「モラール(morale)」とは、「士気」、「志気」などと訳されます。「物事をなそうとする意気、意気込み」のことです。
「士気」と「志気」は、同じ意味で使われることも多いですが、前者は集団について使われ、後者は個人について使われるという違いが認められます。
人間関係論で著名なレスリスバーガーは、「モラール」を一集団ないし一組織の中における人間関係に関わる事柄であるととらえ、経営目的を達成するために組織の成員である従業員の協力をいかにして獲得することができるかという観点から、独特の説明を行っています。
「モラール」の一般的な意味
「morale」という用語は、英語においても捉えどこらがない言葉とされていますが、日本語においても明確な一語で表現することは難しい言葉です。
新英和中辞典によると、「morale」の訳は「(軍隊・国民の)士気、意気込み、気力」とされます。「士気」とは、広辞苑によると「兵士の元気、集団でことを行うときの意気込み」を意味します。
「モラール」を直接広辞苑で調べると、「志気、気分、風紀」となっています。「志気」とは、広辞苑によると「物事をなそうとする意気、意気込み」という意味です。
経営の分野では、直接「モラール」と使うこともあれば、「士気」と訳されることが多いかもしれません。「士気」は元々軍隊の用語なので、書籍によっては「志気」が使われることもあるようです。経営分野におけるモラールであることを強調して、「勤労意欲」と訳している人もいます。
「士気」と「志気」は、今では同じ意味で使われることも多いようですが、広辞苑で見るように、前者は集団について使われ、後者は個人について使われるという違いが認められますので、厳密に区別して使用する人もいるようです。この場合、「志気」は個人に対して使われるという点から、英語としては「motivation」(動機づけ)に相当するという人もいます。
ただし、「morale」という英語自体も、個人に対して使われることも多いという意見もありますので、結局のところ、広く「意気込み」と訳すくらいが適切なのかもしれません。
人間関係論における「モラール」の意味
人間関係論の源流に位置するレスリスバーガー(Friz J. Roethlisberger)は、著書『Management and Morale』(邦訳名『経営と勤労意欲』)は、moraleについて独特の解釈を示しています。
レスリスバーガーは、一般的にmoraleは個人的なものであるかのように捉えられがちであると言っていますが、本来は、一集団ないし一組織の中における人間関係に関わる事柄であると言っています。以下、同書を基に、レスリスバーガーによる「morale」の考え方を要約しています(以下「モラール」と表記します)。
モラールは、所属する社会的集団において共有された習慣的な生活や行為の様式によって維持されていると考えられます。ですから、日常的にはほとんど意識されることも少ないですが、それが失われつつあるような状態の時に初めて問題になります。健康が、それを失って初めて重要であることが認識されるのと似ています。
習慣的な行為や生活の様式の喪失に脅かされるに至ったとき、初めて人は不安を感じ、意気消沈し、それが自分にとってどれだけ重要なものであるかを認識させられます。
モラールの欠如を単純な原因に帰すことはできません。モラールの問題を理解するには、一つの社会的組織の中に相互に結び合わされている人間に関する一定の考え方を理解する必要があります。
経営組織におけるモラールの問題は、2つの部分に分けられます。
- 組織内の内部的均衡維持のための日常的問題
- 成員個人および集団が協働を通して人間的満足を獲得し、進んで共同の経済的目的の達成に寄与するような社会組織を維持すること
- 障害となり得る原因の診断と発見
- 個人間ないし集団間における人間的緊張の解消、人々を作業集団に帰属させるための処置、コミュニケーション上の障害の発見と除去等
この2つは、経営管理者によってなされる人間管理そのものです。経営目的を達成するために、従業員の協力を得ていくための基本的な考え方、態度、方法に関わるものです。
組織における内部的均衡の維持
会社が経営目的の達成に向けて従業員の協力を得ることができるような状態を「内部的均衡」と呼んでいます。組織が従業員に求める要求(経済的・技術的目的)と、従業員が組織に求める要求(意義のある職場生活などの社会的目的)のバランスが取れた状態にあることです。
内部的均衡を維持するためには、命令が歪曲されずに上層から下層に通達され、同じく下層の事情が、それを必要としている上層にまで通じるように、コミュニケーションの円滑化を図ることが必要です。
このことは、組織の下層に上層の経済目的を理解してもらうとともに、組織の上層に下層の気持ちを理解してもらうことを意味します。
それは、従業員が置かれている人間的状況(社会的環境、人間関係、悩みなど)に固有の社会的価値(集団の中での自分の安定感、安心感、重要感、有用感など)を十分に踏まえたうえで、モラールを維持できるような方法で、組織内部の評価、報奨、人事異動などを行うことを意味します。
経営管理者の権威
モラールは、一個人とか一集団に付属した一定の性質ではなく、個々人と彼らが働いている組織との間の動的な均衡関係です。つまり、何か決まったことをすれば維持できるようなものではなく、従業員が置かれている現在の状況を理解し、それに応じた対応をしなければ維持できないものです。
経営管理者は、その組織に固有な社会的価値の保存に適した社会的均衡条件の維持を役割としています。その意味で、経営管理者はモラールの保護者ないし保管者ということができます。この役割を担うことにおいてのみ、経営管理者は従業員に対して権威を持ちます。
このように、組織に固有な諸々の社会的価値を保持するために、経営管理者は従業員の人間的状況を診断する技能を必要とします。それは、具体的状況に目を向け、組織にとっていま現実に何が障害となっているのか、そしてそれを是正するためには、即刻どんな手が打たれなければならないかを正しく追求することにほかなりません。
この技能は一夜漬けで体得できるものではなく、繰り返し実践され続けることによって初めて熟達することができるようになります。また、人間問題は、一旦調整されればそれで万事終了といった具合のものではありません。それらはいかに巧みに処理されても、局所的な不均衡が絶えず生じるものです。
ですから、絶えず注意を怠らず、継続的に実施しなければなりません。