戦略アイデアの創造 − 「戦略イノベーション」とは何か?⑥

この記事では、コンスタンチノス・マルキデス(Constantinos C. Markides)の著書『戦略の原理(All the right moves)』の内容を紹介します。

戦略を立案するには、ターゲット顧客、製品・サービス、その提供戦術を決める必要があります。

これらの諸点を検討するに当たっては、候補の選定、評価、絞り込みを行います。その目的は、競合他社に差をつけるアイデアを見つけ出すことです。

アイデアは、創造的であればあるほど望ましいですが、創造的であるほど新しいものであり、それが直感的に優れていると思えたとしても、当然、うまくいくとは限りません。

秀逸な戦略が、計画のみによって生まれることはありません。計画と試行錯誤の積み重ねが必要です。市場の反応を見ながら、トライ・アンド・エラーを繰り返す必要があります。

なお、激変する環境下では計画など意味がない、という意見があります。計画を立てている間に状況が一変し、できあがった計画はもう役に立たないというわけです。できることといえば、組織環境を工夫して、日々の業務の一環として光るアイデアや戦略を提案するように、全従業員を動機づけることだといいます。

しかし、試行錯誤のみから生み出される戦略は、舵も進路もないままに船を漕ぎ出すようなものです。それは進んでいるというより漂流していると言うべきです。

進むべき方向性は、試行錯誤を始める前に決めておく必要があります。それは経営トップの権限です。意見やアイデアは従業員から広く求めますが、その中から最終的な決断を下すのは、経営トップの仕事です。従業員の総意に頼ることはできません。

戦略立案の落とし穴を避ける

戦略立案に携わる人は、手段であるはずのツールやフレームワークを戦略と取り違えていることが少なくありません。戦略には、分析や論理だけでなく、直観や創造性、試行錯誤も必要です。

一つの視点からの論理や分析にこだわるよりも、試行錯誤によって新たな視点を得ること、新たな視点から全く違う問いかけをすることで、これまでとは全く違う論理や分析を行うことが重要です。

経営者は、通常、日々の戦術のことで頭が一杯なので、戦術に手をつけることばかりを考えがちです。しかし、戦略イノベーションは、戦術ではなく、ターゲット顧客や製品・サービスの刷新によって生み出されることがほとんどですから、その部分に新たな視点を持ち込もうとしなければなりません。

なお、論理や分析には限度がありますが、つい次から次へと情報を集めては分析を繰り返すことになりがちです。決断を下すよりも分析をするほうが楽だからです。決断は同時に捨てることでもありますから、勇気が必要です。

ときに、フレキシビリティが必要であることを理由に、戦略を定めることを躊躇する経営者がいます。戦略には方向性を絞り込むことが必要だからです。

しかし、フレキシビリティを理由に決断を避けるのは本末転倒です。フレキシビリティとは、競争環境の変化に備え、機敏に適応していくことです。決断をしないことではなく、素早く決断し、軌道修正していくことです。

戦略は、一度決めたらそのままでよいわけではありません。競争環境は常に変化していますから、一度決めた戦略を定期的に検証し、見直していくことが不可欠です。

アイデアの創造

アイデアを創造するには、アイデアを幅広く募集する方法と、フォーマルにプランニングする方法があります。

アイデアの募集

アイデアは幅広く募集するべきです。しかるべき組織環境(組織文化、組織構造、インセンティブ、人材)が整っていれば、戦略アイデアはいつでもどこでも誰でも生み出せるものです。

問題は、そのアイデアをどのようにして意思決定者に橋渡しするかです。これを実現するためには、次のようなプロセスが必要になります。

  1. アイデアをスピーディに発掘する
  2. その情報をすぐに意思決定者に伝える
  3. アイデアの評価をガラス張りにする
  4. アイデアを検証する

アイデアを奨励するとしても、既存の事業ユニットにとらわれるのが常です。しかし、真のイノベーションは、既存の事業ユニットに当てはまらない未開拓の市場機会の中にあるものです。そこにいかに注意が向くようにできるかが重要です。

経営トップは、その点を重視するようにし、通常あまり顧みないテーマにこそ高い優先順位を与えなければなりません。

例えば、高い階層のレベルで独自のベンチャーユニットを立ち上げ、アイデアを募ります。ユニットの役割はアドバイスを提供することです。提案者と一緒になって知恵を絞り、考えを整理するように奨励したり、経営トップへの提案準備を手助けしたりします。

