リエンジニアリングへの着手 − リエンジニアリング革命④

リエンジニアリングの成功に不可欠の重要な側面として、会社の人々に大きな変化への展望をもってもらうこと、少なくとも反対はしないでもらうことが不可欠です。リエンジニアリングの必要性をもっとも明快に打ち出せる企業こそ、従業員に「変化」を売り込むことに成功する企業です。

なお、リエンジニアリング・プロジェクトは、全体を前もって綿密に計画することはできないことをあらかじめ理解しておく必要があります。プロジェクトの途中でさまざまな発見や学びがあり、それに従って計画を変更する必要が生じるからです。プロジェクトの途中で問題に直面し、それがよりよい解決策に結びついていきます。

長期のプロジェクトをあまり綿密に計画し過ぎると、でき上がった頃には時代遅れになっていることにもなりかねません。情報システムの開発が並行して行われる場合に、よくそのようなことが起きがちですが、この場合も、一枚岩的なシステムをつくるのではなく、取り替え可能なモジュールの組み合わせとして、変化に応じて柔軟な対応ができるような計画にしておくべきです。

重要なメッセージ

働く人々に伝えなくてはならない重要なメッセージは2つあります。

まず、「会社の現状」と「そのままでは行けない理由」です。変化の必要性を心から納得していない従業員は、変化に耐えることができないばかりか、その邪魔をすることもあります。ですから、簡潔で分かりやすく、人を駆り立てるものでなくてはなりません。これを表現した文書を「改革綱領」と呼んでいます。

改革綱領に含まれる内容としては、まず業界状況として、会社の経営環境で何が起こっており、何が変化しており、何が重要になってくるかということです。特に競争業者の動向が重要です。次に、自社の問題点を明らかにします。また、市場の要求を明らかにし、自社がその要求に対応できないことを示します。さらに、現状のままであれば、自社はどのような損失を被るかを予測します。

もう一つのメッセージは、「何を改革するか」、「どのような会社になるべきか」、すなわちリエンジニアリングの目指すゴールを示すものです。これをはっきりさせるために、変革プログラムの目的とリエンジニアリングによって改革すべき範囲を明確にします。これを表現した文書を「ビジョン表明」と呼んでいます。

ビジョン表明は、リエンジニアリングに着手してからも、目的を忘れずに思い起こすものとして、進捗の度合いを測る物差しとして、継続の刺激として、繰り返し繰り返し用いられるべきものです。業界の競争のあり方を変えるほどに力強く、具体的な業務に焦点を当て、測定可能な目標と測定方法を含んでいなければなりません。

ビジョン表明においては、「何が変わるか」を明らかにすると同時に、「何が変わらないのか」を明らかにすることも重要な場合があります。従業員から見ると、リエンジニアリングによって、自分たちの存在基盤そのものが揺らいでしまう不安があるからです。存在基盤そのものの改革が必要な場合もありますから、それはそれではっきりと示し、代わりに良き未来が来ることを実感してもらう必要があります。単に労働負荷が増えるだけだと思い込む従業員が必ずいますから、そうではないことを明確に示すことも必要です。

従業員にとって、日常的に属している部門や職能の壁を超える視点や思考をもつことはとても難しいことです。何を達成すべきであり、そのために何をしようとしているのかをはっきりと定め、明確な優先順位をつけることがとても重要になります。そして、それらを関係者全員にはっきりと分かってもらわなければなりません。「はっきり」と「分かりやすく」表現することを徹底し、あらゆる手段によって繰り返し説明しなければなりません。

部門を超えた取組を求めるメッセージは、トップダウンによる強力な発信が必要ですが、人々がこれを理解し、同意し、そこに焦点を合わせるようになると、自分たちが何をすべきか、何ができるかが分かるようになり、その成功に責任を感じるようになります。このような状態こそ、真の権限移譲です。

企業文化の理解

自社の企業文化を理解しない限り、大きな変化を起こすことはできません。変革の障害になる文化的な壁や従業員の問題を理解していなければ、システムやプロセスをリエンジニアリングすることも困難です。

人は自分のいる環境の枠のなかで理性的に行動するため、従業員の行動を変えるためには、改革の方向に合った環境を創ることが必要です。

企業文化を調べるには、外部の機関を活用する方法と、自社で行う方法があります。また、アンケート調査による方法と、インタビューによる方法が代表的です。外部の調査機関は、その分野の専門家であり、多くの企業の実態をよく知っていること、客観的な外部の視点をもっていることがメリットです。通常は、外部の機関の活用と自社での実施とを組み合わせて行うことが多いようです。

調査によって発見すべきは、組織を動かしている暗黙のルールや前提です。さらに、それらの基盤になっている原因あるいは仮定です。これらが、行おうとしているリエンジニアリングの障害になりそうであれば、それらを変えるためのビジョンを明確に盛り込まなければなりません。

暗黙のルールや前提は、評価・報酬・昇進制度に現れていることがよくあります。リエンジニアリングを行っても、それらの制度が旧態依然としていることによって失敗することは少なくありません。ですから、リエンジニアリングには評価・報酬・昇進制度の変更を伴うことを理解しておかなければなりません。

段階的実施

大規模なリエンジニアリングをいきなり本番稼働させることには大きなリスクを伴います。失敗したときの損失が大きいこともありますが、大規模になるほど成果をあげるために長期間を要するため、社内のモチベーションを維持することが難しいこともあります。

したがって、パイロット・プログラムの形で、限定された顧客向けに試験をやってみることは効果的です。さまざまな問題点を知ることができ、顧客に協力してもらうことで改善のためのフィードバックを得ることもできます。短期的な成果を実感することもできます。

パイロット・プログラムによって得られた成果は、たとえ小さな変化であっても、あらゆる手段で社内に大々的に宣伝しなければなりません。

リエンジニアリング自体を段階的に実施する場合もあります。例えば、ベル・アトランティックは、第一段階をケース・チームによる実施、第二段階をケース・ワーカーによる実施、第三段階を自己供給(顧客のアクセスによる自動実施)という三段階で実施しました。段階的に実施する場合も、それぞれの段階でパイロット・プログラムを実施する方がよいでしょう。