科学的管理法の適用事例 − 科学的管理法③

テイラーは、著書である『科学的管理法の原理(Principles of Scientific Management)』において、いくつかの作業に対して科学的管理法を適用した場合の劇的な成果について説明しています。

ズク運び

ズク(銑)とは鉄の一種で、「銑鉄」とも呼ばれます。鉄は大きく2つに分類され、炭素約2.0%以上のものを銑,それ以下のものを鋼といいます。鉄鉱石を鋼まで精錬する際、まず前段階として銑がつくられます。

作業場にあるズクの山から両手(素手)で一定量を持ち上げ、歩いて運んで貨車の中に落とすという単純な作業です。このような単純作業でも、科学的管理法の適用によって、労働時間を減らした上で、一日の作業量を劇的に増やしました。

適用前は、一日一人で12.5tを積み込んでいましたが、適用後は47.5tまで増やしました。

科学的管理法において重要な第一段階は、労働者の選定です。適正な人を科学的に選ぶということです。科学的管理法では、労働者を一人ずつ別々に取り扱うことを原則とします。なぜなら、労働者にはそれぞれ特別の能力があり、限度があり、各人を成長させて最高度の能率と繁栄をもたらすのが目的だからです。

元々いた75人の労働者を観察し、研究して、一日の作業量に対応できる体力をもつ者を4人選びました。次に、この4人について、過去の経歴、性格、習慣、野心について調べ、最終的に一人に絞り込みました。その労働者に対し、これまでより高い賃金を支払う代わりに、管理者の指示に従って作業することを説明し、受け入れてもらいました。

その結果、初日から3年間、同じ速さで仕事を続け、一日も欠かさず、課業の47.5tを達成し続けました。賃金は、相場より60%増えました。さらに、次々に労働者を選んでは練習させ、同じレベルで作業をさせることに成功しました。

ここで適用した科学は、いわゆる「重労働の法則」とでも言うべきものです。重量物を持ち運ぶ場合、一日の一定時間しか物を持っていることができず、それ以外の時間はまったく空手でなければならないとされます。歩く距離や速さは関係なく、立っているだけでも同じです。重量物を持っている間、腕の筋肉組織が変性しつつあるため、度々休ませ、血液を循環させて組織を回復させる必要があるのです。

作業と休憩を繰り返して筋肉を回復させながら断続的に作業させることで、実作業時間は短く、疲れも少なく、作業量を多くすることができたのです。

テイラーは、人選の重要性を強調しています。このような単純作業を毎日繰り返すことには、誰でも向いているとは言えないからです。際立った体力もさることながら、心性もまた重要です。適任者は8人に1人であったといいます。

このような人選を労働者自身に任せても、まずうまくいきません。仲間を選別することが難しいからです。むしろ、怠業して一人分の仕事を8人で分担することを望むでしょう。そのため、テイラーは、管理者主導で人選し、教育し、訓練して、習慣をつくり上げることが重要であると指摘します。

実際、テイラーが改善を行った際、ズク運びに不適任であった多数の者が作業から外されましたが、代わりに相応しい別の仕事が与えられました。結果的に、本人にとっても会社にとっても良い結果になったのです。

ショベル作業

ショベル作業については、実験の結果、ショベル一杯の重さが一定の重量のときに、一日分の仕事がもっとも多いことが分かっています。一杯の重さをどの程度にすれば、一日の仕事量がもっとも多くなるのかも実験で確かめることができます。

物によって形状が違い、同じ体積でも重量の差があるので、すくう物に応じて異なるショベルを使用することによって、ショベル一杯の重量が一定になるようにしなければなりません。

積み上げてある材料の中にショベルを押し込むときの速さ、位置、すくったショベルを手元に引き寄せて一定の高さから一定の水平距離だけ材料を投げるときの時間など、さまざまな研究がなされ、最適化されました。

