リエンジニアリングする人たち − リエンジニアリング革命②

企業がリエンジニアリングを行うとは言っても、実際に行うのは企業で働く人です。リエンジニアリングを実際に行う人の選任と組織化は、試みが成功するかどうかを左右する重要な問題です。

誰が選ばれるかは、リエンジニアリングに対する会社の本気度を如実に表すメッセージになりますから、優秀で信頼の厚い人材を惜しみなく投入しなければなりません。

一人ひとりの従業員が、部門や職能の壁を超えてプロセスを見渡す視点をもつことは、想像以上に困難です。プロセスを抜本的に変えようとするとき、関係するすべての部門や職能にわたって変化を起こさなければなりませんから、それだけの広く高い権限と影響力をもって取り組まなければなりません。

基本的に、トップダウン的にリードしながら、常に部門の壁を超えさせる努力を継続し続ける必要があります。

個々の部門や職能における改善の積み重ねによってリエンジニアリングが成し遂げられることは決してありません。リエンジニアリングにおいて、細かく別れた部門のレベルからボトムアップ的に湧き出てくるような取組は期待できません。

リーダー

エンジニアリングを始める人が「リーダー」です。リエンジニアリング全体についての権限をもち、動機づけを行う人です。リエンジニアリングが組織に混乱を起こすことは必至ですから、それを人々に受け入れさせることができるだけの影響力をもつ人でなければなりません。

通常は、経営トップ層の人(シニア・エグゼクティブ)です。CEOである必要はありませんが、COOや社長が行うべきです。ただし、特定の事業部門で完結したプロセスが対象であれば、その部門の事業部長がリーダーになることもあります。そのプロセスを行うために必要な権限をすべてもっている人でなければなりません。

リーダーにとって地位は重要ですが、より重要なのは性格です。現状維持を好む人は相応しくありません。野心的で、活動的で、知的好奇心がなければなりません。

リーダーの役割は、ビジョンを追求する人として行動し、人々を動機づけることです。目標とする組織の姿を描き、伝えることによって、人々に目的意識と使命感を与えると同時に、最後まで多大な努力が必要であることを明らかにします。

リーダーは、対象プロセスのリエンジニアリングに責任をもつプロセス・オーナーおよびリエンジニアリング・チームを任命し、リエンジニアリングを開始します。リエンジニアリングが行われる間は常にサポートを行います。必要な環境をつくり上げ、現れてくる障害や抵抗に対処しなければなりません。

リーダーは、リーダーシップを発揮するために、シグナル、シンボル、システムを活用します。

シグナルとは、エンジニアリングに関するはっきりとしたメッセージです。リエンジニアリングの意味、理由、やるべきこと、方法、必要なものに関するメッセージです。このメッセージは、繰り返し送り続ける必要があります。

シンボルとは、シグナルを補強するための行動です。例えば、リーダーが任命するプロセス・オーナーやリエンジニアリング・チームのメンバーの顔ぶれは、リーダーの本気度を示すシンボルです。

システムとは、典型的には、大規模な変化への取り組みを促進するような評価・報酬システムです。リエンジニアリングは革新的な取り組みですから、失敗を罰してはいけません。むしろ優れた失敗を讃えなければなりません。

プロセス・オーナー

プロセス・オーナーとは、特定のプロセスの責任者です。そのプロセスのリエンジニアリングの責任者も兼ねます。

多くの企業には、プロセス・オーナーがいないといいます。なぜなら、プロセスという発想をもっていないからです。プロセスは複数の部門に分断されており、それぞれの部門長は自部門の業務の責任を追うことはあっても、特定のプロセス全体の責任を追うことはありません。

そもそも企業内にどのようなプロセスがあるのかを明確に理解されていないことが多く、リエンジニアリングの初期の段階で、企業にとっての主なプロセスは何かを明確にすることが重要になります。その後、リエンジニアリングの対象とするプロセスについて、プロセス・オーナーが任命されます。

プロセス・オーナーは、通常、プロセスの一部を担当している部門のマネジャーから選任されます。ただし、同僚の信頼と高い評価を受け、社内で影響力をもつシニア・マネジャーを選任しなければなりません。リエンジニアリングに対する意欲がなければなりません。変化を受け入れ、曖昧さに寛容で、逆境でも落ち着いていなければなりません。

プロセス・オーナーは、直接リエンジニアリングを行うというよりも、リエンジニアリング・チームを組織し、チームがリエンジニアリングを行うことができるような環境を整えます。チームが必要としている資源を調達し、官僚組織と折衝し、プロセスに関係している他の部門のマネジャーの協力を得なければなりません。

