情報化組織

情報システムが進化し、中間管理職と称して、単なる情報の中継器に過ぎなかった種族は次々と姿を消しました。情報の中継器としての機能では、人は情報システムにはかないません。

一方で、知識労働者が働く人の主力になってきました。組織内外の情報を主体的に取捨選択して自らにインプットし、自らの持つ知識を適用して、新たなアウトプットを生み出す人たちです。

その仕事の大半は自らの頭の中で行われるため、従来の指揮命令や監督によっては管理できません。また、知識は専門家することによってより生産的になるため、自らの仕事に関する知識については、上司よりも誰よりも詳しい者でなければなりません。

知識労働者を生かすには、情報化組織をつくる必要があります。各人が情報の担い手となり、自らの目標、貢献、行動について自ら徹底的に考え、他のメンバーに知らせ、組織全体の目標に合致した成果につなげる責任を負わなければなりません。

情報化組織とは

情報化組織とは、情報が地軸となり、構造をつくる要素となる組織です。

あらゆる機関は、知識を中心とする組織になり、知識労働者という専門家集団を中心に構成されるようになります。

知識労働者は、軍のような指揮系統には馴染みません。同僚や顧客との意識的な情報の交換を中心に、自分たちの仕事の方向づけと、位置づけを行うようになります。

組織のフラット化

組織図として見れば、従来の組織構造と大きく異なるわけではありませんが、階層の数は圧倒的に少なくなります。フラットな階層構造です。

階層とは、従来、権限や意思決定、管理や監督のためのものと理解されてきましたが、情報技術が進展した結果、中間層の多くは情報の中継器にしかすぎなかったことが明らかになりました。

情報を集約したり、組み替えたり、取捨選択したりして、上層に、あるいは下層に中継するだけの存在でした。このような機能は、情報システムによって取って替えることができますし、情報システムの方が優れてさえいます。

単なる情報の中継器である階層をなくすことによって、従来の階層が半分以下になることも稀ではありません。

残った階層はフラットに近づく分、一人の管理者に属する部下の数は多くなります。結果的に仕事は大きく、責任は重くなります。いわゆる管理限界の法則(一人の上司が管理できる部下の数は6人程度とされた。)を単純に適用してはいられません。

一人ひとりの部下も、従来のような意識でいることはできません。上司から管理されて仕事をするようでは、組織は機能しません。

組織をフラット化することによって風通しがよくなるという言い方をしますが、自動的に風が通るようになるわけではありません。各人の責任によって風を通さなければなりません。

分析と判断の高度化

情報化組織が高度のデータ処理技術を必要不可欠とするわけではありません。

しかし、高度の情報技術のもとでは、膨大なデータを扱うようになるため、分析と判断にまで踏み込んで、本当に意味ある情報に取り組まなければならなくなります。

分析は単なる意見です。判断においては、いくつかの代替案の作成とウェイトづけを行い、いくつかの戦略的前提条件が起こり得る確率を考慮に入れたうえで、意思決定を行うことが求められます。

戦略の策定が不可欠となり、意思決定そのものが戦略とその前提の見直しを迫ることになります。

高度のデータ処理技術によって、先に述べたとおり、経営管理者とその階層を大幅に減らすことが可能になります。

ドラッカーは、「データ」に意味と目的を付加したものを「情報」と定義し、データを情報に転換するために「知識」が不可欠であるとします。

目的をもってデータを収集し統合する、そこに意味を見出す、このような処理をすることで「情報」を得ることができます。その処理の過程が知識の適用になります。

個々の知識労働者が有する知識は、専門的で限定的ですから、同じデータを扱っても、適用する専門知識の違いによって、収集・統合する目的と意味づけは異なってきます。だからこそ価値があります。情報化組織に多くの専門家が必要な理由は、そこにあります。