テイラーが働いていた会社の構内には、約600人の労働者がいたといいます。各人には書類棚が割り当てられ、毎朝2枚の紙をそこから受け取りました。その日の仕事の指示書と、前日の仕事の実績書(作業高と儲け高)です。前日の課業に達しなかった人には黄色の実績書、達した人には白色の実績書でした。黄色の実績書は、課業に達しないことが続けば現職にとどまることができず、他の仕事に移されることを覚悟しなければならないことを知らせるものでした。

同社では、工務室を設け、事務員を配置しました。各労働者を個人として扱うためです。各労働者の仕事は、あらかじめ工務室で計画し、眼前に掲げた構内見取図にしたがって、労働者の過不足が生じないよう適時に移動させました。

課業に達しなかった労働者に対しては、有能な教師を送り、仕事の仕方を示して指導し、援助し、奨励しつつ、その人の今後の見込みも研究しました。それでも駄目なら、精神的にも肉体的にも一層適している他の仕事に移しました。

このような組織には、次のような人が必要になります。

  • 時間研究によって労働科学の発展に従事する人
  • 教師として労働者の仕事を援助し、指導する熟練労働者
  • 労働者に適当な工具を供給し、これを完全な状態で保管する工具室の人々
  • 前もって十分に仕事を計画し、なるべく時間を損失することなく、労働者を甲から乙へ移動し、かつ各労働者の賃金を適切に記録する人

このような人たちを配置すると、その分の人件費が増えます。しかし、テイラーが実際に行った結果によると、構内労働者(400〜600人)が140人に減少したにもかかわらず、一日の平均処理トン数は3倍以上になり、一人当たりの平均賃金は約60%増になりました。また、1t当たりの平均作業費用は、実労働者以外の事務員などを含めても、半分以下に減少しました。

テイラーが注目するのは、このような会社内での改善だけでなく、労働者たちに与えた生活状態の変化でした。酒を飲まなくなった者や貯金をする者が増えたといいます。

上司や教師に対しては、親しい友達のように付き合うようになりました。自分たちを教え導いて、今までよりも賃金を増やそうとしてくれる親切な友人であると考えるようになりました。ストライキは起きようがありませんでした。

労働者を個人として扱うことは非常に重要でした。団体の中に入れられてしまうと、野心と努力する心とを失ってしまいました。一団となって働くと、その集団のなかで最も低い標準のところ、またはそれ以下のところまで、個人の能率が下がっていくのです。

レンガ積み

レンガ積み作業に科学的管理法を適用したのは、フランク・B・ギルブレスでした。彼は、自身の方法を「動作研究」と名付けました。職人がレンガ積みで行う各動作に注目し、不要な動作は省き、遅い動作は早い動作と置き換えました。速さと疲労に少しでも影響を及ぼす要素は、どんな細かいものでも実験してみたといいます。

レンガとモルタルと職人と壁との相対的位置関係を細かく実験し、分析し、改良していきました。また、レンガを無造作に準備しておくのではなく、補助者が整頓して準備するようにしました。つまり、壁に積む際に外側に向ける面(きれいな面)を、上に向けた状態で台に置かせるようにしたのです。職人が外側に向ける面を毎回調べて積んでいく必要がなくなった結果、作業時間が大幅に削減されました。

また、メジ(レンガとレンガの間の隙間のことで、モルタルで埋められる部分)の厚さが一定になるように、モルタルの配合も調整しました。これによって、積む際に職人がいちいち調整しなくてもよいようにしました。

さまざまな研究をした結果、レンガ一個を積むのに必要な動作を18から5に減らし、時には一個につき2動作に減らすことさえできました。

ギルブレスが行ったことを要約すると、次の三点にまとめられます。

  1. 職人の作業を細かい動作に分解し、研究することで、不要な動作が明らかになり、それらをすべてやめてしまったこと
  2. 上げ下げ自在の足場やレンガ載せ台などの装置を工夫し、補助者をつけたこと
  3. 両手を使う動作では、片手ずつ順番に使うのではなく、道具等やその位置を工夫することによって両手を同時に使えるようにし、教育したこと

