予期せぬ成功と失敗

イノベーションの第1の機会は、予期せぬ出来事、すなわち予期せぬ成功と予期せぬ失敗です。自社における成功と失敗であり、本来、気づくはずのものです。

予期せぬ成功は、最もリスクが小さく、苦労が少ないイノベーションの機会ですが、マネジメントの期待とは違う成功であるため、無視されたり、否定されたりしやすいと言えます。その結果、外部の者が簡単にその機会を奪ってしまいます。

予期せぬ失敗も、問題として扱われることはあっても、イノベーションの機会としての変化ととらえられることは少ないと言えます。

結局、予期せぬことを機会としてとらえるためには、マネジメントの認識を変えることが重要です。そのためには、自ら外に出て観察することです。直接見て、聞くことが、認識を変える最善の方法です。

予期せぬ成功

社内で起こる成功ですから、最もリスクが小さく、苦労が少ないイノベーションの機会です。

しかしながら、予期せぬものであるために、ほとんど無視されます。起こるはずのものではないため、存在さえ否定されることもあります。予想外であってもうまく行っているため、無視しても実害はなく、結果として気づかれることさえない場合もあります。

その結果、外部の者がその機会を利用し、大きな成功を手にすることになりがちです。

期待や経験との違い

機会として利用されない理由は、当初の期待や過去の実績、長年の経験と違うからです。

具体的には、期待していた用途と違う方法で使われたり、期待していた顧客とは違う顧客により多く購入されたりするような場合です。成功とは認識されず、異常、不健全として拒否されることになります。

あるいは、自社主力製品のおまけのような位置づけであった製品が、当の主力製品よりも多く売れるような場合もあります。主力製品を脅かすものとして、自社内で足を引っ張られることさえあります。

予期せぬ成功の拒絶は、信じられないほどに根強い反応です。

ある小さな喫茶店では、真夏の酷暑で来客が激減し、特にランチの時間帯は閑散としていました。

そんな中、ランチのテイクアウトを求めるお客が出始めました。

「ランチのテイクアウトは積極的にPRしているか」と問うと、「していない。要望があったら応じるが。」という答えでした。理由を問うと、「もともと店内で食べてもらうためにつくっているから。」とのことでした。

ランチは客単価が高く、利益率もよいため、積極的なPRを強く提案しましたが、経営者の機嫌を損ねる始末でした。

報告システムに取り上げられない

マネジメントが日頃受け取る報告システムの中では、常に問題が優先されるため、予期せぬ成功が取り上げられることはほとんどありません。意識して取り上げるという方針がない限り、問題がないと認識されるだけで、議論の対象になりません。

成功の兆候が定性的なら、数字にさえ表れません。

イノベーションの要求

予期せぬ成功は、機会ではありますが、それ自体がイノベーションに対する直接の要求です。事業、技術、市場の定義について変更を求めています。

マネジメントの視野、知識、理解の欠如を示しているにすぎない場合もありますから、それらを変えるだけで済むことさえあります。

体系的な探求

予期せぬ成功を機会とするためには、成功を認める勇気が必要です。現実を直視する姿勢であり、間違っていたことを率直に認めるだけの謙虚さが必要です。現実には、これができずに競合に機会を奪われる例が多いことを考えると、マネジメントにとって困難なことであろうと予想されます。

その前提のもとで、予期せぬ成功を探すための体系的な方法が必要です。

  • 予期せぬ成功が必ず目に留まる仕組みをつくる。マネジメントが手にし、検討すべき情報の中に適切に位置付ける。
  • 検討のために特別の時間を割く。
  • 優秀な人材を担当者に決めて、予期せぬ成功の分析、利用法を徹底的に検討させる。

見出された予期せぬ成功については、徹底的にその意味を検討することが必要です。

  • これを機会として利用することは、わが社にとっていかなる意味があるか。
  • その行き着く先はどこか。
  • そのためには何を行わなければならないか。
  • それによって仕事の仕方はいかに変わるか。

予期せぬ失敗

予期せぬ失敗は、予期せぬ成功と違って、取り上げることを拒否されたり、気づかれないままであることはありません。しかし、問題の対処として処理され、機会のための変化の兆候と受け止められることはほとんどありません。

失敗のほとんどは、単に計画や実施の段階における過失など、失敗すべくして失敗したものですから、間違いの訂正で処理できる場合が多いと言えます。

予期せぬ失敗として、変化とともに機会の存在を教えるのは、慎重に計画し、設計し、実施したものが失敗したときです。このような場合、顧客の行動の不合理さや理解のなさを言い訳にしがちです。

実際は、次のような変化が起こっている可能性があります。

  • 製品やサービスの設計、マーケティングの前提となっていたものが、現実と乖離してきた。
  • 顧客の価値観や認識が変わってきた。同じものを買っているように見えて、実は違う価値を買っている。
  • これまでは一つの市場や最終用途であったのに、ある時から市場のニーズが細分化され、まったく異質のものに分かれてしまった。

予期せぬ失敗への対応

やってしまいがちな間違いは、一層の検討と分析を指示することです。

必要なことは、トップマネジメントが外に出ることです。自らよく見て、よく聞くことです。

予期せぬ失敗は、常にイノベーションの機会の兆候としてとらえる必要があります。トップ自らが真剣に受け止めなければなりません。

外部にも目を向ける

注目すべき予期せぬ出来事は、自社だけに起こるわけではありません。取引先、競争相手、企業や産業の外の出来事にも注意を払います。マネジメントが手にできる数字や情報に表れないものです。

外部において起こる予期せぬ成功や失敗を、自社の機会として利用できないかを検討します。

ただし、自らの事業の知識と能力に合致していることが成功の条件です。事業の性格を変えるようなイノベーションの機会ではありません。多角化ではなく、これまでの事業の更なる展開です。

なお、製品やサービス、流通チャネルのイノベーションの追加が必要な場合もあります。

変化の兆候としての知覚

予期せぬ出来事は、分析することも必要ですが、前提は知覚です。変化、機会、現実、現実と認識のギャップなどに対する知覚です。分析できるほど分からない段階で観察し、見つけ出し、質問し、聞き出すことが必要です。

変化の兆候は分かっても、常にその原因が分かるとは限りません。原因が分からなくてもイノベーションはできます。

実のところ、予期せぬ出来事をイノベーションの機会としての変化ととらえることを妨げる最大のものは、マネジメントの認識です。認識を変えることができない限り、予期せぬ出来事は、無視されるか、問題として対処されるかのどちらかにしかなりません。

マネジメントの通念や自信を打ち砕いて初めて、イノベーションの機会と見ることができるようになります。