スキャンロン・プランの成功事例を観察したときに、自社でそれを取り入れることに抵抗する人が必ずと言ってよいほど述べる言い訳があります。
その成功事例がもってる特殊な環境条件を取り上げ、「わが社にはその条件が当てはまらないから、うまく行かないだろう」というものです。
そもそも、スキャンロン・プランを導入するかどうかにかかわらず、環境条件が会社の発展方向や主要業績を大きく左右するのは当然のことです。
実際のところ、スキャンロン・プランを導入してうまく行っている企業は、様々に異なる環境条件を持っています。それまでの経験も様々に異なっています。
実例を見ると、スキャンロン・プランは、当事者が環境を最もよく利用し、かつ長い間には不利な環境を作り変えていく一つの重要な方法になっていることは確かです。
ただし、事例は有限であり、スキャンロン・プランがどのような環境においても実施できると保証することはできませんし、どのような条件でも同じ結果になるということもあり得ません。
スキャンロン・プランはすべての問題を解決できる魔法の杖ではなく、あくまで当事者に問題を処理する方法と意欲を与えるものです。
成功の限界を決めているのはプランそのものではなく、プランを実行する人間の方です。
スキャンロン・プラン成功の共通項として明確に取り出せることは、当事者がより効果的に協働を進めていきたいと望み、参加の原則の適用に関心を持っていることです。
リーダーシップ、誠実さ、より協力的で生産的な関係への積極的な参加意欲が備わっていれば、環境や周囲の事情にかかわりなく、十分に生産性の向上が得られます。
規模の多様性
スキャンロン・プランは、集団の凝集性が高く、コミュニケーションに問題がないような小規模の会社でのみうまく行くとよく言われます。
実際のところ、60名以下の会社から1,000名超の会社まで幅広く実施されており、調査当時のアメリカの企業規模の構成割合から見ても偏りがないことが確認されています。
プランを導入することによって、労使双方が、それぞれの組織における連絡と結合を維持するという仕事が、前よりうまく行くようになったという意見は確かに聞かれます。
ただし、スキャンロン・プランを導入すれば、自然とコミュニケーションが円滑になるわけではありません。
規模が大きくなれば、それだけ委員会の構造は複雑になり、新入社員を訓練し、プランを理解させるのに余分の注意を払う必要があり、組織の全員にプランの実施状況を周知させ、納得させることが不断の問題となります。
規模が大きくなれば組織の複雑さとコミュニケーションの困難さは増すものですが、このプランを実行不可能にするほどのもではないということは分かっています。
7,000名を超える規模の会社が指摘していることは、組織の他の特徴を損なわない限度で、実施単位を小規模にするのが望ましいということでした。
これによれば、複数の工場をもっている大規模会社では、工場ごとにプランをもたせるようにするのがよいということになります。
複数工場制の会社については別の問題も指摘されています。小規模な工場に独立してプランを適用すると、本社の注意を十分引くことができず、真実の要求が上位の管理層に知られない、またはよく理解されないままになってしまうことが懸念されています。
実施単位を小規模に分割する場合は、本社に対する訴えを、より一貫性のある説得力に富んだやりかたで行うことが必要です。
本社の上位管理者の側も、プランの実施によって、現場で何が行われているかを正確に知ることができるようになるため、最も適当と思う行為をより自信をもって推進できるようになることをしっかりと訴える必要があります。
経済条件の多様性
プラン導入時の経済条件も様々です。欠損続きで解散寸前であった会社から、産業の平均よりも良好な業績であった会社まで広く分布しています。実数として最も多いのは産業平均に近い会社です。
いずれの会社でも、プラン導入後に業績が向上しています。
また、いずれの会社も業績の浮沈や環境の変動を経験しており、そのようなときにこそプランは最も価値があると述べています。
プランの実施業種は製造業が多いようですが、製造業内の業種としては広範囲に分布しているようです。これは、各会社が置かれている競争状態に著しい差異があることを意味しています。
全体経費に占める人件費の割合も多様です。一般的には、人件費の割合が高いほうが生産性向上の余地が高いように思えますが、実際は、元々割合が低くても、プラン導入でさらに改善されています。
かなり能率が高く、利益のあがっている会社でさえ、人的資源は未活用の潜在能力を持っており、スキャンロン・プランがその潜在能力の開花に貢献していることが分かります。
仕事の条件の多様性
仕事の内容についても、熟練を要しない単純労働が主体の場合もあれば、熟練を要する労働が主体の場合もあります。標準品の大量生産の場合もあれば、受注生産の場合もあります。
作業環境が劣悪であったところもあれば、元々作業環境が素晴らしく快適であったところもあります。
労使関係の多様性
プランの導入時点で労働組合が組織されていたところがほとんどでした。中には複数の組合を持っている会社もありました。
労使の関係については、プラン出発時点で概ね良好であったといいます。そうでなければ、プラン導入で合意することは難しいでしょう。
基本的に、労働組合が経営側を信用していない場合、プランの導入は難しくなります。導入直前にストライキが行われた会社もいくつかあり、関係が荒れていたところもあったようです。
一般に、労働組合が強く、また闘争を行うにも理性的であるほど、プランの導入はうまく行っているようです。
ただし、労使の一方または双方が、このプランを何か他のものの代替物と見ている場合は、ほとんど間違いなく失敗します。
例えば、経営者が賃上げの代替物としてプランを導入する場合、労働組合が経営側から何らかの譲歩や交換条件を引き出す代わりにプランの導入に同意する場合などです。
このような取引条件としてのスキャンロン・プランの導入は、その実行に熱意を傾ける動機を持たないので、成功しようがありません。
複数事業単位への適用
経験上、スキャンロン・プランはできるだけ大きな単位で導入するのが望ましいとされています。
ある会社では、約100km離れた場所に所有していた2つの工場に単一の測定尺度を適用したところ、2工場の労使間の意思疎通が促進され、毎月審査委員会の会合の度に100kmを往復しなければならないという面倒を相殺して余りある成果をあげたといいます。
別の会社では、同じ場所にある3つの事業部に単一の測定尺度を適用しました。審査委員会は事業部別に設けましたが、各人の賞与額は全体の成果に基づいて決めるほうが遥かに健全であったといいます。この会社では、生産労働者がすべて単一地方労組に属していたことも関係していました。
事業部ごとに審査委員会を設ける場合は、会社全体の経営方針、他事業部と関連する事項などを含む提案を検討するため、更に上位の委員会を設ける場合もあります。
なお、プランの適用対象を徐々に広げていく方式は、必ずしもうまく行かないようです。
つまり、ある一つのグループにプランを適用し、後に他のグループを加えていくというやり方は、非常に難しいことが分かっています。ある一つのグループでプランが成功した場合、そこに追加されるグループの人々は、その成功を覆す恐れのあることをやろうとしなくなるようです。