スキャンロン・プランで導入される「測定尺度」とは、生産性の向上によってもたらされた成果を基に、従業員(原則、労働者だけでなく経営者も含む。)に分配される賞与を決定するための指標です。
スキャンロン・プランを正しく実践することなく、関心のみを持つ人たちの多くは、測定尺度がプランの中核的な要点であり、独自性であるとみなします。
この背景にあるのは、金銭的なインセンティブこそが最大の動機づけであるとする考え方です。
しかし、スキャンロンが考えていたのは遥かに幅の広い問題です。新しいコミュニケーション過程、産業組織が直面している果てしない諸問題の解決を目指す新しいアプローチなど、働いている人々の間の新しい関係についてです。
このような広範な諸側面を正しく見通したうえで、測定尺度を位置づける必要があります。
スキャンロンの基本的な考え方は「作業集団に役に立つものは単純で理解の容易なものである」ということでした。
測定尺度も、労働者が賞与をもらえた理由、もらえなかった理由がはっきり分かるような、簡単で理解の容易なものであることが求められます。
測定尺度は安定的に利用できる必要があり、頻繁に変更しなければならないような尺度は望ましくありませんので、環境の変化や事業が将来進むべき方向を視野に入れながら決定する必要があります。
検討に当たっては、会社の運営に関わるあらゆる事実とコストについての数字が必要です。特に、労働者にとって統制可能なコストに関わる情報が重視されなければなりません。
成果配分方式
スキャンロン・プランを適用する場合、第一にしなければならないことは、その会社の正常労務費を明確にし、これを基準として、得られた利益を労働者に与える方法を工夫することです。
この場合、労働者の仕事ぶりと会社の生産性とをつなぐ因果関係を明らかにするような何らかの結びつきが必要です。この結びつきは、会社によって異なります。
労働側は労務費を正確に測られることを嫌う傾向があるため、どうしても労務費を正確に見つけることができない場合は、実情に応じて代替指標を設定しなければなりません。
スキャンロンがかつて様々な企業で採用した代替指標は、例えば、銀食器の製造業では「処理された銀の目方」、倉庫業では「倉入のトン数」、鋳物向上では「吹いた鋳物の目方」などでした。
いろいろな種類の鉄鋼製品を製造している工場で、他によい指標がなかったため、営業利益率を指標に使うこともありました。この方法は、いわゆる「利潤分配制」に相当します。
利潤分配制は、労働者の努力によって労務コストを節約することができれば、損益計算上の営業利益率の向上につながるという前提になっています。
しかし、利益自体の変動要因は労務コストだけではなく、労働者の努力を超えた経営判断による影響も非常に大きいため、スキャンロン自身は、利潤分配制を好ましくないと考えていました。
それでも、スキャンロン・プランの導入の中で営業利益率を基準にした場合は、きわめて活発に労働者の参加が行われ、生産性向上に貢献したといいます。
この点から言えることは、スキャンロン・プランで重要なことは「参加の原則」によって労使が真に協力関係を作ることであるということです。
成果配分の方式については、双方が納得し、現実的に運用できるものであれば、致命的な問題ではないことが分かります。
企業に相応しい測定尺度の選択
スキャンロン・プランは、測定尺度を限定したり、指定したりしてはいません。個々の会社の特殊性を考慮することを重視しています。
会社の置かれている状況に応じた、独自の、実行可能な測定尺度を持つことが必要です。月単位での評価が可能であることも重要です。
プラン導入の実例で見ると、「生産の販売価値に対する給与額の割合」を測定尺度に用いている例が多いようです。「生産の販売価値」はいわゆる売上高であり、返品や値引き、会社持ちの運送費などは除きます。
製品在庫の回転期間が比較的長い場合は、仕掛品と完成品の在庫増分の評価額も販売価値に含めます。評価額は、増分が少量であれば販売価格、そうでなければ原価額です。
原価額で在庫を評価するのは、売れないうちは完全な売上高とは認めないとする考え方から来ています。この方法によって、出荷を促進する刺激にしようとするものです。
給与総額と販売価値との関係は、通常、比率(給与総額/販売価値)で表します。この場合の測定尺度を「労務比率」と呼び習わすことが少なくありません。
「給与額」は全従業員を対象とし、経営者や管理者も含めます。対象者を限定すると、報酬プランが複数設けられる形になるため、社内に不信感が広がり、悶着が絶えないという経験則があるからです。