計画であり、行動する前に「何をやるか」を考えることです。その前提には「何をやめるか」が必要です。

繰り返し起こる問題については、原因の発見と処理の仕組み化を体系的かつ徹底的に考えます。

重要な仕事は、細切れの時間ではなく、あらかじめまとまった時間を確保したうえで行う必要があります。例えば、目標の設定、基準や方針の決定、部下の評価、人事に関する決定、人間関係づくりなどです。

時間管理の基本は、時間の記録、整理、大きくまとめることです。

時間は普遍の制約条件

経営のあらゆるプロセスにおいて、成果の限界を規定するものは、最も欠乏した資源である時間です。成果をあげている人を本当の意味で際立たせるのは、時間を大切にする姿勢です。

ほとんどの人は時間が足りないと常にこぼしながら、本当の意味で時間を大切にし、本気で管理しようとする姿勢が見られません。

自分は重要な仕事に時間を使っていると思い込み、決して無駄なことのために時間を使っていないと言い張ります。それなのに時間が足りないのだと断言します。

時間を記録してみてはどうかと提案しても、「そんなことをしても無駄である。自分の時間の使い方くらいちゃんと分かっている。」と答えます。

人の時間感覚は不正確

心理学ではよく知られているように、人には正確な時間感覚がありません。何時間も密閉された部屋にいると、人は時間感覚を失うことが実験で確かめられています。

ですから、どのように時間を使ったかを記憶に頼って知ることはできません。実際に記録を取ってみると、思っていた時間の使い方と想像以上に違っていることが分かります。単なる思い込みが、現実に都合のよい記憶をつくり上げています。

成果をあげる者は時間からスタートする

ドラッカーの経験によると、成果をあげる者は、計画や仕事からではなく、時間からスタートすると言います。

時間が何に取られているかを明らかにし、時間に対する非生産的な要素を退け、自由になる時間を大きくまとめます。まとまった時間がなければ、適切な計画を立てることも、成果をあげる仕事に集中することもできません。

次の3つが時間管理の基本であり、成果をあげるための前提です。

  1. 時間を記録する
  2. 時間を整理する
  3. 時間を大きくまとめる

まとまった時間の必要性

組織の中には、時間を無駄に使わせようとする圧力が常に働いています。成果をもたらさない仕事が時間の大半を奪っていきます。

体系的に時間を管理しようとしなければ、常に目の前の仕事が優先されます。重要性ではなく緊急性が支配します。無視できないというだけで優先されます。

組織が大きくなるほど内部の仕事は増え、実際に使える時間は少なくなります。

ですから、体系的な時間の管理、すなわち、自らの時間がどのように使われているかを正確に知り、自由にできるわずかな時間を目的意識をもって管理することが重要になります。

成果をあげる仕事

成果をあげる仕事は、かなりのまとまった時間を必要とします。

細切れ時間の利用が推奨されることもありますが、細切れの時間は細切れの仕事にしか利用できません。成果をあげるべき重要な仕事に細切れの時間を使っても、やり直しを生み、結果的にまとまった時間より多くの時間を必要とします。

人のために使う時間

人のために使う時間も、まとまったものが必要になります。

仕事の方向づけや計画、仕事の仕方について話し、肝心なことを理解させ、何かを変えたいのであれば、1時間はかかると言います。

それらのことがしっかり理解されていなければ、3分間ミーティングなどと言ってもうまく行きません。

ましてや、何らかの人間関係を築くには、はるかに多くの時間を必要とします。成果をあげているトップマネジメントは、日頃コミュニケーションの機会がない若手とじっくり時間をとって、次のようなことを聞いていると言います。

  • あなたの仕事について私は何を知らなければならないか
  • この組織について何か気になることはないか
  • われわれが手をつけていない機会はどこにあるか
  • 気づいていない危険はどこにあるか
  • 私に聴きたいことは何か

知識労働者との時間

中でも、知識労働者との時間は十分にとることが必要です。知識労働者の仕事は測定ができないからです。正しい仕事をしているか、どのくらいよく行っているかについて、簡単に意思疎通で把握することができないからです。

知識労働者に対しては、自ら方向づけをさせなければなりません。そのために、行うべきこと、その理由について、腰を据えて上司が一緒に考え、理解させなければなりません。自らが生み出すものを利用する人たちの仕事を理解させなければなりません。