このようにして第一段階の評価プロセスを突破したアイデアは、それを煮詰めるための時間と経営資源が与えられ、実験段階を経る必要があります。

有望そうなアイデアは、プロジェクトに格上げされ、更なる経営資源が与えられるようにします。ベンチャーユニットは、経営トップへの根回しにも力を貸します。

フォーマルな戦略プランニング

フォーマルなプランニングとは、アイデアを創造するプロセスに一定の型を適用するものです。

まず、既存のターゲット顧客、製品・サービス、戦術、事業領域などを問い直すことです。自由で積極的な発想によって、既存の答えの一つひとつを疑問視してみます。

プランニング・セッションとして、あえて形式的に発想の起点を変えてみます。通常は顧客を起点にすることが多いですが、その起点を、例えば自社のコア・コンピタンスに置いてみて、それに相応しい顧客ニーズとは何かを考えてみます。

発想の順番を変えるだけで、常識の罠から逃れることができます。発想法に優劣はありませんから、あえて社内の慣例を破る方法を数多く試みることで、イノベーションを達成できる可能性が高まります。

  • 現在の懸案事項を思い浮かべ、それを解決するためのアクションを考える。
  • 自社のコア・コンピタンスを考え、それを活かせる新製品や新市場を考える。将来的に、どのようなコンピタンスを育成すべきかを考える。
  • 業界でどのような変化が起きているかを洗い出し、それにどう対応すべきかを考える。新しい顧客セグメントが生まれていないか、そこに生まれている新たな顧客ニーズは何かを考える。
  • どのような尺度を用いれば、顧客と自社の相性を判断できるかを考える。その基準にしたがって、ターゲット顧客を選定し、製品・サービスの提供戦略を決める。
  • 自社の事業領域を突き詰めて考える。現行とは別の切り口で定義できないかを考える。事業領域の定義を変えた場合、事業全体にどのような影響があるかを考える。
  • 業界の主要成功要因(KSF)をあげてみる。それは変容していないか、変容しているとすれば、それにどう対処すべきかを考える。
  • 自社の提供する真の付加価値とは何かを考える。顧客が製品・サービスにお金を出してくれる理由は何かを考える。業界動向を考慮して、将来は何を持ち味にすべきかを考える。
  • 一番手強い競合他社について考える。その戦略は何か、それに負けないためにどのような打ち手が必要かを考える。

評価、試行実施、学習、そして軌道修正

一度新しいアイデアが生み出されたら、公正かつ厳正に評価を行い、見込みがあると判断した場合には試行実施してみます。実施結果は客観的に評価し、それをもとにアイデアを更に練ります。

アイデアの創造と評価は、明確に峻別しなければなりません。そうしないと、何か提案してもすぐに批判されがちになり、アイデアを出す意欲を削いでしまいます。成功するアイデアはごく僅かだからこそ、数多くのアイデアが必要です。

もちろん、数多く出てくるアイデアをすべて実行することは不可能です。しかし、発案者に不採用の理由を納得させるのは、絶対に必要なことです。

そのために、明確な評価基準を定め、それを予め公開しておきます。また、評価と選考をガラス張りにし、公平であることを示さなければなりません。

評価基準としては、次のようなものが考えられます。

  • 会社のビジョン実現に寄与すること
  • 業界の現状にフィットすること
  • 純利益に大きく貢献すること
  • コア・コンピタンスを活かせること
  • 従業員から十分な支持を得られること
  • 実現に必要な経営資源とケイパビリティがあること

アイデアの評価も100%正しく行うことは不可能ですから、試行実施が必要になります。

前提として、イノベーションやアイデアの創出、試行錯誤などを奨励するような組織環境が整っていなければなりません。そのうえで、経験から学び、その内容を組織に浸透させなければなりません。

市場に対する実験的アプローチは、「発見主導型プランニング」、「探索型マーケティング」、「サーチ・アンド・プローブ」などと呼ばれます。

まず、アイデアの初期プロトタイプを製作します。次に、想定される複数の市場セグメントで反応を見て、潜在顧客のニーズ、改善すべき点、望ましいアプローチの方法などを学習します。それをもとにアイデアの完成度を高め、顧客セグメントを絞り込み、効果的なマーケティングを開発します。

一般的に、新技術や新製品を受け入れるのは、従来とは全く異なる顧客層です。ですから、既存顧客のニーズに気を取られ過ぎると、既存製品の細かな改良にばかり目が行き、新技術や新製品をないがしろにしがちです。

このような失敗を避けるために、独立組織を設けて新アイデアを担当させることが少なくありません。新アイデアが成長し、独り立ちするには時間がかかりますから、既存事業との安易な比較にさらされ、横槍を入れられることのないようにすることが必要です。