「利潤分配制」とは、会社があげた利潤を労使で分配しようとする考え方です。
アメリカにおける戦後の労働不安の時期に、当時の労使関係の困難を打破する一つの手段として注目されました。
ほとんどの場合、賃上げの代替物として考慮されるようになり、しばしば労働組合の組織化に対抗する武器として用いられました。
このような不順な動機で導入され、労使協力して生産性向上努力を進めようという意図ではなかったため、労働者の意見を聞くことなく経営側が一方的に考えて実施することがほとんどでした。
結局、利潤分配制は、ほとんどの場合、うまく行きませんでした。
利潤分配制導入の背景
利潤分配制支持者の主張によると、ストライキと生産低下は企業内部の不調整が原因であり、本当の問題は、労働者の「自分は不安定な地位にある」という恐怖感と、労働者が「自分は搾取されている」と信じ込んでいることにあるということでした。
そこから、労働者の利益を使用者の利潤に結びつけることで解決が可能になるという主張につながりました。
要するに、労働者を利益増加の方向に動機づけることができるため、ストライキや生産低下は起こらなくなるというわけです。
戦後、賃金問題が労使関係の中心主題となる中で、労働組合は、会社の利潤が急上昇しているにもかかわらず、実質賃金は低下していると主張しました。
これに対し、経営側は、非常なコスト高であるから、僅かに需要が減じても赤字になる恐れがあると反論しました。
このようなことが繰り返された結果、労働者は利潤を重視しなくなりました。会計のエキスパートによっていくらで操作できる数字であると考えるようになったからです。
このような背景があって、利潤分配制は、賃上げの代替物として経営側に利用されるようになっていきました。
特に、過去においてしばしば、労働組合組織化に対抗する武器として用いられました。
利潤分配制がうまく行かなかった理由
労働者の参加を得ていない
仮に労働組合組織化への対抗といった裏の目的を持っていない場合であっても、経営側が一方的に考え、一方的に実施している限りにおいて、労働者の心に与える影響は同じでした。
経営側は労働者代表を無視したため、労働者とのパートナーシップを促進することはできませんでした。
生産性向上には労働者の積極的参加が必要であり、これを推進することなく、結果としての利潤を分配すると言ったところで、従業員を動機づけることはできませんでした。
労働者の努力と関連付けることが難しい
そもそも、利潤分配制を避けるべき根本的な理由がありました。労働者に、何らの統制力を持たない責任を負わせることになるからです。
利潤自体の変動要因は労務コストだけではありません。労働者の努力を超えた経営判断による影響も非常に大きいのです。
労働者がその解決に貢献できない問題に対しては、彼らをその問題に関連づけ、動機づけることは不可能です。
実際の運用においても、労働者の努力と報酬の間に何らの関連も確立されず、具体的な努力の方向性も示されず、具体的な成果も知らされませんでした。
ですから、労働者は、何とか賞与支給が可能な最低限の利潤が、会計年度末にあってくれればいいと希望するだけで、他に何か会社に貢献しようという意欲を持つことができないのです。
このような実情でしたが、利潤があがっている間は、問題が表面化することはありませんでした。労働者に賞与が支給されるため、その点で一定の満足感があるからです。
ところが、利潤があがらなくなると、労使の関係は険悪になります。労働者には利潤があがらない理由が分からず、賞与が支払われないことに納得できないからです。
そのため、経営側は、利潤があがっていないにもかかわらず、労働者をなだめるために賞与を支払い続けてしまいます。
そうなると、労働者は経営側を信用しなくなります。賞与が支払われるので、「利潤があがっていないというのは嘘ではないか」「利潤などいくらでも操作できるのではないか」などと思うようになるからです。
支払い時期が遅い
もう一つ、支給時期の問題があります。
仮に労働者の努力と利潤がうまく関連づけられるとしても、実際の努力と支払い時期が隔たり過ぎる場合がほとんどです。
極端な場合、利潤が確定する期末の支払いになります。早くても四半期末、あるいは半期末かもしれません。
努力とその成果の支払いが隔たりすぎると、動機づけが弱まることが分かっています。
ちなみに、スキャンロン・プランでの賞与支給は、月単位を原則としています。
利潤分配制の成功例
利潤分配制がすべて失敗しているわけではありませ。
実際のところ、スキャンロン・プランの測定尺度として、他に方法が見当たらなかったために、利潤分配制を導入し、成功している例もあります。
成功の要因を分析すると、まず、経営側と労働組合が安定した健全な関係を保ち、日頃から生産問題に関する問題について、労使合同委員会を設けて議論していることです。
利潤分配制を導入するに当たっても、労使代表からなる合同委員会を設け、その内容について慎重に議論を重ね、合意に至っています。
利潤の分配で重要なことは、労働者にとって統制可能な要因を明らかにすることでした。つまり、労働者が一つの集団として、生産性向上にどのように貢献できるかをはっきりさせることです。
そうなると、利潤分配とはいっても、営業利益率のようにすべての経費を包含するのではなく、労務費あるいはそれを含めた固定費の一定範囲に限定して経費を考慮する形になったようです。
もちろん、生産性向上の努力は、労使合同委員会の中で活発に議論され、進められました。委員会の場は、従業員にとって一種の集約的な教育コースともなりました。
労働者は仕事についての自分たちの知識を活用する機会を与えられ、やる気に燃えていました。管理者も、労働者に負けないよう勢力的に活躍するようになりました。
結局、どのような成果配分制度を導入するにしても、安定した労使関係の確立が重要であり、制度の具体的内容そのものが、労使協力による慎重な議論と相互理解の産物でなければなりません。
完全な意味でのパートナーシップと参加が、制度実施の前から十分に発展されていることが必要です。これらがあれば、成果配分方法の型は二次的な意義しかありません。双方が納得していることが重要なのです。
目標は簡単明瞭です。プランが確実に成功するように、あらゆる努力を払って、全従業員が何を貢献できるか、はっきりさせるようにすることです。
労働者は経営者と同じ程度に会社経営について知る必要があり、真に実践的な意味で事業経営のパートナーになる必要があります。