知識労働者との間には、多くの情報、対話、指導が必要です。

人事の決定

人事についての決定こそ、時間をかけて行うことが必要です。最終的な決定の前に、何度も仮の決定を行うべきです。

GMのスローンは、中断されることのない数時間を使って決定し、数日あるいは数週間後に初めから考え直していたと言います。2度も3度も同じ名前が出てきたときだけ最終決定をしていたと言います。

外の世界に目を向けるための時間

組織において成果をあげるためには、組織全体の成果と業績に焦点を合わせなければなりません。成果が唯一存在するのは外の世界ですから、外の世界に目を向けるための時間が必要になります。

創造と変革の時間

市場の要求はますます高まっています。高い生活水準の追求、人口減少による市場の縮小、グローバル化などによる競争の激化が、創造と変革を要求します。

創造と変革にもまた膨大な時間が必要です。

働き方改革による生産性の向上が叫ばれています。労働時間短縮や休暇の増加によって魅力ある職場環境をつくることで、優れた人材を集め、モチベーションを高め、生産性の向上につなげようというものです。

この考え方には、いくつかの論理の飛躍があります。最大の問題は、働く時間を減らすことが生産性の向上につながるという因果関係の誤謬があることです。

ドラッカーは『経営者の条件』の中で、第二次世界大戦後のイギリス経済の不振は、楽をして働く時間を減らそうとしたことが原因であると述べています。

今や創造と変革の時代です。働く時間を減らして創造や変革を行うことはできません。むしろ膨大な時間が必要であるというのがドラッカーの見解です。

さらに、一般労働者の仕事を簡単にすれば、知識労働者の仕事が増えるとも言っています。

機械化によって人の労働が代替されたことは事実でしょうが、その代わり、機械を設定し、プログラミングし、動かし、維持するための新たな仕事が増えました。生産性は向上しましたが、仕事は楽になったというより高度化しました。

コンピュータの進化はどうでしょうか。コンピュータに取って代わられた仕事はあるでしょうが、情報は膨大に増え、その解釈に膨大な時間が必要になりました。新たな専門家も増えました。

過労死を生み出すような殺人的な働き方は論外ですが、働き方改革で単純に一般労働者の働く時間が短縮されれば、ほぼ間違いなく管理職の働く時間が増えることになります。管理職の働く時間も減らすなら、その会社は生き残れないか、新たな専門家や外注が増え、人件費はますます増大する可能性さえあります。

それでもあえて働く時間の削減が生産性の向上につながるとすれば、成果があがらなくなった仕事を廃棄し、価値の高い新たな仕事を生み出すための自己啓発に時間を振り向けるという考え方が必要です。そのような主張をしている人たちも確かにいます。

そうだとすれば、厳密には働く時間が減るということではなく、仕事の時間の中身が入れ替わったにすぎません。新たな知識やスキルを学ぶための時間に振り替えるのであれば、手慣れた仕事をしていたときよりも全体の時間は増大すると考えるのが自然でしょう。企業にも明確な目的意識と高度な戦略が必要になります。

時間の記録

時間を管理するためには、まず自分の時間の現状を知ることが必要です。自分がどのように時間を使っているのかを記録することです。

時間の記録は、これまでも肉体労働者に適用されてきました。その結果、能率を向上させ、コストを削減し、生産性を劇的に向上させてきました。

生産性=産出/投入

と定義されます。投入する資源(のコスト)をできる限り小さくし、産出する価値をできる限り大きくすることによって、生産性は向上します。

これまでの時間の記録は、生産性の分母を小さくすることによって生産性の向上に寄与してきました。分母を大きくしたのは、主にエンジニアリングやマーケティングに関わるイノベーションでした。

これからは、知識労働者にも時間の記録を適用することが必要です。知識労働者の場合、成果と業績に直接関わります。生産性の分子を大きくすることに関わります。単に仕事のスピードアップのためではなく、成果のあがらない仕事をやめて、成果のあがる仕事に集中するために行うものだからです。

時間の記録は、リアルタイムで行うことが必要です。記憶によって、後でまとめて記録しようとしても間違います。記憶は曖昧だからです。

記録は一度行えば済むものではありません。時間が経てば仕事の内容が変化し、必ず無駄な仕事に再び時間を取られるようになるからです。半年も経てば、再び仕事に流されて些事に時間を浪費させられているでしょう。

できれば毎月見ていくことが必要です。最低でも年2回ほど、3~4週間記録をとるべきです。記録を見て日々のスケジュールを調整し、組み替えていくことが必要です。

時間の使い方は、練習によって改善することができます。記録と改善を絶えず繰り返す努力が必要です。

時間の整理

次は、記録した時間の整理です。時間を浪費する非生産的な活動を見つけ、排除していきます。すべての仕事について、まったくしなかったならば何が起こるかを考え、何も起こらないなら直ちにやめます。

