リーダーシップの実験および事例 − 「人間関係論」とは何か?㉕

リーダーシップの実験として有名なのは、約10歳の少年たちに放課後のクラブで様々な手工をしてもらうことで、リーダーシップの効果を測ったものです。

子どもたちは、いくつかの集団に分かれ、それぞれ専制的、民主的、放任的なリーダーにつきました。

民主的リーダーは、集団の自然発生的過程を促進し、その時の状況に最も適合した集団構造に達するのを援助する触媒の役割を果たしました。専制的リーダーは、成員の希望よりも自己の希望を反映した構造を集団に課しました。放任的リーダーは、全くリーダーではありませんでした。

実験は繰り返し行われ、民主的リーダーシップが仕事の質と量のいずれにおいても優越していることが分かりました。同じ少年たちが交代で異なるリーダーについた場合でも、効果は同じであり、明確でした。

専制的リーダーの効果

専制的リーダーのもとでは、集団の内部に2通りのタイプの行動が生み出されました。一つは攻撃性の著しい増大、もう一つは無感動です。

攻撃は、自分たちを拘束するリーダーに対する憤慨であり、リーダーを怖がって間接的に攻撃する形で現れました。

話しかけられても聞こえないふりをしたり、間違って(と言いつつ、おそらくわざと)規則を犯したり、時間の終わる前に引き上げたり、材料を損じたりしました。ストライキも起こしました。

これらはリーダーに対する攻撃ですが、少年同士でもお互いに攻撃的になりました。集団で一人をいじめることもありました。明らかに「転移」であり、リーダーの代わりに攻撃されました。

クラブが終わったときには、製作物を壊し始めたといいます。

無感動な集団は、面接中に嫌悪や憎悪を示しましたが、公然とリーダーを避難したり、他の対象に憎しみを転移することはありませんでした。

リーダーがいる場では、固くなり、ぼんやりし、服従的でした。リーダーがいなくなると仕事を放り出し、走り廻り、叫び出しました。

このような少年たちの行動は、産業集団における行動ときわめて類似していました。このような産業集団では、経営者が従業員に対して不平を言いますが、実際のところ、経営者の専制が原因であることを示唆しています。

放任的リーダーの効果

放任的リーダーの集団は、混乱し、まとまりがありませんでした。

成員は、高度の攻撃性を示しましたが、専制的集団で明らかであった緊張は見られませんでした。

仕事は何も行われませんでした。

民主的リーダーの効果

民主的リーダーの集団では、成員たちはリーダーを尊敬し、「われわれと共に働き、われわれと同じようにいろいろなことを考える立派な人」と評価しました。

彼らはクラブを待ち望み、一緒によく働き、建設的でした。何事においても「われわれの」と表現されました。仕事の質も量も優れていました。

なお、集団の成員の入れ替えが行われ、同じ実験が繰り返されましたが、同じ結果が得られました。つまり、成員の行動は、個々のパーソナリティとは無関係であり、集団構造に大きく依存していることが分かりました。

実験の結論

この実験は何度も繰り返され、同じ結果を示したことから、次のような結論が導かれます。

  1. 民主的管理の優越性。
  2. 規律は常に欠くことはできないが、民主的集団が自らに課した規律と、専制的集団に外部から課された規律との間には、大きな相違があること。
  3. 実験的につくられた専制的集団の成員の行動と、産業界の多くの集団において、経営者によって不平が言われる従業員の行動との間には、非常な類似があること。
  4. 管理の民主的方法は、低い知性、自己中心のパーソナリティ、感情的偏見といった欠点をいずれももっていない、調和のとれた、知性的な人なら誰にでも教え伝えることができること。

民主的リーダーシップの事例 − TWIと労働大隊

アメリカで考案された企業内訓練計画(Training Within Industry = T・W・I)は、英米で活用され、産業における人間関係を取り扱う方法を提供しました。

「部下の取り扱い方」(Job Relations Training)という講習は、監督者に「よき監督とは、監督者がしてもらいと欲することを、なされるべきときに、してもらいたい方法で、部下にさせることを意味する。というのは、部下もまたそれを欲するがゆえにである。」ということを教えました。

「部下の取り扱い方の手引」では、「監督者は部下を通じて成果をあげる」、「部下は個人として取り扱わねばならない」、「仕事ぶりがよいかどうか本人に言ってやる」、「よいときは賞める」、「当人に影響ある変更は前もって知らせる」、「当人の力をいっぱいに活かす」ことが示されています。

民主制は、専制よりはるかに規律が必要であり、厳しいことは明らかです。責任は集団にあり、集団の意志が強力で支配的で、社会的圧力が個人を同一歩調に強制します。

このことは、軍隊で民主的方法を利用して素晴らしい成果を得ていることからも分かります。

第一次世界大戦中に、英国陸軍が、もっとも愚鈍で、見込みのない人々と言われたフランス労働大隊に対して、次の対策をとりました。

  1. 人々はその組の成員として取り扱われ、中隊が編成された。
  2. 遂行した仕事の記録がつくられ、公表されたので、有能な中隊は、自らの技能と成果とについて特別の誇りを感じ始めた。
  3. 各中隊には一定の仕事が与えられ、それを果たすのに十分な時間が与えられ、仕事が終わり次第、営舎に帰ることを許された。より多くの余暇が取れることが刺戟として利用された。
  4. 微に入り細に渡って命令を与えられる代わりに、してもらいたいことをのみを伝えられ、仕事の責任や、能率的に仕事を果たす方法についての決定は、労働中隊に一任された。

これらの対策により、生産は増大し、指揮する者と部下との間の摩擦は取り除かれました。単調で決まりきった仕事が、頭を使い、工夫し、積極性を伸ばし、実験する仕事へと変わりました。

人々は、理解し得た事柄についての決定を下し得る範囲が分かり、道具のような存在から協力者に変わりました。労力は無駄なく活用され、生産協力者という新しい位置において幸福でした。

特に4.に関して、産業の現場では、仕事のやり方について経営者が指示をする際、「なぜそうするのか」を説明しないことが多いようです。経営者は「なぜ説明しなければならないのか」と反問しますが、この態度こそが紛争の原因になっています。