チームワークの重要性 − 「スキャンロン・プラン」とは何か?⑤

スキャンロン・プラン成功の根本要件は、チームワークを促進するために、参加とパートナーシップの原則を適切に実践し、発展させることです。

これによって、労働者に、最高の生産性を発揮させるための刺激を与え続けることが必要です。いかなる仕組みも、常にマンネリ化の恐れがあるからです。

労働者は、産業や会社やプランに影響する諸問題や向かうべき方向について知り、理解したがっています。そして、自分の知識や経験を問題の解決に役立てたいと願っています。

経営側が、プランによってもたらされる新しい関係から、経営の利益になるものを得たいと思うならば、労働組合と協力して十分な参加体制を築き上げるのに時間と努力を費やす覚悟が必要です。

労働者の参加を通して、粘り強くチームワークを促進することによって、「私」のことしか考えていなかった一人ひとりが、「われわれ」のことの考えるようになります。

チームワークを妨げる要素

甚だしくチームワークを妨げている要素の一つに、個人向けのインセンティブ制度があります。出来高給(成果給)あるいは能率給と呼ばれる制度です。

これは労働者個人の利己心に訴えて、生産性の増大を図ろうとするアプローチです。

本来、会社が組織化される理由は、バラバラの個人では達成できない目的を、協働で仕事を進めることによって達成することです。

ところが、個人向けのインセンティブ制度は、労働者一人ひとりの視野をを自分の仕事だけ狭め、個人を一自由企業家であるかのように仕向けてしまいがちです。

スキャンロンの助力者として働いたフレデリック・G・レジュアは、自身がかつてラプェント社の工場で能率給労働者として働いていたときのことを次のように回顧します。

能率給が適用される直接労働者のほとんどは、間接労働者は会社にとって無用の存在であると考えていました。

技術者は、新製品を開発し、デザインを行うとき、工場労働者がどのような工具もしくは設備を使って働いているのかということを一切考慮してくれないと感じていました(逆に技術者のほうは、能率給労働者が自分たちより多くの収入を得ていることに対し、不愉快に感じていました)。

事務所で働く労働者のうち、女性は編み物をし、男性は煙草を吸って時間を潰しており、ほとんど生産に貢献していないと考えていました。

スキャンロン・プランのもとで働くようになると、技術部門や事務所の労働者およびその他のサービス担当の労働者が、生産に対して貢献できる存在であることを認識できるようになりました。

生産性を向上させるために、労働者一人ひとりに企業家精神を持たせることが重要であると言われることがあります。

しかし、企業家精神とは、労働者一人ひとりが自由企業家のように個人的な振る舞いをすることではありません。

企業家はあくまで組織人であり、命令によってではなく、主体的な参画によって組織の成果に貢献することを意味します。求められるのはあくまでチームワークです。

ですから、組織にインセンティブを持ち込むのであれば、労使の協働を促進するような共通の目的、すなわち製品を、より良質で、より安価に、より多く供給することに向けられるべきです。

個人向けのインセンティブ制度を廃止し、代わりにスキャンロン・プランを導入した会社では、チームワークが促進されることが分かっています。

参加によって他の人たちの仕事や考えを理解するようになり、各人が、自分の後で誰がその仕事をするか、その人がどうしたらもっと容易にやれるようになるかということについて、よく考えるようになります。

個人向けインセンティブ制度のもとでは、自分のノウハウを他人に教えようとしなかった熟練労働者が、新入りの労働者に仕事のやり方を教えてやるようになります。

若年労働者も率先して年上の労働者の仕事を手伝うようになります。

どんな会社でも、いろいろな部門や仕事がお互いにどのような重要な関係を持っているのかをはっきりさせ、各担当者が進んで協力できるような姿勢を持つことができれば、大きな成果につながります。これが真のチームワークです。

経営者および管理者の役割

スキャンロン・プランのもとでは、経営者や管理者が権限を失うと思われがちですが、決してそのようなことはありません。

もっとも、経営者は勝手に事が処理でき、部下に命令の実行を強制できるという意味での権限は、もはや価値を持ちません。協働関係のもとでは、この種の命令権がほとんど必要なくなるということは言えます。

