「entrepreneur」(アントレプレナー)は、「起業家」と訳されたり、「企業家」と訳されたりします。要するに、イノベーションの役割を担う人です。
結局、「起業家」も「企業家」も同じ単語を指す日本語訳です。
ただ、現在では、「企業家」に統一されつつあるように思いますし、「企業家」の方が相応しいと思います。
「アントレプレナー」とは何か
一般的な意味では、事業を起こす人、 独創的なビジネスアイデアと技術で新しい市場を切り開く人のことを指します 。
日本語訳としては、「起業家」または「企業家」が使われます。
シュムペーターの影響が大きく、イノベーション(シュムペーターは「新結合」と呼びます。)として次のような役割を担う人を指す言葉として定着しています。
- 新しい財貨あるいは新しい品質の財貨の生産
- 新しい生産方式の導入
- 新しい販路(市場)の開拓
- 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
- 新しい組織の実現
ドラッカーによると、「アントレプレナー」という言葉をつくった人は、1800年前後に活躍したフランスの経済学者ジャン=バティスト・セイです。ドラッカーが紹介しているセイの定義は、次のとおりです(出展:『創造する経営者』)。
非生産的な過去のものに固定された資本を使って、今日とは違う未来をつくるというリスクにかける者
『イノベーションと企業家精神』では、セイの言葉を次のように紹介しています。
企業家は、経済的な資源を生産性が低いところから高いところへ、収益が小さなところから大きなところへ移す
ドラッカーは、セイを最初に再発見した経済学者がシュムペーターであると言っています(『イノベーションと企業家精神』)。
「起業家」と「企業家」の違い
どちらも、翻訳前の言葉は「entrepreneur」で同じだと考えられますが、日本語のニュアンスとしては異なってとらえられるように思います。
「起業家」というと、会社を起こしたり、新規事業を起こしたりするイメージがあります。「事業を起こす」というところに主眼が置かれます。
「企業家」というと、単なる企業経営者のイメージで捉える人も多いかもしれませんが、「事業を継続的に行う」、時には「事業を変化させて企業を存続させる」イメージになり、「継続」や「存続」に主眼が置かれます。
ドラッカーも、イノベーションの説明のところで「entrepreneur」を使っていることが多いですが、以前の日本語訳では、「起業家」が使われていました。古い版の『マネジメント』や『イノベーションと起業家精神』などです。
新しい版では「企業家」が使われています。
「企業家」が望ましい理由
「起業家」の使用は限定的
ドラッカーの日本語訳に限らず「企業家」を使っていることが多く、最近では「起業家」は限定的にしか使われなくなっているように思われます。
印象として受ける意味も限定的です。
「イノベーション」の意味は広い
アントレプレナーの役割である「イノベーション」の意味は広いため、「起業」という言葉では狭すぎると言えます。
シュムペーターの定義は上でも紹介しましたが、広い意味があります。業を起こすだけではなく、既存の事業においても継続的に行われるべき活動です。
ドラッカーの定義も意味が広いです。いたるところで様々な表現をしていますが、一例をあげると、次のものがあります。
起業家とは富を生む力を資源に与える人たち
(出展:『実践する経営者』収録 の『起業家の時代がやってきた』)
この日本語訳では、まだ「起業家」が使われていますが、セイの定義に近いと言えます。
「イノベーション」は企業の基本的機能
そもそも、企業におけるイノベーションは、起こすこと自体で終わるわけではありません。 イノベーションを起こした後、事業として具体化し、日常の業務に落とし込んで初めて成果をあげます。
「アントレプレナー」は、単なる発明家ではなく、成果につながるところまで責任をもつ人であるべきです。
企業が目的を果たし続けていくためには、企業を存続・発展させていくことが必要です。そのために、マネジメントはイノベーションを起こして、変化に対応し続け、さらには変化を起こし続けていくことが必要になります。
ドラッカーは、企業の基本的な機能として「マーケティング」と「イノベーション」をあげているとおり、「イノベーション」は、企業が存続し、目的を果たし続けるために日常的に行うべき機能です。
以上から考えると、「企業家」が相応しいのではないでしょうか。
企業のマネジメントは「企業家」でなければならないと言えます。