この研究の成果は実地に応用され、一時間に積むことができるレンガの数が3倍近くになったといいます。職人たちには、職長が新しい方法を教育し、教えても成績が上がらない職人は交代させ、成績を上げられた職人には思い切って賃金を上げました。同時に、各人の積み得たレンガの数を測定記録し、作業中に知らせるようにして、動機づけました。

レンガ積み作業の特徴は、一人だけ速度を上げることができないことです。幾人かが一列をなして同じスピードで仕事をし、同じ速さで壁が立ち上がっていくようにしなければなりませんでした。職長は、全員に作業標準を遵守させ、成績の悪い者には常に注意と援助を与えて、他の者と同じスピードまで引き上げるようにしました。援助してもできない職人は、別の者に交代させる必要がありました。

ここでも、個人を別々に研究し、取り扱い、支援することが重要でした。もちろん、このような働き方を要求する以上、特別の報酬を支払う必要がありました。

自転車用球の検査作業

自転車用球とは、自転車のベアリングに用いる鋼球のことです。これを磨いた後、傷、凹み、割れなどがないかどうかを検査する作業に科学的管理法を適用しました。

検査を行うのは女性労働者でした。細かい作業のため、注意と集中とを必要とする緊張度の高い仕事でしたが、一日10時間半も検査していました。

調べてすぐ分かったことは、実際に10時間半かかるのではなく、あまりに時間が長すぎるために、怠けて手を休めている時間がかなり多いということでした。そこで、科学的研究をする前に、まず労働時間を短くすることにしました。日給はそのままに、10時間、9時間半、9時間、8時間半と徐々に減らしていったところ、逆に出来高が増えてきました。

時間を減らした後も、検査員の状態を調べると、仕事を始めてから一時間半も経つとイライラし始めることが分かりました。明らかに休みを欲していましたので、疲れないうちに休みを取らせるため、1時間15分ごとに10分間の休みを与え、席を離れて気分転換できるようにしました。

仕事中に私語が多過ぎることも作業効率を悪くしていましたので、席を離して配置しました。

作業自体の科学的研究を行ったところ、非常に細かい作業のため、まず、検査員の選別が重要であると判断されました。知覚能力と反応力を表す「個人係数」に着目し、個人係数が高い(知覚と反応の能力が低い)人を外すことにしました。

作業方法については、ストップウォッチと記入用紙とを用いて精密な時間研究を行い、仕事を速く良くさせるための条件を明らかにしました。また、課業の負荷が高すぎて過度の疲労または疲弊に陥ることがないようにしました。

出来高に応じて賃金を決めることにしましたが、出来高を増やそうとして品質が落ちる危険がありました。そこで、もっとも信用できる検査員を4名選び、前日の検査分から一部を再検査させることにしました。さらに、4名が再検査した中から一部を抜いて、検査主任が更に再検査しました。加えて、検査対象の中に不良球を定期的に混ぜることによって、手を抜いたり誤魔化したりできないようにしました。

出来高給の適用においては、できあがった仕事の量や質について個々の検査員の記録を精密にとることによって、公平に評価するようにしました。毎日の課業を精密に計算して与え、一人前の検査員に対しては一日分の仕事をなすべきことを要求し、実行した者に十分な割増またはボーナスを与えました。量が多く品質も良い仕事をした検査員には給料を高くし、そうでない者には低くしました。仕事が遅い上に見落としも多く、上達の見込みがない者は、解雇されました。

ただし、作業中は検査員に任せきりにするのではなく、出来高を一時間に一回程度測定し、標準より遅れている者には教師をつけて原因を調べ、悪い点を正し、励まし助けて、標準に追いつかせるようにしました。