プロセス・オーナーは、リエンジニアリングが完了した後は、引き続きそのプロセスの責任者となります。プロセスそのものが企業の組織構造を形成するので、組織の責任者としてプロセスをマネジメントします。

エンジニアリング・チーム

リエンジニアリングの実務を行うのは、リエンジニアリング・チームです。アイデアを出し、計画し、実行に移します。一つのプロセスにつき、5人から10人で構成される一つのチームを組織します。一つのチームに、インサイダーとアウトサイダーの二種類の人が必要です。

インサイダーとは、プロセスの内部で働いている人です。既存のプロセスをよく知っているので、問題の所在を明らかにする助けになる一方で、プロセスを新しい想像力豊かな方法で思考する妨げにもなります。インサイダーは、実際にリエンジニアリングを実行する段階で、社内の人間を説得する重要な役割を果たしますので、同僚から信頼を得ている人でなければなりません。

インサイダーは、既存のプロセスと組織から利益を得ていることが多いため、部分的な改善にとどめようとするインセンティブが働きます。そのため、それを破壊できる人が必要です。それを担うのがアウトサイダー、すなわち既存のプロセスで働いていない人です。

アウトサイダーは、より高い目標を掲げ、チームに異なった物の見方をもたらす必要があります。物事を大きくとらえることができること、優れたコミュニケーション能力をもつこと、聞き上手であること、プロセスを短期間で学習できることが必要です。想像力豊かで、コンセプトを明らかにし、それを実行に移せる人でなければなりません。社内に適任者がいなければ、外部のコンサルタントを利用することもできます。

インサイダーとアウトサイダーは、折り合いが良いことはあまりありません。しかし、争いや軋轢は共通のゴールに向けられなければなりません。個人的な縄張り意識や問題の入り込む余地があってはいけません。

リエンジニアリングは、仕事のやり方を新しくするものですので、従来の問題解決の方法を忘れ、曖昧であることに耐えなければなりません。失敗を恐れず、そこから積極的に学ばなければなりません。発明、発見、想像、合成なども生み出す必要があります。

リエンジニアリング・チームにとって、プロセス・オーナーは、上司というよりクライアントです。プロセス・オーナーがチームを管理するのではなく、チームが自己管理しなければなりません。ただし、キャプテンはいたほうがよいので、プロセス・オーナーが任命するか、メンバー同士の合意によって選びます。チーム全体の舵取りをするため、必要な事務仕事が生じますが、あくまでチームのメンバーとして行動します。

リエンジニアリング・チームは、片手間で仕事をすることはできません。原則は、専属でなければなりません。一つの場所で一緒に働かなければチームとして機能しません。期間も数ヶ月で済むことはなく、少なくとも最初の現場実験が終わるまでに約1年間はかかるといいます。インサイダーは、従来の業務や部署から離れることが前提です、古いつながりを断つ必要があるからです。リエンジニアリングが終わっても、元の部署に戻るのではなく、新しいプロセスを担う新しい組織に入ることが前提です。

リエンジニアリング・チームは、原則、固定メンバーによって構成されますが、専門的な役割を果たすチーム外の臨時メンバーの助けを受けることはよくあります。プロセスのカスタマーやサプライヤーに当たる人たち、情報技術や人事などのスペシャリストです。

報酬は、チームとしての成果(目標達成度)に基づきます。

ステアリング・コミティー

ステアリング・コミティーは、シニア・マネジャーの集まりで、会社全体のリエンジニアリング戦略を立案したり、個々のプロセスやプロジェクトの範囲を超えた問題を討論します。複数のリエンジニアリング・プロジェクトの優先順位や資源配分を決定することもあります。

企業によって、設置することもあれば、設置しないこともあります。

リエンジニアリング・ツァー

リエンジニアリング・ツァーは、リーダーをサポートするスタッフのチーフに当たります。主な仕事は、プロセス・オーナーとリエンジニアリング・チームをサポートし、すべての進行中のリエンジニアリング・プロジェクトを調整することです。その意味で、リエンジニアリングに関するノウハウを蓄積し、伝授できる者でなければなりません。

情報技術、インサイダーやアウトサイダーなどの人材、経営システムの変更準備など、リエンジニアリングの実行をスムーズにする基盤を整備することも重要な役割です。

リエンジニアリング・ツァーはあくまでスタッフですので、サポートに徹しなければなりません。スタッフ部門がライン部門に権限を行使してはならないとの同じように、あくまでリエンジニアリングに関わる権限は、プロセス・オーナーやプロセス・チームにあることを忘れてはなりません。