大量のデータに直接接する現場でこそ、多くの専門家が必要になります。

伝統的な機能別部門は、仕事そのものを行うというよりも、その機能に属する専門家の仕事の基準を設定し、専門家を訓練し、人事を行う役割になります。実際の仕事は、問題ごとに必要な専門家が招集されたチーム(タスクフォース)によって行われます。

オーケストラ・モデル

ドラッカーは、情報化組織をオーケストラに例えます。

オーケストラには、各楽器を演奏する専門家がいます。各人がその楽器の演奏においてプロフェッショナルでなければなりません。それぞれが異なる楽器を演奏しますから、間違った音を出したり、リズムを崩したりしては致命的です。

各演奏家は、互いに奏でる音色によって協力し合います。組織において音色に当たるものが情報です。

さらに、オーケストラには共通の楽譜があります。演奏すべき楽曲を楽譜によって知ります。組織では、楽譜は演奏中に書かれます。あらかじめ明確にされ、合意された目的や使命、それを具体化した戦略、目標や計画が、楽譜を知る手がかりになります。

オーケストラには指揮者がいます。全体の演奏の流れを調整しますが、演奏家の代わりに演奏することはありません。各楽器の演奏においては、通常、演奏家の方が優れていますから、指揮者は、各演奏家を信頼し、演奏を任せます。それぞれから最高の演奏を引き出し、調和させます。

知識組織において、知識は専門化することによって、より効果的で生産的になります。オーケストラにおいて、各演奏家は指揮者よりもその楽器の演奏が優れているのと同じように、知識労働者は、その専門知識において上司よりも詳しいことを前提としなければなりません。

したがって、知識労働においては、上司が指揮命令によって知識労働者をマネジメントすることはできません。知識組織にあるのは、上下関係ではなく「同僚」の関係であり、オーケストラの指揮者のようなリーダーが必要になります。

リーダーは組織に方向性を与え、メンバーをサポートして最高の「貢献」を引き出し、全体を最高のものにまとめますが、その「貢献」する責任は、その知識にもっとも詳しい知識労働者にあると考えなければなりません。各演奏家が担当楽器の演奏に責任を負うように、知識労働者は自分の仕事に責任を負わなければなりません。

その意味で、情報化組織は、責任の組織化、責任型組織でもあります。

情報化組織の条件

情報化組織では、情報交換を中心に仕事が進められ、それぞれ独自の専門知識の適用によって、特定の目的のもとに意味ある情報をつくり出し、伝達し、分析と判断を行う必要があります。

情報の中身に責任を負うのは、情報システム部門の仕事ではなく、知識労働者の仕事です。情報システム部門は、データを処理する道具を担当するだけです。自ら仕立てるべき情報やそれに必要な情報の内容は、各専門分野を担当する知識労働者しか分かりません。

知識労働者が、自らの専門知識を適用して、分析し、判断する情報責任が重要になります。

したがって、そこに働く一人ひとりの自己規律が不可欠です。互いの関係と意思の疎通に関して、一人ひとりの責任の自覚が必要です。

専門家の集団が自律的に行動し、仕事を統合するためには、組織に共通の目的が必要です。仕事のやり方については専門家の自律した仕事に委ね、共通の目的に向けて努力を集中してもらう必要があります。

つまり、情報化組織では、共通の目的に向けた各専門家への期待と、その期待に応えようとする各専門家の責任によって組織化されることになります。そのような期待と責任は、通常、目標という形で表現されます。

権限と責任

情報化組織においては、情報の中継器としての管理者は不要になるため、各人が主体的な情報の担い手にならなければなりません。それが自分の仕事に責任を負うことの前提になります。

上司が部下にコミュニケーションを図るのではなく、部下が上司に対するコミュニケーションの意思を主体的に示さなければなりません。

部下と上司の日常的なコミュニケーションの頻度や程度が、管理の限界に代わるものになります。ドラッカーは、これを「コミュニケーションの法則」と呼んだり、「マネジメント限界の法則」と呼んだりしています。

