成果配分の具体的な基準 − 「スキャンロン・プラン」とは何か?⑩

スキャンロン・プランは、全員参加による生産性向上の取り組みを行い、その成果を賞与として全員で分配しようとするものです。

成果は、賞与として給与に上乗せされる形で分配されます。

分配を適切に行うためには、まず、成果を具体的に測り、従業員に分配するための指標(測定尺度)を決定しなければなりません。

次に、「成果があがった」と言うためには、比較すべき基準値を定めなければなりません。その基準値が改善したことをもって成果とし、その改善分を賞与に換算します。

スキャンロン・プラン導入の実例では、「生産の販売価値(売上高)に対する給与額の割合」を測定尺度に用いていることが多いため、この測定尺度を例に、成果配分の具体的な方法を説明します。

なお、給与総額と販売価値との関係は、比率(給与総額/販売価値)で表し、「労務比率」と呼び習わすことが多いため、ここでもその名称を使っています。

基準値の設定

「成果があがる」あるいは「生産性が向上する」とは、測定尺度が改善することです。

上記の例で言えば、労務比率が減少することであり、その減少分が賞与として毎月全従業員(経営者や管理者を含む)に分配されます。

「測定尺度が改善する」と言うからには、あらかじめ基準値を定めておき、それと比較して改善するという意味になります。

一般に、過去の一事業年度の成果を基に算出され、それを基準値とします。

選ばれる事業年度は、環境の変化を考慮して、なるべく最近の年度が望ましいとされますが、極端な環境変化で大きな赤字が出たなど、特殊な事情があったは年度は相応しくありません。

一度決めた基準値は、当面の期間使用されますが、社内外の環境は変化するため、その変化を踏まえて、必要な場合は、労使協議によって基準値の見直しを行います。

どのような測定尺度や基準値が選ばれようとも、その検討過程から決定に至るまで労使双方が議論に参加し、労使合意の上で導入し、納得のうえで運用しなければなりません。

賞与原資の算出

スキャンロン・プランにおける賞与の支払いは、半期ごとや四半期ごとではなく、毎月を原則とします。生産性向上の努力とその成果の配分は、できる限り時間を開けずになされるべきと考えるからです。

したがって、賞与原資も毎月算出されます。労務比率を測定尺度とする場合、労務比率の減少分に相当する給与額が、その月の賞与原資になります。

労務比率の基準値は決定していますから、その月の販売価値が算出できれば、それに基準値を乗じることによって、その月の基準となる給与総額(「基準給与総額」)が計算されます。

実際にその月に支払われる給与総額(「実際給与総額」)が、その「基準給与総額」より少なければ、労務費が削減された(生産性が向上した)ことになり、その差額(「基準給与総額」−「実際給与総額」)が賞与原資になります。

賞与原資の配分方法

賞与原資は、全額を従業員の賞与として分配してもよいのですが、実際は、これまでの経験を踏まえて、まずは3つの区分に大きく配分されます。

一つは、留保分です。環境変化に対応するためのバッファーとしてプールされる分です。

すでに述べたとおり、基準値は様々な環境変化に応じて見直される必要がありますが、厳格に基準値を決めようとすると、頻繁に基準を見直す必要が出てきて、かなり煩雑な作業になります。

それを避けるため、一般的な運用としては、ある程度の環境変化が起こることを織り込んで、賞与原資の一定率を留保するわけです。

留保分を差し引いた残りが毎月分配されるわけですが、通常、全額を従業員の賞与として分配するのではなく、一部は会社に分配します。年間を通して赤字になるなどの場合に、労働者の基本給与が減らされることがないようにするためです。

以上のように、留保分、労働者取り分、会社取り分の3つに配分されるのが一般的です。その3つの配分比率として一般的に用いられるのは、まず留保分が賞与原資の25%です。残り75%について、労働者取り分がその75%、会社取り分が残り25%です。

留保分と会社取り分の比率が同じ数字(25%)のため誤解されやすいですが、まったく別物です。留保分はプールされるもので、会社の取り分ではありません。会社の取り分は、留保分を差し引いた残りのさらに25%です。

成果配分の考え方を厳密に適用すると、労務比率が上がった(生産性が下がった)月はマイナス賞与、すなわち基本給与が減らされることになるはずですが、スキャンロン・プランでは基本給与を減らすことはしません。

