管理者のチーム − 「X理論」と「Y理論」⑲

ラインとスタッフの関係を適切なものにしようとするとき、命令の統一や責任・権限の一致などの原則を厳格に適用しようとするかもしれませんが、そのような原則は、組織の成果とはほとんど関係がないといいます。

ある会社の事業部では、ラインとスタッフの区別が全く無視されていました。スタッフが直接権限を行使したり、ラインが助言を与えたりしていました。

それにもかかわらず、両者の間には摩擦や敵意がなく、その事業部は優れた経済的成果をあげていました。

この成果を説明する手がかりは、ライン部門およびスタッフ部門の各管理者とその直属の上司である事業部長との関係にありました。彼らが創り出すチームワークが素晴らしいものだったのです。

彼らのチームは、共同して設定した目標を納得し、それを達成するために協力して働きました。

彼らの関心は目標を達成するために仕事を片付けることであり、そのためによいと思われる手段は何でも使いましたので、非公式な協力も厭わず行いました。

その事業部に属している従業員は、彼らの態度を見習っていたため、事業部全体に同様の協力が浸透していました。

この事業部の特徴を唯一あげるとすれば、真に目標が統一されていることでした。これによって、命令の統一や権限・責任の一致、ラインとスタッフの区別などといった公式の手続きが不要になっていたのです。

チームワークの重要性

目標を統一することが重要であることを理解しない管理者はほとんどいません。しかし、これが実現するためには、堅く結ばれたチームでなければならないことは必ずしも認識されていないようです。

ほとんどの管理者チームあるいは経営チームは、上司と部下との個人的な関係の寄せ集めであり、互いの間では権力を巡って競争している関係です。

このようなチームでは、目標に向かって協力するどころか、足の引っ張り合いや日和見主義が生じるであろうことは想像に難くありません。

経営首脳部に対するある調査の結果によると、チーム内でのコミュニケーションの85%は部下と上司との間のものであり、部下同士の横のコミュニケーションは15%に過ぎませんでした。

チーム内での部下同士の協力関係が作れないのは、部下の責任ではなく、その上司の責任です。個人のみを管理しようとし、チームを作ろうとしていないからです。

一般に、人は集団活動で目標を達成することがおそろしく下手であると、マグレガーは指摘します。

その原因は、上司が部下との個人的関係をうまく扱うことばかりを重視し、集団活動に十分な時間と注意を割いていないからであるといいます。

管理者が、集団という環境の中で、個人の成長と統一のための条件を作り出す方法を知らないことが問題です。集団行動についての研究が進んでいなかったことも影響していました。

その後、クルト・レヴィンらによる集団力学(グループ・ダイナミクス)の研究が進みました。集団の行動には重要な局面があり、これを集団の力の場として研究した結果、集団活動には他の人間活動と違う特性があることを発見しました。

集団行動の研究成果によって分かったことは、まず、専門家が自分の目的のために集団を操る技法はないということです。

さらに、集団自体で効果的な意思決定を行い、問題を解決することができるということです。責任を負い、意思決定し、革新することができるのは個人だけであるという考えは間違いです。

チームワークの良否

マグレガーは、うまくいっている集団と問題のある集団のそれぞれの特徴を列挙しています。

うまく行っている集団は、メンバーにやる気がみなぎり、参加意識が高く、率直な意見交換を忌憚なく行います。リーダーは決して集団を支配しようとはせず、その時の必要に応じて、相応しい知識や経験を有する者が自然とリーダーシップをとります。

うまく行っていない集団は、各人が個人主義で、集団への参加意識がありません。積極的な意見交換が公式に行われず、誰もが意見の衝突を避けようとし、声の大きな少数派が議論を占領します。それにもかかわらず、裏で批判が常に行われています。

うまく行っていない集団では、相剋や敵意に対する恐怖が支配しているため、お互いに協力し合うよりは、妨害するような行動をします。

また、「集団がうまくいくかどうかは専らリーダーに左右される」という誤った考えによって、一人ひとりが責任をもって集団に参画する意識が足りないことも原因の一つです。

優れたチームを作るためには、リーダーだけでなくすべてのメンバーが、優れた感受性と理解力と技法を持たなければなりません。本当に有能で手慣れた集団では、指名されたリーダーがいなくても、メンバーが事実上うまく運営することができます。

チームワークの可能性

お互いに顔を突き合わせている集団は、個人と同じように組織の単位として重要です。個人と集団は相対立するものではありません。本当にうまく行っている集団では、個人も満足することができます。

チームワークと集団活動によって、調整と統制という会社の問題を解決できますが、そのための条件があります。

まず第一に、個人と集団の価値が対立せざるを得ない、すなわち、個人の価値を犠牲にしないと集団の価値を達成できないという考え方を捨てなければなりません。

第二に、集団活動がうまくいくかどうかを左右する要素を理解することと、それを利用する技法の習得に重大な関心を払う必要があります。

重要なのはむしろ、集団のリーダーよりもメンバーであり、リーダーシップの技法よりもメンバーとしての技法を習得することです。

第三に、集団に向く行動と向かない行動との区別を学ぶ必要があります。

最後に、管理者チームは、統合と自己統制による経営によって自ら生まれてくるものです。命令統制による経営において、管理者チームを利用しようとしてもうまく行くことはありません。

以上の条件に合致する限り、いくつかの重要なことが分かります。

  1. 集団による目標設定は、個人の目標設定に見られない利点がある。両者は相互に相補う。
  2. うまく行っている管理者チームは、個人の育成の最善の場となる。管理者は自分以外の職能をこれまで以上に理解し、真の意味での協力の必要を認識するようになる。また、問題解決技法や人間関係を磨く絶好の道場である。
  3. 個人目標を設定したり、個人の業績評価ができない場合は、集団に多くの重要な目標を設定し、業績評価してもよい。団結力の強い集団のメンバーは、少なくとも個人の目標を達成する場合と同様に、懸命に集団の目標を達成しようと努力する。
  4. うまく行っている管理者チームにおいては、目標の統一をすることによって、会社の目標達成に有害な個人競争をできる限り少なくすることができる。これで個人の意欲を滅殺することはない。

組織は個人関係の一つのパターンではなく、集団関係のパターンです。複雑で、相互依存的で、協力的な企業を、個人的な関係から成り立っているという前提に立って運営することはできません。

人間は、お互いに顔を突き合わせた集団内で、同僚と協力する能力があるということを、管理者は認めなければなりません。