情報化組織では、上司とのコミュニケーションだけで済むわけではありません。情報中継器がないので、上、下、横のすべてのコミュニケーションに責任を持たなければなりません。

すべての者が「いつ、どこで、いかなる情報を必要としているか」を明らかにする責任があります。

それは同時に、すべての者が「誰に、いつ、どこで、いかなる情報を提供しなければならないか」を知らなければならないことも意味します。

自ら手にし、提供できる情報が、権限と責任の範囲を決めるものになります。

厳しい自己規律による責任の組織化

情報化組織では、組織全体として、相互理解と相互信頼、価値観の共有が不可欠です。

それらを前提としたうえで、自らにいなかる貢献と業績が期待され、それに応じてどのような目標を持つべきかを自ら明らかにし、互いに知らせ、その実行の結果に責任をもつということです。

各自が実行の結果に責任をもつためには、結果を体系的にフィードバックし、目標(期待)と比較評価できる仕組みがあらかじめ組み込まれていることも必要です。これによって、自らの自律的に仕事を調整・改善でき、情報に関して責任をもつことができます。

目標と自己規律によるマネジメント、すなわち自己目標管理によるマネジメントです。自己目標管理について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

組織内の個人と部門が、自らの目標、優先順位、他との関係、コミュニケーションに責任を持たない限り機能することはありません。自由で気ままな組織ではなく、厳しい自己規律が求められる組織です。

だからこそ、フラットな組織に特有の迅速な意思決定と対応を可能にし、多様性と柔軟性を持つことができます。

情報化組織においては、誰もがマネジメントでなければなりません。誰もが責任ある意思決定者であり、「経営幹部」です。

人は責任を要求されることによって、事実、責任ある人として考え、行動するようになることを知らなければなりません。

情報化組織の課題

情報化組織では、次のようなマネジメント上の重要な課題が発生します。

  • 専門家である知識労働者に対する有形無形の報奨システムをつくること、および専門家としての経歴上の機会をつくること
  • 組織の中に共通のビジョンをつくること
  • タスクフォースのための経営管理システムをつくること
  • トップの座につくべき人たちを養成し、準備させ、かつ彼らをテストすること

専門家にとっての昇進の道は元々限定されていました。中間管理賞のポストは減少していきますから、経営管理者への転身による昇進も例外的なものになっていきます。

すでに述べたことにも関わりますが、専門家に対し、共通のビジョン、全体像をもたせることも重要です。情報化組織が機能するためには、組織の中の大勢の専門家、特に地位の高い専門家のすべてが、組織の全体像を把握し、焦点をあてていることが必要不可欠だからです。

同時に、専門家としての誇りと意識を評価し、さらには強化することがおろそかにならない配慮も必要です。

専門家に全体像を与える一つの方法が、タスクフォースにおける共同作業の編成です。

しかし、タスクフォースを多用すると、組織全体の経営管理構造の問題が出てきます。組織全体の経営管理者とタスクフォースのリーダーとの関係、タスクフォースのリーダーの位置づけ(役割のみか、永続的なポストか)などです。一律な答えはありません。

以上のような情報化組織の課題は、トップマネジメントの予備軍として準備し、テストされる人材が少なくなることも意味します。

人材を育成・確保する一つの方法は、ドイツのように、分権化した部門を独立した企業として扱い、それぞれにトップを配して自治権を与えることです。

ほぼ完全に独立した子会社のトップの地位がなければ、グループ全体のトップとなり得る将来性のある専門家の人たちを訓練し、テストすることは、ほとんど不可能です。この場合の子会社は、野球のファームに相当します。

小さな企業からトップを引き抜いて大企業のトップに据えるという方法もあり得ます。このような方法は、トップの役割を、業種等に左右されない独立した機能として認めることを意味します。

現在、業種を横断して、トップを渡り歩くような人たちも出現しつつあります。