かといって、スキャンロン・プランがリーダーシップの代替物になるわけではありません。よきリーダーシップを基にしなければ成功しません。

生産性向上に成功している会社の経験では、プランの導入によってコミュニケーションが改善し、相互理解が進み、決定事項の実行を促進するなど、リーダーシップの仕事をより容易にするといいます。

スキャンロン・プランのもとで話し合われていることは、人々に、彼らが考えている、自分の仕事を最も上手にやる方法を、一人の大人として発表できる機会を与えてやるにはどうすればよいか、ということに尽きています。

職長などの現場管理者は、部下と一緒になって話し合い、彼らを指導し、援助してやることが必要になります。本当に必要なことに専念できるようになるのです。

経営者は、以前よりも更によい仕事をしなければならくなると覚悟すベきです。

労働者の参加によって、経営情報が共有され、労働者の問題意識が高まるため、いろいろな違う意見が盛んに出てくるようになります。

この場合の「違う意見」とは、仕事のやり方、コストの切り下げ、利潤の増大などに関し、どれが最上の方法か、という点での違いです。

経営者は、それらの意見をさばいていく責任があり、そのための権限を行使する必要があります。最終的に提案を実施するかどうかを決定するのは、経営の権限であり責任です。

経営者の優柔不断な態度、曖昧な態度、根拠不明な決定、決定の先延ばしなどについては、労働者側から厳しい追求を受けることになります。

だからこそ、経営者は、企業を経営することに本当の意味で関心を持つようになり、トップリーダーとしての仕事をしなければならなくなるのです。

それはレヴィンとリピットが調査研究において示した「民主的指導者」の行動にきわめて近いものになります。

この場合の「民主的指導者」とは、経営者がその地位を失うことではありません。「すべての人がすべてのことを決める」という意味ではありません。

「民主的指導」とは「参加」によって人間資源を有効に活用することを意味します。細部にわたる監督をやめ、全般的な監督を行います。外的な権力に頼ることなく、部下の責任ある行動と不撓の自制力を奨励します。

スキャンロン・プランの導入によって、経営者の最終決定権の行使ということが、一層重みを増してきます。経営者が意思決定に本腰を入れて立ち向かわなければ、プランは成功しません。

会社の所有権と経営権の仕組みの問題で、経営層に事実上の権限の中心となる人がいないような場合も、失敗する可能性が高くなります。

スキャンロンは「ボスを見つけることがいかに難しいか」と言っています。決定権の所在が曖昧で、管理者の誰もが決定に伴う責任を回避しようとすることは、実によく起こることなのです。

経営者は自らの最終決定権をよく自覚し、現場への権限委譲を明確にしなければなりません。

会計部門の役割

スキャンロン・プランの導入に当たっては、会計部門の役割が重要になります。会社の中で起こっていることについての記録を持っているからです。

ところが、プランを導入するに当たって、会計部門がひどく融通の利かないものになっていて、ほとんど建設的な貢献をしていないことが明らかになります。

会社に会計上のサービスをしているというよりは、会社が会計担当集団にサービスしているといったほうが当たっている場合も多いようです。

自分たちのやり方や手続きを僅かに変えるだけで会社が助かるという提案に対してさえ、非常な抵抗を示すことがあるからです。

会計部門が使う専門用語は、一般の労働者には手に負えないほど不可解です。利潤の意味が分からず、会計係が勝手に生み出したり、減らしたり、なくしたりすることもできると思われています。

労働組合の中には、会社が組合用と会社用に二重帳簿を作成している思っているところもありました。

スキャンロン・プランは、会計部門が真の会社全体へのサービス・グループになることを要求します。

スキャンロンが常々言っていたように、人々に問題解決に一役買ってもらいたいのであれば、そのために必要な道具を与えなければなりません。会計情報こそ、最も重要な道具の一つです。

会計部門が絶えず事実や数字を提供して、関係労働者が問題に取り組み、解決に貢献できるようにすることが必要です。ただ「損をしている」と言うだけではなく、「どこで損をしているのか」を詳しく教えなければなりません。

実際に、スキャンロン・プランを導入した会社の家計担当者は、以前よりも遥かに多く全体活動に貢献できるようになったと実感しています。記帳だけの仕事から抜け出し、人々が会計数字を利用して具体的な成果をあげ得るような助力を与えています。