スタートアップがやるべきことは、実験を行って自分たちの条件に適したやり方を見つけることです。
したがって、スタートアップにとっての戦略は、発するべき適切な問いを見つける一助となるものでなければなりません。一つひとつの問いに答えていくことが実験です。
戦略は仮説に基づいている
事業計画は仮説から始まります。仮説を前提に戦略を立て、ビジョンの実現に向けて進んでいきます。
仮説である以上、正しいと証明されているものではありません。実際に間違っている場合も多いため、早期に検証することがスタートアップの役割です。
アントレプレナーは、仮説を体系的に検証できる組織を作らなければなりません。次に、全体的なビジョンを見失わないように注意しながら、その検証を適切に行っていかなければなりません。
事業計画の前提となる仮説は、ほとんどの場合、業界経験や素直な推論で導かれており、事実として扱うことができるものです。
しかし、そうではない仮説もあります。例えば、「顧客はわれわれが提供する製品を使いたいと強く思っていると、われわれは考えている」といったような仮説です。このような仮説こそ、全体の成功を左右する「挑戦の要」です。
要(かなめ)の部分は、多くの場合、アナロジー(類推)型の論証という形をとります。他の企業や業界で一般的に言われていることを類例として、仮説を導き出す方法です。
他の企業や業界では一般に言われていることであっても、その反例があれば、そこから仮説を導き出すこともできます。
このような類例と反例から、答えが得られていない一連の問いが明らかになり、その問いが「挑戦の要」となり得ます。
成功と失敗を分ける鍵は、アントレプレナーが、計画の中のうまくいっている部分と道を誤っている部分を見分けられるだけの先見性と能力とツールを持ち、戦略を状況に順応させられるかどうかです。
挑戦の要となる仮説のなかでも重要度が高いのが「価値仮説」と「成長仮説」です。
価値仮説とは「われわれが作ろうとしている新しい製品は顧客にとって価値を生み出す」とする仮説です。これに関しては、新しい製品が基本的に価値を生み出すのか、破壊するのかを検証しなければなりません。価値といっても、利益を意味するだけでなく、社会的価値を意味する場合もあります。
成長仮説とは「新しい製品を中核とする事業が持続的に成長していく」とする仮説です。スタートアップの成長理由を理解しなければなりません。
現地・現物
スタートアップには、進捗状況を的確に評価できる定量的な財務モデルを導けるだけのデータがないことがほとんどです。ですから、スタートアップ初期の戦略はどうしても勘頼りになりがちです。
だからこそ、顧客を実際に確認して理解し、それをベースに戦略的な意思決定を行うことが重要です。トヨタ生産方式における「現地・現物」、すなわち自分で行って見ることです。
事務所を出る
定量的なデータは雄弁ですが、評価尺度の実体はあくまでも人であることを忘れてはいけません。
顧客や市場、サプライヤー、チャネルなど、集めなければならない情報は、事務所の外にしかありません。特にスタートアップは、見込み客とのコンタクトを重ねなければそのような情報は得られないので、出歩いて情報を集めなければなりません。
まず確認すべきことは、挑戦の要となる仮説が現実に即しているかどうかです。また、どうしても解決したいと思うほど深刻な問題を顧客が抱えているかどうかです。
最初に顧客と接するときに求めるのは、どういう人が見込み客なのか、また、彼らがどういう問題を抱えているのかを大まかに理解することです。これによって、顧客の人間性を記した文章という形で「顧客の原型」を作ります。
これを基に製品開発を進め、訴求したいと考える顧客に合わせて製品チームが日々行う意思決定に優先順位をつけていきます。
ただし、顧客の原型もまた事実ではなく仮説であると考えるべきです。顧客の特徴は暫定的なものだと考え、その顧客に対して持続的に対応できる戦略であることを検証による学びで確認します。
分析による停滞
市場調査を行い、顧客と話をするときに陥りやすい危険が2つあります。
一つは、戦略の分析を怠り、顧客と通り一遍の話をしただけで、「とにかくやってみよう」とすぐに開発を始めようとすることです。
顧客は、自分たちが何を望んでいるのかをよく分かっていないため、このようなやり方では正しい道を進んでいるという錯覚に陥るだけになります。
もう一つは、「分析による停滞」と呼ばれる現象です。計画の改定を繰り返してばかりで先に進めなくなることです。
戦略に問題があるのは、大抵の場合、基礎にした理論や論理がよくないからではなく、基礎にした事実が間違っているからです。そのほとんどは、製品と顧客の微妙な関係によるものであるため、分析によって間違いに気づくことはできません。
この2つの危険を避けるためには、いつ分析を止め、製品開発にかかるべきか、そのタイミングを見極める必要があります。