やめることができないなら、その中で、他の人でもやれることは何かを考えます。それが、通常使われる権限委譲の正しい意味です。自らが行うべき仕事を委譲するのではなく、自らが行うべき仕事に取り組む時間を確保するために他の人にできることを委譲することです。

ドラッカーによると、通常使われる「権限委譲」(上から下への委譲)の正しい意味は上記のとおりです。

しかし、本当のあるべき「権限委譲」として、ドラッカーは別の説明をしています。

それは、もともと権限というものは上層部にあるのではなく、現場にあるという考え方から来ています。ですから、現場の最前線でできないことが上層に委譲されるというのが、本当のあるべき「権限委譲」です。

自分がコントロールできる時間浪費の原因を排除することも必要です。自分が原因で、他の人の時間を浪費していることがあるからです。

それを知るには、端的に聞くことが一番です。「あなたの仕事に貢献せず、ただ時間を浪費させるようなことを私は何かしているか」と聞くことです。

ところで、時間を整理するというと、多くの人は、必要な仕事を整理してしまうのではないかと恐れます。

しかし、ドラッカーは、整理しすぎる危険はあまりないと言います。 なぜなら、誰もが自分の重要度を過大評価する傾向があるからです。自分にしかやれない 、自分が出席しなければいけないと思いがちだからです。

それが間違いであることは、自分が病気になったりするとすぐ分かります。「仕事のことは心配しないで、ゆっくり休んでください」、「あなたがいなくても、仕事はうまく回っていますから安心してください」などと必ず言われるものです。

整理しすぎればすぐ分かりますし、すぐに訂正することもできます。

システムに起因する時間浪費の原因

時間を浪費する原因には、システムに起因するものもありますので、その原因に応じた対処が必要です。

システムの欠陥や先見性の欠如

周期的に繰り返される混乱は、仕事のプロセスに欠陥がありますので、正しくルーティン化することが必要です。経験から学んだことを体系的かつ段階的なプロセスにまとめます。

混乱が起こるたびに突発的な事象として処理していては、いつも天才を必要とします。判断力のない未熟練の人でも処理できるようにするのがルーティン化です。

人員の過剰

相互作用に多くの時間が使われます。無駄な時間です。

組織の上層部が、時間の1割以上を人間関係、反目、摩擦、担当、協力に関わる問題にとられているなら、人員過剰です。互いに仕事を邪魔しています。

組織構造の欠陥

典型的には、会議の過剰として現われます。会議は組織の欠陥を補完するためのものだからです。会議は、そのフォローのために、公式・非公式の小会議をさらに生むことになります。

取締役会など会議自体が目的の場合を除き、時間の1/4以上を会議に費やしているなら、組織の単位や職務の組み立てに欠陥がありそうです。

一人または一つ組織単位に属すべき仕事が複数の人や組織単位に振り分けられていたり、責任が分散され、必要な人に必要な情報が与えられていない状態になっています。

会議は原則ではなく例外と考え、明確な目的をもって方向づけする必要があります。

情報に関わる機能障害

必要なときに、必要なところに、必要な情報が届いていない場合です。

不適切な情報が届いている場合もあります。情報の管理・提供を、経理部といった特定の部門の専門の仕事としてしまっており、自分たちがどのような情報を必要としているかを主体的に考え、伝えるということをしていないことが原因です。

時間を大きくまとめる

自由になる時間を大きくまとめます。

どうしても必要な会議や打ち合わせは、特定の曜日の特定の時間に集中させる方法があります。

週1日は家で仕事をする、あるいは、毎朝一定の時間は家で仕事をする、という方法があります。

夕食後の時間を仕事に使う方法はよく利用されていますが、ドラッカーはやめるべきであると指摘しています。昼間の時間管理を避ける口実をつくるようなものだからです。

二次的な仕事や優先度の低い仕事を後回しにすることによって時間をつくろうとする場合がありますが、それをやっては意味がありません。二次的な仕事や優先度の低い仕事は、後回しにするのではなく、やめるか人に任せることを徹底して検討することが先決です。

それによって本当に自由な時間がどれだけあるかを計算し、大きくまとめることに意味があります。そのうえで、生産的でない仕事がそれを侵食していないか目を光らせることが大切です。