基本給与を減らさないとなると、会社がその分をすべて被ることになるため、プールされた留保分からマイナス賞与分が会社側に補填されます。

事業年度の最終月において、留保分は大抵いくらか残ります。その残額は、最終月の賞与に上乗せして分配(労働者取り分75%、会社取り分25%)されます。

ただし、赤字が生じ、留保分では賄えないほどの労務比率上昇が起こった場合、会社側がその分を引き受けます。労働者の給与から補填させたり、次年度に繰り越したりすることはありません。そのために、会社への分配も行われるのです。

事業年度が改まれば、また一から留保分を貯えていきます。

なお、競争の激化など構造的な外部環境の変化によって、会社の原価構造が根本的に変化し、赤字が継続する可能性があるなどの場合、基準値の修正をすべきです。

スキャンロン・プランを導入した会社の経験によると、会社側がすべてを打ち明けて労働者側に協力を求めれば、労働者側は進んで基準値の修正に応じるといいます。

このような場合に、基準値を変えずに、会社側の取り分と労働者側の取り分の比率(一般的に25:75)を変えようとすることがあるようです。つまり、会社取り分比率を大きくする方法です。

しかし、経験的には、取り分比率を変えるのではなく、会社の損益分岐点を労使双方が十分意識しながら基準そのものを見直すほうが、労働者の公平感と分担意識が高まるようです。

従業員各人への分配

従業員各人への賞与は、通常、各自の給与に「賞与比率」を乗じた額が支払われます。「賞与比率」とは、その月の実際給与総額に対する賞与原資(従業員の取り分のみ)の比率です。

要するに、労働者各人への月賞与は、自分の実際給与に対し、全員が同比率で支払われます。

自分の実際給与がベースになっているということは、各人の熟練度や貢献能力を認めていこうという趣旨です。つまり、現在の給与体系に不均衡がないという前提です。

仮に不均衡があるとすれば、それは労使間の団体交渉において議論されるべきものであり、スキャンロン・プランの実行とは明確に区別されます。

スキャンロン・プランの議論対象は、あくまで生産性の向上であり、そのために相応しい測定尺度の設定・運用です。

また、全員が同比率で支払われるということは、このプランが全員を会社というチームの一員にし、競争よりも協力を促進しようとしていることを意味します。

ここで、「賞与比率」の算定に当たって、実際給与総額には何を含めて、何を含めないかが問題になります。この判断は「賞与は、生産過程における実際の努力に対してのみ与えられるべきである」という考え方に基づきます。

それに従えば、有給休暇に対応する給与は除かれます。実際に働いていないからです。試用期間中の労働者は一人前ではないため、通常スキャンロン・プランに参加せず、その分の給与も考慮されません。

時間外勤務や深夜勤務の賃金割増分については含めます。スキャンロン・プランとは無関係の半期ごとの賞与、個人単位の成果給があればそれも含めます。これらの考え方は、アメリカ労働法に関係しているようです。

なお、休日出勤分に関しては、基準値の算定で含まれているため、賞与原資の算定に当たっても、実際給与総額に含める必要があるのですが、実際は一定の「補正」を行った上で含められています。経験上、休日出勤が月ごとに偏ることが多いからです。

基準値の算定では一年を通して均されているのですが、月ごとの実際給与を考えるときに、その月の実際の休日出勤分を考慮すると、偏りが出てしまうわけです。

そのため、その月の実際給与総額を算定するときには、その月の実際の休日出勤分は含めないことにし、その代わりに、基準値を算出した年度の月平均休日出勤分を、その月の実際給与総額に加算することによって補正します。

賞与原資を算出するときは、このようにして補正された月の実際給与総額を用います。

そうすると、その月の基準給与総額にも、実際給与総額にも、同じ額の休日出勤分が含まれていることになるため、両者の差額である賞与原資には、休日出勤分が相殺されることになります。

したがって、「賞与比率」の算定に用いる「実際給与総額」には、補正値である月平均休日出勤分を含めない数字(もちろん、その月の実際の休日出勤分も含めない数字)を使います。

同じく、個人ごとに分配される賞与額を算出する場合も、賞与比率を乗じる各自の実際給与には、実際の休日出勤分を含めないようにする必要があります。

なお、留保分の残高を年度末に分配するときは、一般に、その年度中に支払われた賞与総額でその残高を除した比率を使います。その年度中に各人に支払われた賞与額に、その比率を乗じて得た額が、各人の取り分です。