報酬によって人に刺激を与え、最善の仕事をさせるためには、その仕事を終えたすぐ後で報酬を与えることが必要です。作業が単純であればあるほど、日常的な報酬が重要になるといいます。毎日各自の仕事高が分かるようにし、一日の終りに賃金の受取高が分かるようにします。「6ヶ月後のボーナスが上がるだろう」といった時間を置いた報酬は、目先の単純作業に対する努力を鼓舞することは困難です。

報酬は賃金ばかりではありません。上司による親しい奨励の言葉なども重要です。

テイラーは、このような単純作業に対して、長期的な報酬と同様、利益配分によって動機づける方法を否定しました。利益の分配に反対する労働者はいませんが、損失の分配(賃金の減少)には抵抗します。事業の損益は、労働者が課業を達成するかどうかとは関わりない経営上の意思決定によって生じるので、労働者に利益配分による報酬を支払うということは正しくないと指摘しました。

以上のような取組の結果、取組前の仕事量をこなすのに、検査員の数は1/4近くまで減少し、作業の精密度は60%ほど高くなったといいます。賃金は平均して80%から100%高くなりました。労働時間は、先に述べたとおり2時間短縮し、休憩時間も増えました。

検査員は、管理者から個人として扱われるようになり、日頃から注意もされますが世話もやかれ、困ったときに管理者に頼れば、助け導いてくれると思うようになりました。このような友好的関係によって、労働争議やストライキは起こりようがなくなりました。

全体として、賃金の増加だけでなく、事務員や教師の配置、時間研究、再検査などに要する費用の増加にもかかわらず、総費用は大幅に減少しました。

金属を削る作業

金属を削る作業は、機械を使用する作業になりますから、適用すべき科学的法則は複雑になります。機械自体の最適化が必要になるため、より高度で専門的な科学者や技術者による研究が不可欠です。併せて、機械作業に付随する手作業に対しても、これまでの事例と同様、科学の適用が可能です。

テイラーが、ある工場で特定部品を加工する旋盤作業に科学的管理法を適用した際は、まず通常の仕事ぶりの調査として、加工時間、機械のスピードと送り、品物を機械に取り付けたり取り外したりする時間の記録を取りました。その後、適正なスピード、各スピードにおける引く力と送りの力を決定し、そのスピードが出るように、カウンターシャフトや滑車を取り替えたりもしました。専用の工具もつくりました。機械工が、加工品をもっとも速く仕上げるためのスピードと送りを計算できるよう、特別な計算尺もつくりました。以上の取組の結果、少なくとも2倍半、多くて9倍の加工速度を達成できたといいます。

この工場では、科学的管理法が全体に適用され、一労働者一機械当たりの出来高を2倍以上することができたといいます。賃金は平均35%増加したにもかかわらず、賃金総額は少なくなりました。

それでも、テイラーによると、科学的管理法を適用するためには、そのように純粋な科学的研究よりも、仕事や雇い主に対する労働者の精神的態度を変えることの方が重要でした。態度や習慣を変えることのほうがずっと時間がかかるからです。管理者との協働を繰り返しながら、互いに大きな利益が得られることを、長い実地の教訓によって実証することが必要になります。

機械加工のように高度な科学的手法が求められる場合であっても、もっとも重要なことは、手法よりも根本の主義を入れ替えることであるとテイラーは言います。

  1. 労働者の個人的判断に任せず、科学を採用すること
  2. 労働者が自ら仕事を選択したり、行き当りばったりに訓練したりすることをやめ、まず各労働者を研究し、教育し、実験したうえで、労働者を科学的に人選して成長させること
  3. 管理者が労働者と親しく協調し、各問題の解決を個々の労働者に任せず、研究によって得た科学的法則に従って、共に仕事をすること
  4. 各課業を日々完了するに当たり、管理者と労働者とは共同の責任をもち、それぞれに適した仕事を受けもつこと